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スタッフからの便り(スタッフ日記)

所長のミパド-貧困に挑む移動図書館活動


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「危ない。人が倒れている。避けろ。止まるな。一気に進め」。次々と短い言葉が車の中で飛び交い緊張が走った。車のライトに照らされて道路の右側中央に、若い男が倒れているのが見えた。身動き一つしない。その脇には、バイクが転倒していた。3月12日。夜7時半。国道6号線をプノンペンから北へ2時間の山の中での出来事。「道路の真ん中に人が倒れているのを無視して、通り過ぎるのか」。下手に止まれば、トラブルに巻き込まれて、こちらの命が危ないという。止まれば、目撃者もいない夜、こちらが被害者になる可能性もある。また、止まったら車を略奪されたり、撃たれる可能性もある。翌日のコンポントム州の僻地の農村での移動図書館活動へ向かうための移動中の出来ごとだった。

翌日は、コンポントムの県都から西へ四輪駆動の車で1時間半かけて、プラサットサンボー郡の小学校に着いた。乾期でも四輪駆動でないと村まで辿り着けない。雨期なら四輪駆動でも辿り着けない。雨期は、川のあるところは、ボートで移動し、さらにバイクで移動するしかない。小学校に到着すると移動図書館車の周りに子どもたちが一斉に集まってきた。校舎は、今にも倒壊寸前。2教室に140人の生徒。教室といっても机と黒板があるだけ。子どもたちには、教科書も本も全くない。

小学校の先生に聞くと、子どもたちは、今日、生まれて初めて色の着いた本を手にする日だという。子どもたちだけでなく村の大人たちも一杯集まってきた。子どもたちを集めて、木の下でのSVAの図書館スタッフ、別名、カンボジアの「お話お兄さん」によるカンボジア製の「紙芝居」「読み聞かせ」が終わると、子どもたちが待ちに待った「自由読書」の時間。車から降ろしてあった木製の本箱に一斉に子どもたちが、走った。一斉に口をパクパクしなから声を出して、絵本を読み出した。大げさに言えば、生まれて初めての「本との出 会い」。校舎と子どもたちだけを見ていると今から27年前に私たちが、タイ・カンボジア国境の難民キャンプでの移動図書館活動を始めた時と全く同じ様子だった。

平和にはなったが、27年間、カンボジアの僻地農村では時間が止まっていたのかとため息が出た。小学校に教科書が無くて、どうやって教育が出来るのか。折角、学んだクメール文字を読む喜びを知らない。小学校の先生の1年目の給料は、ゼロ。無給のインターンかボランティア同然。この厳しい状況の中で、よく教師として子どもたちの教育を支えている。

「貧困とは、単に衣食住医に欠く状態だけではなく、自らの明日を選択する機会があるかどうか」。一人でも多くのカンボジアの子どもたちが、貧困から抜け出すための教育。本を通して知識を得て、世界を広げる活動の実践を続けるしかない。 それには、教育のみならずに、子どもたちに教科書や本が届けられる道路等のインフラ等の整備も不可欠。治安、政治的安定も不可欠だ。一歩幹線道路から外れた地方の農村の村の教育事情は、カンボジアの教育事情を写す鏡だと思った。

それにしても、子どもたちの本を読む輝く瞳。前夜の道路に一人倒れていた、若い男性の姿。カンボジアの地方の現実。希望と絶望を見た気がした。

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写真:絵本に目を輝かせる子どもたち

八木沢克昌


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