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2020.02.27
海外での活動

ラオスの世界遺産の街、古都ルアンパバーンのジレンマ、観光客が増え続けて何が起きているのか 

ラオス

アジア地域ディレクターの八木沢です。ラオスとの出会いから36年目の以外な驚きの話です。

「ラオスにいったい何があるというのですか?」村上春樹の人気の紀行文のタイトル世界遺産の街のルアンパバーンは、その舞台となりました。私がラオスを初めて訪れたのが1984年。ルアンパバーンを初めて訪れたのは2003年。私たちが支援した世界遺産の建物を活用したルアンパバーン県立図書館の修復整備事業を行うためでした。観光客もまだ欧米人と日本人と隣国のタイ人などと地元のラオス人が中心で素朴な顔のルアンパバーンでした。現在は、シャンティの事務所もあります。

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観光客に大人気のルアンパバーンの街の中心の通りの朝の托鉢体験は撮影会の様相

世界遺産、古都ルアンパバーンの街並み
世界遺産、古都ルアンパバーンの街並み(プーシーの丘から撮影)

ルアンパバーンでの楽しみは、歩ける距離にある歴史ある仏教の寺院が並ぶ街並みと伝統と生活文化、悠久の自然とメコン川。街の歴史と生活文化が世界遺産。メコン川の畔で夕陽の沈むのを見ながら東南アジアで一番旨いと評判のラオスのビ―ル「ビアラオ」を飲むことは、ビ―ル好きにとっては至福の時間。飲めない人にはすっきりした味で人気のラオスのコーヒーも嬉しい。

市内の中心部を流れるメコン川と「ビアラオ」
世界遺産の街の中心部を流れるメコン川と「ビアラオ」 東南アジアで一番旨いと評判だ

東南アジアで一番旨いと評判のビアラオの美味しさの秘密は、朝日新聞GLOBE+八木沢のコラム「ミパドが行く!」から読むことができます。

ラオスには、東南アジアで一番旨いビアラオがあるんじゃないですか:朝日新聞GLOBE+

まだ新型コロナウイルスが問題になっていない2020年の正月にルアンパバーンを訪れました。ラオスで最も荘厳な托鉢と言われる朝の僧侶の托鉢。暗い朝の4時に起床して3日間連続で見続けた托鉢。バンコクに戻る日の最後の最後の朝にまさかの驚きの光景と出会いました。

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ラオスで最も荘厳と評判のルアンパバーン朝の僧侶の托鉢(2015年)

世界遺産の街の朝は、僧侶の托鉢で始まる

ルアンパバーンは1995年にユネスコの世界遺産に指定されました。以来、世界遺産のブランドからか観光客が押し寄せるようになりました。毎年のように欧米の新聞や旅行雑誌に「世界で一番訪問したい都市」の上位にランクされています。古い寺院とフランス植民地時代の建物が独特の雰囲気を醸し出しています。街の中心を大河メコン川が滔々と流れています。

メコン川沿いには古い寺院とお洒落なカフェが並びインターネットも充実。ラオス料理も素朴で野菜やハーブがたっぷりでヘルシー。

世界遺産の寺院と自転車で回る観光客
世界遺産の寺院と自転車で回る観光客

ルアンパバーンで最も美しいというワット・シェントン
ルアンパバーンで最も美しいというワット・シェントーン

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観光客に人気のナイトバザ―ル

東南アジアで一番旨いと評判のラオスのビ―ル「ビアラオ」とラオス料理
東南アジアで一番旨いと評判のラオスのビ―ル「ビアラオ」と素朴でヘルシーなラオス料理

観光客が増え過ぎて、街の空洞化で住民が消え托鉢が成り立たない、それを観光客が支える

ルアンパバーンの街の中心にはお洒落なレストラン、ホテル、ゲストハウス、土産店などが軒を連ねます。街中に住んでいた住民は、ベトナムや中国などの資本に住んでいた家を売って郊外へ移住してしまいました。街の中心では地域住民が減り、街の空洞化が進んで伝統的な僧侶の托鉢が成り立ちません。それを支えているのが観光客の托鉢体験です。

