2017.06.15
海外での活動

難民キャンプの幼児教育

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

こんにちは。
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の菊池です。

先日、メラ難民キャンプの保育所の保護者会に出席し、コミュニティ図書館活動について話をする機会がありました。

難民キャンプの保育所は、5月に始業式があり、新学期がスタートしました。7ヵ所のカレン系難民キャンプでは、約6,000人の2歳8か月~5歳までの子どもたちが保育所に通っています。

現在、難民キャンプでは、国際支援の減少を受けて、NGOの事業撤退が相次いでおり、難民キャンプでの就学前教育(幼児教育)についても、1996年から3カ所の難民キャンプで支援活動をしてきた台湾のNGOが今年の3月で撤退しました。団体の撤退にあたり、事業をそのまま引き継げる団体がなく、昨年から何か月にも渡って教育支援関係者間で対応方法を協議してきましたが、ようやく、カレン難民委員会教育部会を中心に、教育支援NGOでも役割を分担しながら、幼児教育を支援するということでまとまり、無事に新学期を迎えることができました。シャンティでも、保育所で使う教材の印刷や文具を提供しています。
(ちなみに、その他の難民キャンプでは、カレン女性同盟が支援をしています。)
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(難民キャンプ内の保育所の様子)

幼児教育について、世界的にその重要性が認識されるようになったのは、ここ約20~30年だと思います。この間、様々な研究や議論が積み上げられてきており、2007年にユネスコのグローバルモニタリングレポートで、この幼児教育がテーマに取り上げられ、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の、持続可能な開発目標4(教育分野の目標)の中に、就学前教育(幼児教育)へのアクセスが明記されました。こうした潮流の中で、先進国だけでなく、開発途上国でもその重要性が広く理解されてきています。

カレン難民委員会教育部会では、これまで初等教育~高等教育については、独自のカリキュラムや教授法で、難民キャンプ内の学校を監督してきましたが、幼児教育については、その対象から外れていました。今回、NGOの事業撤退を受けて、保育所への支援が激減するという厳しい状況に直面しているのは間違いないですが、一方で、カレン族の教育システム(国の教育システムとは異なった独自のシステム)の中で、この幼児教育をどのように位置づけるのか、という重要なテーマについて真剣に考える機会になっていると個人的には思っています。

さて、保護者会には、カレン難民委員会教育部会、保育所教員トレーナー、保育所教員、NGOが参加しました。この会議では、カレン難民委員会教育部会の委員長のデボラ氏から保護者への励ましのスピーチがあった他、教員トレーナーから子どもたちの通学に当たっての注意事項が共有されました。さらに、学校から保護者へのリクエストということで、子どもの昼食作りで使う木炭購入のための寄付や、学費の支援の話が出ました。

保護者へのこうしたリクエストの背景には、難民キャンプの全体での課題でもありますが、教育分野を含めすべての社会サービスにかかる資金が少なくなっていることがあります。学校教員の給与も限られており、保育所教員の給与は月550バーツ(約1,800円)、教員トレーナーでも1か月1,000バーツちょっと(約3,200円)です。この給与で難民キャンプ内で生活していくことは難しく、教員の退職が相次いでおり、経験を持った教員が非常に少ない状況が続いています。こうした状況がありながらも、この保護者会で会った、現場で関わっている先生方は、とても熱意がありました。

この保護者会で、長年保育所教員として勤務している一人の女性が立ち上がり、保護者に訴えました。
「これまで、学期の途中で、親がキャンプの外に働きに出るため、子どもも一緒にいなくなってしまうことがありました。幼児期の子どもたちの学びは、とても大切です。子どもたちから学びの機会を奪わないでください。私はこの仕事に誇りを持っています。私の知識、経験、すべてをもって子どもたちに接したいと思います。」この姿は、とても印象的でした。

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(保護者に説明をする保育所教員トレーナー)

コミュニティ図書館と保育所は、長い間協力関係を築いてきました。保育所のタイムテーブルの中に、「読み聞かせ」が含まれており、保育所の教員がコミュニティ図書館からよく絵本を借りて子どもたちに読み聞かせています。また、図書館員が保育所教員に折り紙の折り方や、室内装飾、手遊び歌を教えたり、保育所教員がクラスの一環として、子どもたちをコミュニティ図書館に連れてきたりしています。

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(図書館員のおはなしを聞く子どもたち)

私たちは、「Library for All (すべての人々に図書館を!)」を掲げて、事業を実施しています。幼児から高齢者、障がいを持った人々、少数民族の人々を含め、難民キャンプのすべての人々が図書にアクセスできる環境をしっかり作ってきたいと思っています。

今回の保護者会への参加を通して、子どもたちの保護者、保育所教員、カレン難民委員会教育部会と協力しながら、引き続き、難民キャンプ内の幼児教育をサポートできるように尽力してきたいと強く思いました。

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ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 菊池