コミュニティ図書館、「成功例」として教育省年次報告書に掲載!
こんにちは!カンボジア事務所の江口です。
カンボジアは今、一年で最も暑い時です。
わたしのいるシェムリアップは停電が続き、暑さと格闘していますが、
マンゴーが一番おいしい時でもあります。
昨年、カンボジアの貧困農村部にオープンした「The みんなの図書館」、
コミュニティ図書館(CLC)事業について報告します。
ニーペックとロンコー集合村にあるカンボジア最大のコミュニティ図書館は、
住民主体で順調に運営され、多くの利用者で賑わっています。
そして、図書館の中で地域の方々のグッドプラクティスが相次いで起こり、
早くもカンボジア教育省にコミュニティ図書館のモデルケースとして
年次報告書で紹介されるにいたりました!
まずは、コミュニティ図書館の現在の様子をお届けします。
コンポントムにある1館目ニーペック図書館です。
前面のスペースはバレーボールコートになっています。
スポーツは利用者を惹きつける図書館の「キラーコンテンツ」の1つと考え、
最近はコミュニティ図書館でのスポーツ活動の推進に力をいれています。
「知育、徳育、体育」のバランスです。
ちなみに、バレーボールやサッカーをしてボールが飛んでこないよう、
図書館前面にはネットが張られています。
柵もつけられました。
図書館の敷地を囲む柵は、村の要望で家畜が入らないよう住民によって設置されました。
住民の自助努力によるコミュニティ図書館のカスタマイズ化は、
住民の図書館への関心と情熱のあらわれなので、スタッフと喜んでいます。
「コミュニティの、コミュニティによる、コミュニティのための」図書館。
その実現に向けて、着実に歩んでいます。
図書館の横に併設している「コミュニティ多目的ホール」です。
2枚目の写真では大縄跳びして遊んでいます。
ニーペックのホールは、昨年の芝張り後、
根付くまで使用を控えていましたが、ついに解禁になりました。
大きく、涼しく、雨もふせげ、自由でリラックスしたコミュニティ図書館の
象徴的な施設として、村の新たな人気スポットとなっています。
図書館内の様子です。
相変わらず利用者でいっぱいで所狭しになっています。
こちらは図書館内の多目的教室の様子です。
写真では、子どもから大人まで一緒になって、
シャンティ制作のトイレについての紙芝居(なぜ必要?どう作る?)を楽しんでいるところです。
そもそも村には未識字者が多いということもありますが、
読書からの知識だけでなく、実践から学ぶことも重視し、
生活向上のための研修会も月例開催しています。
これまで体を動かして野菜栽培や養鶏研修などを行っていますが、
この日は、村の産婆さんで図書館の運営委員でもあるミック・ランさん(下で紹介)が、
図書館の本を使いながら、母子保健について他の住民に分かりやすく話していました。
「研修」と言っても、ハンモックに揺られながら、ゆるい感じで行われています。
こういった図書館の定期活動に、
「毎回、代金を払って村の外から専門家を呼んで教えてもらう」としてしまうと、
住民による図書館の持続発展的な運営を圧迫してしまいます。
そのためこの事業では、過度に外部の専門家に頼らず、
自分の体験や経験に基づいて、他の人より得意なこと、詳しいことなどを
住民同士で共有し合う、「みんな先生」アプローチをとっています。
「国宝」ならぬ「村宝」人材の発掘、育成、活用です。
もちろん、建物や書籍などの「ハード」面や、
図書館で繰り広げられる様々な活動などの「ソフト」面の充実、発展も大事ですが、
この事業で一番大事なのは「人づくり」
―わたしたちシャンティスタッフがいなくても、これらを主体的、自立発展的に
実践していく住民の力を引き出すお手伝い―
だと考えています。
住民の要望で、今年からコミュニティ幼稚園が図書館内で始まっています。
週5日、7時から9時、20人の子どもたちが学んでいます。
こちらも運営費含めすべて住民がまかない、村が自立運営しています。