増え続ける観光客により歴史的、伝統的な景観・文化的な魅力が失われつつもあります。ゴミや汚水排出による環境の汚染や悪化も深刻。経済効果は、世界遺産に指定された一部の地域に限定されているなどの課題もありました。こうした事を「オーバーツーリズム」や「観光公害」とも呼ばれています。

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観光客で溢れて托鉢の撮影会の様相 モチ米がプラスチックの籠へ

驚きの僧侶からモチ米が子どもたちのナイロンの袋へ

ルアンパバーンの街の中心部の観光客が集まるサッカリン通りの托鉢の最後の最後の列に子どもたちが座って並んでいました。ルアンパバーンの托鉢の様子を17年間見てきましたが、初めてこんな光景を見ました。僧侶たちが鉄鉢から直接に子どもたちのナイロンの袋に入れていました。

普通は信者から僧侶へのモチ米などの托鉢を通しての喜捨。ここではモチ米が信者から僧侶、そして、僧侶から子どもへとモチ米が回っていました。托鉢で僧侶の鉄鉢の中に喜捨された食べ物を寺院で集めて、僧侶が食べた後に信者が食べるのは普通。僧侶から直接に托鉢の時に子どもへとは初めて見た光景だった。子どもだから直接だったのか?特別の日だったのか?残念ながら僧侶が子どもたちのナイロンの袋にモチ米を入れている写真は撮れなかったのが悔いでした。

僧侶の托鉢の鉄鉢からモチ米を分けて貰うのを待つ子どもたち
僧侶の托鉢の鉄鉢からモチ米を分けて貰うのを待つ子どもたち

僧侶からモチ米を分けてもらい持ち帰る子どもたち
僧侶からモチ米を分けてもらい持ち帰る子どもたち

人気の世界遺産の街のオーバーツーリズムのジレンマ

中国の援助で建設すれてるラオス初の本格的鉄道の建設現場 
中国の援助で建設するラオス初の本格的鉄道の建設現場 2021年12月開通の予定・ルアンパバーン郊外

ルアンパバーンのあるラオスは内陸国で産業にも乏しい。世界遺産の街を少し外れると貧困問題を抱えている。少数民族も多く住む電気や水道のない農村や山岳地帯も広がる。世界遺産の街と貧困は隣合わせという現実があります。

最初に托鉢のモチ米がプラスチックの籠に捨てられているように見えた時は衝撃でした。多くの観光客も怪訝そうな顔で見つめて写真に収めていました。折角、喜捨したモチ米が捨てられると思いました。地元の老僧に訊いても、寺院ごとに集めて地元の貧窮者に分けているから、との説明だったがどうにも複雑でした。

子どもたちがナイロンの袋に入ったモチ米を担いで嬉しそうに歩いて帰る姿を見て、「ポーペンニャン」(ラオス語で気にしない)。これで安心しました。観光客からの托鉢が回り回って貧困層の子どもたちや家族に分けられている。ここに世界遺産の観光地のジレンマがあるのと同時にラオスの仏教の慈悲の知恵と深さをも見た気がしました。

ルアンパバーンの600年以上も続いてきた街と生活の文化、隣国シャムやベトナム、ミャンマー、中国などの侵略、フランスの植民地やラオスの革命と仏教の弾圧を乗り越えてきたラオスの仏教の奥の深さと人々の篤い信仰をしみじみと知りました。メコンの流れのように時代と共に「諸行無常」と変わるのだと思いました。

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ルアンパバーンの中心部を流れるメコン川に沈む夕日

新型コロナウイルス問題でルアンパバーンの街から中国からの観光客は激減してしまったそうです。鉄道の建設工事も労働者が春節の後に中国から帰れないで、これから一体どうなるのか? 本当にこれからどうなるのか世界遺産の街が心配です。

街を見下ろすプーシーの丘から モン族の正月を祝う大学生
街を見下ろすプーシーの丘から モン族の正月を祝う大学生

アジア地域ディレクター
八木沢