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絵本の先にある世界

2016.2.24   ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

ハラゲー、サワッディー・カー

シャンティ国際ボランティア会ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所で研修生としてお世話になっている渡邉唯亜です。1ヶ月という研修期間も,とうとうわずか三日を残すのみとなりました。今週末の帰国を目前にしてブログを書く機会をいただいたので,自分の振り返りもかねて感じたことなどについてまとめてみたいと思います。

現場を見たい

現場を見たい

皆さんは第三国定住という言葉をご存知でしょうか。第三国定住とは,難民が一次庇護国からさらに別の国へ移り定住する制度のことで,日本でも僅かですがミャンマー難民が第三国定住しています。私はこの第三国定住に興味を持っており,難民と受入地域住民の関係性をより望ましいものにする方法を模索しています。そしてこの関係性の構築において,最も重要な役割を担うのは難民の子どもたちであると考えています。

しかし私はこれまで,文章化された難民問題しか知ることが出来ずにいました。私が知り得る「数や属性で表されている難民」と,「生身の人間である難民」との大きな隔たりを感じていた時,偶然シャンティが海外研修生を募集していることを知りました。難民の子どもたちと直接現地で触れ合えるシャンティの活動は,まさにその隔たりを補間してくれるものだと感じ,私はその場で応募を決意しました。

また,難民の子どもたちと繋がる媒体が「絵本」である,というのも魅力的でした。難民が避難先でも厳しい状況に置かれてしまう理由の一つに,教育水準の低さがあります。現在の自分の状況や利用可能なサービスを正確に把握したり,誤った情報を得たときにそれを判断したりするために,難民への教育は非常に重要だと言えます。そして学校という形としての教育機会が十分とは言い難い中でも,読書は重要な学びのソースになり得るのです。事実,幼い頃から読書が大好きだった私にとって本はもう一つの学校であり,本から多くのことを学んできました。幼い子どもにも親しみやすい絵本という形をとったもう一つの学校を提供するというシャンティの活動に心惹かれて,からいものが苦手であるにもかかわらずこうしてタイの地を踏むことになったのです。

支援の手の届く範囲

支援の手の届く範囲
この研修期間中に,私はメラ,ウンピアム,ヌポ,メラウ,メラマルアンの5つの難民キャンプに行くことが出来ました。シャンティが事業を行なっているタイ公認の難民キャンプはこれにタムヒン,バンドンヤンを加えた7つがあります。1ヶ月でこれほど多くのキャンプを訪問出来たことは非常に幸運で,私自身とても密度の濃い時間を過ごすことができました。

一口に難民キャンプと言っても,キャンプ内の雰囲気からキャンプに至る道のりまで,状況は本当に様々です。メーソットから車で1時間ほどで行けるメラキャンプは人口,規模共に最大であり,教育の中心として(ある意味)賑わいを見せています。一方で,ヌポやウンピアムキャンプは”とんでもない”山道を車で6,7時間以上走らせてようやく辿り着くような場所にあり,電気や教育も決して潤沢とは言えません。”とんでもない”というのは本当に文字通りで,舗装されていないのはもちろんのこと,45度を越えるのではないかという傾斜,すぐ横は崖であるにもかかわらず車が弾むほどの凹凸など,しっかり掴まっていないと車内でミキサーにかけられているような状態になります。私は何度も隣に座っていたインターンに全体重をかけて体当たりをしてしまいました。この道を運転していくドライバーさんの運転スキルと精神力には畏敬の念を抱くほどです。

この道の険しさは,そのまま支援の難しさの一因となります。道と形容するのも躊躇ってしまうような山中を延々と車を走らせ,ライフラインが不十分な場所で活動をするとなったときに,果たしてどれほどの団体が手を挙げるのか。気持ちや金銭の問題を超えて,私たちの意志が問われるところでしょう。

地域に寄り添う

地域に寄り添う
シャンティのコミュニティ図書館はその名が示すように,単に図書館としてだけではなく公民館のような憩いの場としての役割も果たしています。図書館員たちによって華やかに飾りつけられたひさしをくぐるとすぐに子ども向けの部屋となっており,開館時にはドアは常に開け放たれています。そのため面白そうな活動や図書館員たちによる読み聞かせが始まると,通りかかった子どもたちがそれに気づき,次々に入ってきます。私が図書館にいる際も,通りかかった子どもたちは見慣れない私に興味津々な様子で,手を振ると笑顔で手を振り返してくれたり,図書館に入ってきて私の隣で本を読み始めたりしていました。また,シャンティの職員が図書館員たちに研修を行なっている際も,子どもたちがいつの間にか後ろで一緒に話を聞いていることもあります。このように,コミュニティ図書館は,図書館の内外を問わず地域全体を結びつける,コミュニティの「縁側」のような場所となっていました。

