100年先も見てもらえる映像をつくりたい|映像作家・江藤孝治さん
シャンティのYouTubeチャンネルでは、事業紹介や対談、イベントのほか、活動地で撮影した動画など、さまざまな動画を見ることができます。日本からほど遠い国での活動の様子や、活動地の暮らしや課題を、日本にいながらにして感じることができるこれらの映像の多くを手がけているのが、映像作家の江藤孝治さんです。
江藤さんとの出会いは振り返ること2017年。シャンティがNHKのドキュメンタリー番組で取り上げられた際に、制作ディレクターとして長期間の密着取材を担当してくださっていたのが江藤さんでした。通常であれば密着期間が終われば、関係性は失われてしまうことがほとんどですが、江藤さんは密着終了後もシャンティの活動に関心を持ってくださったのです。
当時のシャンティは団体設立から35年が過ぎたころ。今後どのように団体として変化を遂げていくべきかを模索している最中でした。シャンティがこれまで積み重ねてきた成果や、活動の軸である「絵本を届ける運動」に関わる人の想いなどを保存して、映像など伝わる形で残していきたいと考えていたところ、江藤さんであれば共に悩みながら進めていけるのでは…と思い至り、ご一緒するようになりました。
「1回限りの出会いと、1回限りの瞬間で映像を紡ぐのがドキュメンタリー」と話す江藤さんと、これまでのシャンティとの映像制作を振り返ります。
子どもたちが絵本にふれた瞬間のみずみずしさを届けたい
最初に江藤さんと制作した映像は『本の力を、生きる力に。アジアの子どもたちに届けられた27万冊の本』と題した、絵本を手にした人々のストーリーを紹介するもので、タイ国境のミャンマー(ビルマ)難民キャンプで撮影。その後もコロナ禍に入る前まで、ミャンマーやカンボジアなど、年に1回ほどのペースで撮影のために活動地に赴いていました。
江藤さん:シャンティの活動地で映像を撮る時はいつも、できるだけ普段通りの様子をとらえられるよう、被写体に合わせて撮影を進めます。
実際に活動地に絵本が届いて、子どもたちが手にした時の熱中ぶりはどんな場所でも同じなんですよね。絵本を口に出して読み上げていたり、次から次へ絵本を選びにくる様子、届いた絵本に一目散に走る姿…制作した映像にはどれも熱中している子どもの姿があると思います。あれは演出するまでもなく、ありのままの子どもたちの姿であり、映像でしか伝えられないと思うので、そういうところをぜひ見てもらいたいです。
『本の力を、生きる力に。アジアの子どもたちに届けられた27万冊の本』
入域することが難しい難民キャンプの映像は、とても貴重な記録映像です。
団体設立40周年には、ゲストをお迎えしてシャンティ職員との対談動画も制作しました。そこで印象に残っているのが、「難民キャンプの子どもが、図書館に来ると気が晴れる、と言った」というエピソードだと話します。
江藤さん:三宅隆史さん(当時シャンティ・ネパール事務所 所長)と作家のやべみつのり先生の対談の中で出てきた、「気が晴れる」という言葉がまさにシャンティの取り組みの核心を突いていると思ったんです。空腹が満たされる、安全である、といった衣食住に関わることと同じぐらい、心の安全や救いを得ることができる図書館のような、第三の場所をシャンティはつくっているということ。尊い活動だと強く感じた瞬間でした。
(対談動画冒頭の似顔絵イラストも実は江藤さん作!)
「絵本を届ける運動」25周年特設サイトを開くと真っ先に目に飛び込んでくる映像は、ラオスで撮った最新作。図書館で絵本を読む子どもたちの様子を撮影しました。
江藤さん:「絵本を届ける運動」25周年特設サイトのトップページということで、いろいろなアイデアを考えたのですが、最終的にはシンプルで強いものがいいのではと思ったんです。子どもたちが絵本を読む時のときめきやわくわく、絵本に触れた瞬間の瑞々しい気持ちを伝えたいと思いながら制作しました。
「絵本を届ける運動」25周年特設サイトのトップ映像
「絵本を届ける運動」が「運動」としている意味
江藤さん:「絵本を届ける運動」は、一般の人を巻き込んで翻訳絵本をつくる、という点に大きな意味があると思うんです。いろいろな労力を考えたら、出版社と組んで本を送ってしまえばいいところを、参加者を全国から募って約1年かけて取り組む。
あらゆる人が手間暇かけてつくった翻訳絵本が日本から送られて、活動地の子どもたちの手に届くというプロセスがまず平和であり、「絵本を届ける運動」全体が平和をつくり出すための表現活動に思えるんです。だからこそ「運動」と言っていて、なんてスケールの大きな取り組みなんだろうと思いますし、そこに付随するメッセージや哲学、文脈を映像でもしっかり捉えていきたいといつも思っています。
もともと遠くにボールを投げるような映像をつくりたい、という思いを抱いていたところ、シャンティと関わるようになり、ますますその想いが深まったそう。
江藤さん:若林会長のメッセージ動画を制作した際に、100年スパンで物事を捉えていることに感銘を受けました。できては消えていくコンテンツが氾濫する現代において、100年先を見据えて活動するシャンティのように、100年先も見てもらえるような映像をつくっていけたらと思います。
江藤さん制作の動画はこちらからご覧いただけます
江藤孝治さんプロフィール
写真:ギリシャ・アテネにて
映像作家。1985年、福岡県生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒、同大学院修了。
▼在学中、探検家・関野吉晴氏に師事し、同氏の探検プロジェクトに帯同しながらカメラを回したドキュメンタリー映画『僕らのカヌーができるまで』(芸術文化振興基金助成作品/武蔵野美術大学卒業制作展優秀賞)を制作。
▼大学院修了後、映像制作会社「グループ現代」に所属。
▼2014年、若手現代美術家の加藤翼とアメリカインディアンの交流を追ったドキュメンタリー映画、『ミタケオヤシン』制作・公開。
江藤さん監督作品『ミタケオヤシン』のウェブサイトはこちら(http://mitaoya.com/)
▼2016 年 10 月より、映像制作会社「ネツゲン」に所属。
▼2018 年 7月よりフリーランス。
映画をはじめ、テレビ番組 NHK BS1『地球タクシー アテネ/函館/師走の東京、NHK E テレ『ETV 特集』、企業ビデオパッケージなどを多数演出。
カテゴリー
- TOP
- 活動を支える人たちの想い
- 100年先も見てもらえる映像をつくりたい|映像作家・江藤孝治さん