2019.08.12
海外での活動

タイ最大のクロントイ・スラムの立退き問題が浮上

タイ

微笑みの国、タイの首都バンコクのクロントイ・スラムからアジア地域ディレクターの八木沢です。私たちの活動の拠点となる事務所のあるクロントイ・スラムには家族と共に暮らして27年目となりました。

タイが2014年5月のクーデター以来、軍事政権だったことをご存知でしたか? 先月7月16日に今年の3月の総選挙を経て新政権がやっと誕生しました。民政に復帰しましたが、軍事政権のプラユット暫定首相が新首相として「続投」。軍の影響が色濃く残り欧米などの外国のメディアから「事実上の軍政」「半分の民主主義」とも呼ばれてジレンマを抱えていました。

その新政権が発足して1ヶ月が経過しました。その中で、タイ最大のクロントイ・スラムの立ち退き問題が再浮上してクロントイ・スラム(人口10万人)の住民の大きな不安となっています。バンコクには、現在、約2,000ヶ所、200万人がスラムに暮らしています。クロントイ・スラムはタイ最大且つ最古のスラムとして知られています。

バンコクの格差の象徴のクロントイ・スラム、立退き問題に直面している

バンコクの格差の象徴のクロントイ・スラム、立退き問題に直面している

8月6日、クロントイ・スラムを所有するタイ港湾公社(PAT)を管轄するタイ運輸省が、来年からクロントイ・スラムの再開発事業を開始すると発表してタイの新聞等のメディアに掲載されています。クロントイ・スラムの再開発の計画はこれまでも何度も発表されていましたが、繰り返される政権の交代や政治の不安定さもあり具体的な実施計画は不透明でした。

最近の1週間に新聞等に掲載された記事を要約すると港湾公社が所有するクロントイ・スラム43地域の中の港湾公社が所用する26地区、12,500世帯、人口約6万人を立退き移転させて同地域に大規模な商業施設を建設して再開発をするとの報道です。再開発後にはシッピングセンター、ビジネスセンター、ホテル、マンションや国際会議場等を建設。

この再開発計画が実施されると私たちシャンティ国際ボランティア会がタイ国内に設立して提携するシーカー・アジア財団の事務所や図書館、クラフトエイドの商品の製作の場等がある事務所も立退きの対象となります。多くのシーカー・アジア財団の職員やボランティアも立退きの対象地区に住んでいます。

立退きの対象となっているクロントイ・スラム

立退きの対象となっているクロントイ・スラム

立ち退きの対象となった住民には、港湾公社が所用する土地に25階建ての高層アパ―トを用意する案が提示されています。または、バンコクの郊外に代替地を提供する、高層アパ―トも代替地をも望まない住民には、補償金を提供するという情報もありますが不透明です。

スラムは、仕事に近い場所に形成されてきました。また、スラムでは住むだけでなく小さな雑貨屋、屋台、リヤカー、天秤棒等の商いで収入を得て生活する場でありました。狭い高層アパ―トでは、こうした商いも出来ません。高層アパ―トの数の不足の問題と同時に、親戚等と同居する大家族のスラムの家族には提示されている高層アパ―トの部屋は狭いという問題。スラムの相互扶助、コミュニティ意識の崩壊等の問題。仕事の場から遠く離れた郊外に代替地が用意されても仕事を失い生活そのものが成りたちません。

高層アパ―トや代替地に移る権利があるのは、現在のクロントイ・スラムに土地の権利証を持つ人に限定されています。土地や家を借りて暮らす住民や近年増えている外国人の移民労働者は対象にならずに行き場所を失います。

シャンティがクロントイ・スラムに現在の事務所や図書館とクラフトエイドの拠点となった職業訓練センターを開設したのが1989年。今から30年前です。スラムの問題と国境を超えて「共に学び、共に生きる」を実践するのは簡単ではありません。スラムの問題は、タイ社会の格差と貧困の問題の象徴でもあります。同時に国境を超えた格差の問題。クロントイ・スラムの劣悪な地域の居住環境等が残り続けるのも大きなジレンマです。クロントイ・スラムの再開発と立退きの動きから目が離せない毎日です。