タイ洞窟事件救出から1年
アジア地域ディレクターの八木沢です。昨年、世界中から大きな関心を集めたタイ北部チェンライの洞窟から少年ら13人の救出劇から、7月10日で1年が経過しました。雨季の雨と増水で3週間近く洞窟に閉じ込められ後に全員が無事に救出されたことは、勿論ですが、大きな関心を国内外から集めたのが、その内4人が国籍を持っていなかったことです。
救出劇の舞台となったチェンライ県「タムルアン洞窟」のある山並
サッカー少年とコーチの4人は、翌月にタイ政府からタイ国籍を得られたが、タイ内務省などは、タイ国内に少なくても約50万人の無国籍者がいるとしている。特に、タイとミャンマー国境周辺に集中している。
タイ北西部のターク県の無国籍の子どもたち
シャンティ国際ボランティア会が支援するミャンマーからのカレン族を中心としたメラ難民キャンプのあるターク県ターソンヤン郡には多くのカレン族が暮らしています。同郡の推定では、人口の9万人の内、約2万人が無国籍。メラ難民キャンプの人口が35,348人(UNHCR 2019年5月)。同郡の統計には難民キャンプの人口を含まれていません。
今年の6月22日、同郡の「メースウィタヤー中学・高校」でシャンティ国際ボランティア会の現地法人の「シーカー・アジア財団」の奨学金授与式が行われました。授与式には近隣の8校の中学と高校から175人の奨学金生が集まりました。大半がカレン族でした。その中で、何と31人が無国籍でした。同郡を代表してプラティ―プ・ボーティアム郡長は「無国籍の子どもたちは様々な問題と苦悩を抱えている。奨学金は子どもたちにとって、極めて大切だ」と語ってくれました。
無国籍の子どもたちの抱える苦悩の数々
国籍がないことにより身分を証明するタイのIDカード「国民登録証」が取得できない。隣の郡や県への移動も制限される。病院での保険が適応されない。政府系の奨学金の対象外。大学を卒業しても卒業証書が発行されてないので、教師や公務員等の安定して職業に就くこともできない。無国籍の奨学金生31人の世帯の1年の平均の収入が15,000バーツ(約42,000円)。首都バンコクの庶民の平均収入の1割にも満たない。両親の貧困と無国籍の負の連鎖から貧困から脱け出すことが極めて困難。
無国籍になる理由として、親たちがタイに長く暮らしているが、子どもの出生や国籍を証明する住民票を持ってない。山の中で生活をしていたので、病院で出産をしていないので証明ができない。役所が山の村から遠かったり、タイ語が読めない、書けなかったりする。新たに国籍を取得するには複雑な書類と手続きが必要で時間が掛かる。親子関係を証明するDNA鑑定まで必要となる。
奨学金生が暮らす山の村の家
世界中から注目されて不可能を可能にするための人間の英知と献身的な努力によって過酷な自然から13人の命が救われたタイの洞窟。洞窟からの救出劇を契機として世界的な注目を集めた無国籍問題。一日も早く、無国籍の子どもたちの問題が解決することを願わずにはいられません。