また、不定期ですが写真のように、中学生が自発的に文字の読み書きの授業を
子どもと大人を対象に開催したりしています。
2館目のロンコーでは、他の団体が英語教室など、
青年の能力強化プログラムを展開してくれています。
このように、コミュニティ図書館という自由な教育の「場」を生み出したことがきっかけとなり、
図書館を媒体とした村の教育活動が活発化しています。
次に利用者の声を紹介します。
子どもの声からです。
コブ・カルさん/13歳、小学4年生
「両親は出稼ぎに出ているので、おばあちゃんと妹と3人で暮らしています。コミュニティ図書館には開館日から毎日来ています。読書が好きだからです。将来は先生になりたいです。」
ユック・サムオルくん/15歳、中学3年生
「両親がお店をやっているため、授業がないときは家の手伝いや家畜の世話をしています。その合間をぬって、コミュニティ図書館に来ます。村には本がある場所なんて他にないので、本がたくさんある図書館ができてとてもうれしいです。一番好きな本は農業の本です。将来は医者になりたいです。」
ポン・メリーさん/14歳、中学2年生
「コミュニティ図書館にはよく来ます。両親からは、『ひまがあったら図書館に行って本を読むように』と言われています。両親と一緒に来ることもあります。わたしは図書館で本を読むことが好きです。一番のお気に入りは絵本と農業についての本です。わたしの両親は農家ですが文字がほとんど読めません。ですから農業についての本を読んであげると、とても喜んでくれます。」
みんな、いいこと言ってくれてうれしいけど、写真を撮られるの初めてだからか、
表情がちょっとかたいね、、、
次は大人の声です。
先ほど出てきたミック・ランさんです。
ミック・ランさん/55歳、産婆、CLC運営委員
「コミュニティ図書館は、人と出会い、おしゃべりし、様々な活動に参加できる、地域にとってとても大切な場所です。コミュニティ図書館が活動を開始したことで、『村の問題やそれらへの対応について考え、実践することが大切だ』という意識が住民の間に生まれ、住民同士で村の問題について話し合えるようになりました。」
ミック・ランさんはかまどの伝道師として、図書館の生活向上研修で習った
写真のようなかまどを村に広めています。
なぜ、かまど?と思うかもしれません。
カンボジア農村部では一般的に、七輪のようなもので、女性が料理しています。
熱効率があまりよくなく、一つずつ料理をしなくてはならないため、時間がかかります。
写真のかまどは熱効率がよく、一度に二つ火にかけられるので、料理の時間短縮につながります。
お金をかけずに、赤土や灰など村にあるものだけで作れます。
家事の時間短縮に貢献することは、家事を一手に引き受けて忙しい農村部の女性に余暇を生み、
図書館に来て、識字教室などの教育活動への参加を可能にします。
さて、ここまでをざっくりまとめますと、
カンボジアの貧困農村部に、自由でカジュアルな雰囲気のコミュニティ図書館をつくったところ、多くの利用者で賑わい、学ぶことを楽しむ住民が増え、その結果、村全体が前向きで積極的なムードに包まれ、村の方々のグッドプラクティスが連鎖的に起こっています。
そして開館から半年ほどですが、このうわさが回りまわって、カンボジアの教育省にも届いたようで、本事業が「コミュニティ図書館(CLC)成功例」として、カンボジア教育省年次報告書に紹介されるにいたりました。
今年の3月末に開催された教育省の年次会議「Education Congress」で配布された
教育省ノンフォーマル教育局2014年度年次報告書です。
右下部分が掲載箇所です。
以下が掲載写真と日本語訳です。