また,図書館自体もコミュニティに寄り添った作りになっています。道の凹凸が激しく,家の床もあまり丈夫ではないことが多いキャンプにいる子どもたちにとって,図書館のフラットで頑丈な床は思いっきり走り回ったり取っ組み合いをしたりするのに最適です。さらに,大人の部屋と子どもの部屋が分かれているため,子どもたちがどんなに子ども向けの部屋で騒いでいても,大人たちは静かに読書をすることが出来ます。図書館で私は,子どもの部屋で絵本を読んでいた二人の男の子がそろそろと大人の部屋に入り,絵のない本を読もうとしているところに出会いました。その様子がちょっと背伸びをしているようで非常に微笑ましく,まさに図書館が子どもたちの成長にも寄り添っていることを表しているようでした。

往くべき先は

往くべき先は
キャンプ内で色々と話を聞いている際に,第三国定住についての話題になることが度々ありました。私が話を聞いた限りではみな,第三国定住には前向きのようでした。図書館員の中にも,来月にはアメリカで第三国定住が決まっているという人が何人かいます。しかし話をたくさん聞いていく内に,第三国定住が出来る難民は本当に限られているという現実を痛感しました。第三国定住を望む難民は多いようでしたが,スクリーニングが厳しいことの他にも,第三国定住をしたくても出来ない理由がたくさんあったのです。難民申請を受けていなかったり,家族の中に1人だけ難民ではない子どもがいて置いていくわけにはいかなかったり…。第三国定住を支援する団体があっても,ほんの少しその支援対象から外れてしまうと支援を受けることが出来ない,という実情もあります。支援する以上対象を明確にする必要はあるのですが,支援が必要な人びとにも線引きがされてしまうことに非常にもどかしい気持ちになりました。

一方で本国帰還については否定的な意見が多く聞かれました。年配の方たちはもう二度とミャンマーには戻りたくないと口にし,若い世代は生まれが難民キャンプである場合もあり帰還するという意識を持ちにくいようでした。ミャンマーは現在大きく内情が動いていますが,今のところ大きく変わった様子もなく,身の安全や就業機会がまだ不透明であるといったことも理由の一つとなっています。

キャンプではすでに一時避難ではなく生活を営む場所になってしまっている,という話をよく耳にしますが,実際にキャンプに入ってみると雰囲気の穏やかさから同じような印象を受けました。しかし,第三国定住や本国帰還についての話がこれだけ多く出てきて,みな自分の将来に対する意思を持っているということは,難民の間にもキャンプは通過点であるという意識があることを示しているように思われます。生活を営む場所であるということと,通過点であるということは,それほど相反するものではないのかもしれません。

Hello world

Hello world

これまでの研修を通して,自分の環境などを鑑みる契機が非常に多くありました。メーソットにある学校で,「僕も幼い頃からちゃんと教育を受けていたら,大学とか大学院に行きたかったんだ」と言われたこと。生計を立てるために重い荷物を背負って険しい山をひたすら歩く人たちに会ったこと。メタラという山奥の村で,電気もプライバシーも殆どないような生活を一週間経験したこと。これらをどのように咀嚼していけばいいのかまだ分からない,というのが正直なところです。ただ,これらと向かい合うには,私にはまだ自分の人生に対する真摯さが足りないと感じています。自分の未熟さを感じることが出来たことが,私にとって今回の研修の成果であったように思います。

また,実際に難民キャンプに赴いてみて,シャンティの活動は,現在の読書機会だけでなく,読書からの学びを通して将来の可能性をも提供するものだと感じました。第三国定住という制度一つを取ってみても,私が興味を持っていたような定住後の支援や,来るべき将来に向けて知識を蓄えるシャンティのような支援など,様々なアプローチがあります。この事実を知ったことで,私の将来の幅も広がったような気がしています。

私がタイに来たのは先に述べたように,文章化されたものの先にある世界を見るためでした。しかし,私が世界を見たいと思ったのは文章化されたものによってその存在を知ることが出来たからです。今,難民の子どもたちはシャンティのおかげで図書館を通してその世界の存在を知るところまで来ています。難民の子どもたちにも私のように世界を直接見れる日が来ることを祈るとともに,自分がその道の整備に携われるようになりたいと切に思います。

最後になりましたが,今回このような機会を与えてくださったシャンティ国際ボランティア会さま,国内外でサポートしてくださった日本人職員の皆さま,難民キャンプ内で様々な経験をさせてくださった現地職員の皆さま,私を妹のようにかわいがってくださったインターンを始めとするここで知り合った皆さま,そしていつも支えてくれている家族には本当に感謝しています。研修最終日までしっかり走り抜けていきたいと思います。

謝辞
本当は言葉を尽くしても足りないと感じているのですが,さしあたり5言語分の感謝をここで表したいと思います。

本当にありがとうございました!
Thank you so much!
コップ・クン・カー!
ターブル・パー・ドー!
チェイズー・ティン・バーデー!

渡邉唯亜

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