忘れもしない昨年の6月6日。私たちの目の前で、プノンペン最大のスラムの一つバサック・スラムの人々が、1000人を超える武装した警察、機動隊の前に長年住んだ生活の拠点の家を一瞬の内に壊された強制立退きからまる1年が経つ。スラムの人々は、プノンペン市内から17キロ離れた郊外のアンドン村の何もない田圃の中に放置されてしまった。当初、約束された土地を得た世帯は、立退きにあつた1800世帯の内、政府から土地を得たのは、500世帯。
土地を得たといっても、市内から17キロも離れた田圃の中には、仕事は無い。仕事がないということは、スラムの人にとっては、生活の糧、食べることが出来ない「死」を意味する。仕事が無いだけではなく、安心して飲める水もない。電気も無い。十分なトイレも無い。衛生状態も劣悪。生活出来る環境には無い。最初、1800世帯いた住民も約半数が、また、プノンペンのスラム等に親戚・知人を頼って戻ってしまった。今、残っている人たちは、行く場所がないのと、もしかして政府から土地がもらえるかもしれないという僅かな望みを託して今の村に留まっている。一家の働き手である男たちは、プノンペンの街で日銭を稼いで、週に一回程度家族の住むアンドン村に戻ってくる。毎日、プノンペンに通えば、交通費、バイクのガソリン代で稼ぎは消えてしまう。
住民たちは、雨期が始まり極度に衛生状態が悪くなっている。住民の住む家は、災害地の緊急の仮設テントか難民キャンプの初期の状態。ちょっと雨が降れば、屋根からそして、地面から水が家の中に浸水してくる。そして、安心して飲める水がないために子どもたちの皮膚病や下痢等が深刻。強制立退き先のアンドン村の住民の半分以上は、子どもたち。SVAカンボジア事務所では、アンドン村の子どもたちに月2回の移動図書館活動を通して、子どもたちの心 のケアと図書館活動、移動学習センター、教育支援の活動を続けている。
現代の棄民ともいえるスラムの人々の強制立退き。現在、プノンペンには、スラムが700ヶ所以上ある。実にプノンペンの人口の3割を占める。農村、辺境と並んで、スラムは、その社会の歪みと最も深刻且つ困難な環 境の中で子どもたちが生活を強いられている。
最も困難な環境にある子どもたちを継続的に支援するのがSVAの使命。それにしても、強制立退きされた人々の劣悪極まりない生活。何故、子どもたちがこんな目に遭わなければならないのか。雨期の始まったアンドン村を訪問する度に怒りがこみ上げて来る。
手束耕治