「パ・ポムさん(33歳)は、コンポントム州コンポンスヴァイ郡ニーペック集合村の貧困農家で、読み書き、計算が十分にできません。文字を読むのは一苦労です。地域住民とのおしゃべりなど、自由にくつろげる場所としてコミュニティ図書館(CLC)を利用しています。図書館のことは近所の人から聞きました。『家事をすべてやり終えた後にしか図書館に来られませんが、よく来ています。農業に関する本や小説が一番好きです。図書館で効果的な野菜の栽培法について学びました。現在はそれを実践し、育ちの違いを実感しています。図書館では、来館している子どもたちにお願いして、本を読んでもらっています。正直、こうやって子どもたちに頼んだり、読み書きできる人たちと会話をするのは、少し恥ずかしかったりします。わたしは若い頃に勉強をすることができなかったので、今、この学習できる機会を活用しています。もうすぐ図書館で開催される識字教室にも、すでに申し込みました。』」
写真は、パ・ポムさん本人(左)と利用者の声で紹介したコブ・カルさん(右)です。
文字の読めないパ・ポムさんにコブ・カルさんが読んであげているところです。
パ・ポムさんは独身で、コブ・カルさんとはべつに家族ではありません。
二人にかかわらず、ニーペック図書館では、文字の読めない大人のために
自然と子どもが読書を手伝う光景が日常的に見かけられます。
今後、子どもから大人への教育の波及効果がいっそう期待されます。
こういった様子が教育省には衝撃的だったようです。
教育省は、コミュニティ図書館(CLC)を管轄し、その普及をノンフォーマル(学校外)教育の重要政策とみなしています。カンボジアには学校を中退する子どもや、過去の紛争による混乱の影響でそもそも教育をうけられなかった大人が多く、このような国民への教育機会の提供は不可欠とされているからです。
しかしながら、カンボジア全土に347館(2014年時点)あるとされている教育省支援のCLCは、
運営等に問題を抱えており、そのほとんどが機能していないと教育省自体が認めています。
そのため、「機能している」シャンティのコミュニティ図書館が教育省の目に留まったようです。
※写真は、CLCミニマムスタンダード作業部会で、政策提言している
シャンティスタッフのヴィチェット(奥右から3番目)
昨年より、教育省は「機能している」CLCの普及のため、ガイドラインの策定を進めており、
その作成のため、CLC有識者のみで構成される「CLCミニマムスタンダード作業部会」を
発足させました。
この作業部会に招待されたNGOはシャンティ含め3団体でしたが、結局、出席していたのはシャンティのみでした。
これまでシャンティのコミュニティ図書館独自の哲学、運営ノウハウ等を共有してきています。
ちなみに、今年のノンフォーマル教育局年次報告書で事例を紹介されたNGOも、シャンティのみでした!
また、6月初旬には、カンボジア教育団体のネットワーク、「NGO Education Partnership (NEP)」主催で、教育省、国連機関、主要国際・ローカルNGO約30団体が参加して、「生涯学習と持続可能な開発のための教育(ESD)の推進におけるCLCの役割」についての研修会が開催されますが、シャンティはキースピーカーとしてノウハウを共有するだけでなく、実際の成功事例から学ぶということで、この研修のフィールド訪問先にもシャンティのニーペックコミュニティ図書館が選ばれています。
シャンティのコミュニティ図書館(CLC)事業が、カンボジアのモデルとして全国のCLCのよりよい運営に貢献し、その結果として、学ぶ機会を求めているすべての人たちの暮らしや生き方に少しでも役立てることを願っています。
※日本からの絵本を手にしてたたずむ女の子、ロンコーコミュニティ図書館より
絵本は「どうぶつのおかあさん」福音館書店
スタッフ一同、今後もがんばっていきます。
応援よろしくお願いします!
カンボジア事務所
ノンフォーマル教育事業調整員
江口秀樹
コミュニティ図書館(CLC)事業の過去記事はこちら:
2015.08 現地メディア露出まとめ
2015.07 モデル化へ大きく前進!
2015.06 識字教室開始!
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