台風19号 緊急救援報告会「求められる被災者に寄り添う支援」 開催報告
2019年12月12日、聖心女子大学/聖心グローバルプラザにて、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)と特定非営利活動法人チャイルド・ファンド・ジャパン(以下、CFJ)が共同で実施してきた令和元年台風19号で被災した長野市での緊急救援・被災者支援活動の報告会を開催しました。
https://sva-old.skr.jp/wp/?p=36022
今回、二団体が共同することになった経緯や支援活動の内容、共同で得た学びや苦労した点などをご報告させていただきました。
二団体協働のきっかけ
今回、台風19号による豪雨で被害が大きかった長野県で、堤防が決壊した千曲川沿いの地域を中心に、二団体が協働して支援活動を実施しました。今回、2団体が協働したきっかけは「ラグビーワールドカップ2019日本大会」でした。チャイルド・ファンド・ジャパンが加盟している子どもの支援に取り組む国際的なネットワーク組織チャイルド・ファンド・アライアンスは、ラグビーワールドカップの公認チャリティ・パートナーとなっており、ラグビーW杯の観戦チケットの売り上げの一部を日本の被災地の災害救済支援に寄付してくだることになりました。
(特定非営利活動法人チャイルド・ファンド・ジャパン 事務局長 武田勝彦)
ですが、CFJは海外の子どもの教育支援が主な活動で、国内の災害支援を行うことは稀なことでした。ラグビーW杯をきっかけに国内災害への支援を始めようと国内の緊急救援の実績や知見のあるパートナー団体を探していたところ、海外での教育支援とネパールでの活動など、共通点があるシャンティに相談し、互いに補完し合いながら協働することになりました。
両団体は、2019年9月に発生した九州北部豪雨で初めて協働事業を行い、今回の台風19号の被災地支援へと繋がりました。
台風19号 緊急救援活動の概要
2019年10月12日から13日にかけて日本列島を北上した令和元年台風19号は各地で甚大な被害をもたらし、死者98名、ピーク時の被災者数は200万人を超え、6600カ所に避難所が設置されるなど、被害規模は平成30年7月豪雨(西日本豪雨)を上回りました。
今回、長野県長野市での支援活動は、以下の災害発生時の支援地域選定基準に則り、選定いたしました。
1.被害が甚大な地域への支援を優先
2.他団体の取組状況が遅れがち、手薄な地域への支援
3.中長期的な支援活動を見据え、連携可能かつ実施能力のある地元団体が存在する地域を優先
支援を行う前に、被害な甚大な宮城県、福島県、栃木県、長野県の4県に絞り、その時点で最も避難指示世帯数が多かった長野県で調査を行うことを決めました。長野県は13,393世帯(2019年10月27日時点)に避難指示が発令され続けています。
長野市での初動調査
10月16日に東京を出発した両団体の職員5名は、長野県へ向かう道中、ショッピングセンターで被災初期に必要とされる衛生用品、特に女性や高齢者向けの物資を調達しました。朝出発し、高速道路の通行止め区間があるため迂回し、長野市内に到着したのは夕方頃。19時から長野市内で開催された情報共有会議に出席。情報共有会議は、政府、長野市の災害ボランティア委員会、社会副協議会、県外からため駆けつけたNGO/NPOなどが集まり、被害や支援の状況を共有する会議です。会議に参加することで、被災状況やどういう団体がどこで活動しているかを把握することができました。
(公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 地球市民事業課 課長 関尚士)
翌10月17日は、長野市内の計6カ所の指定避難所を周り、支援物資を届け、避難所の方々の現状についてお聞きしました。前日、市から発表された避難所の位置をスマートフォンの地図アプリに表示できるよう準備しておいたため、スムーズに避難所をまわることができました。
(台風19号で被災した長野市内の様子を紹介している様子)
長野に到着した時、すでに水は引いていましたが、泥がひどく、長靴がズブズブ埋もれていくような状況でした。長野市長沼地区の状況が最もひどく、これまで見てきたどの被災地よりも泥の量が多いと感じました。
日中、避難所に残っている方の多くはご高齢の方でした。近所の方に避難所へ連れてきてもらったが、避難してから一度も外へ出ていないという方もいらっしゃいました。また、被災初期から子どもの心の変化が確認された。
避難所での子どもの遊び場づくりと学習室を支援
シャンティとCFJは、長野市内で特に多くの方が避難されていた長野市北部スポーツ・レクリエーションパークで、地元のNPO法人「ながのこどもの城いきいきプロジェクト」と共に、避難所での子どもの居場所、子どもの遊び場づくりを行ってきました。
遊び場づくりの他、避難所の学習スペースの運営も行いました。学校が休校となってしまったため、子どもの学習の遅れが課題となっていたのです。避難所の運営者と相談し、小中校生が落ち着いて勉強できるよう「学習室」のスペースを作りました。避難所の生活空間とは別のスペースになるようパーテーションで区切り、カーテンをつけ、外から見えないようにしました。
また、県外からの支援者が多い避難所で、子どもたちは長野県で考案された漢字練習帳「白文帳」のことを知らない大人がいることに驚いていました。子どもたちにとっては当たり前だと感じていたことがすべてではない、という小さな気づきもあったようです。
傾聴活動と“集まれる場“の支援
避難所のみなさんが自由にお話していただけるよう傾聴カフェを行いました。傾聴カフェは地域の公会堂や仮設団地、集会所などでも実施し、炊き出しと合わせて行い、12月現在も継続して開催しています。
避難所から移られる方も多い仮設住宅の集会所や談話室への備品の支援も行いました。仮設住宅は新しいコミュニティの中心となる場所であり、最低限必要となるだろう椅子やテーブル、湯飲み、ポットなどの備品提供を行いました。
千曲川の決壊による被害を受けたのは住宅だけでなく、公共図書館や児童センターも被害を受けました。千曲市立更埴図書館では、1階に蔵書していた本が使えなくなり、長野市松代花の丸児童センターの蔵書も濡れてしまいました。地域の歴史を伝える貴重な資料は、乾かして使えるよう試みていますが、読めなくなってしまった分の蔵書支援も検討しています。
被災された方々の想い
仮設住宅や民間の賃貸住宅を借り上げて被災された方に提供する「借上型仮設住宅」は、自宅よりも狭いという声が聞かれました。「いろいろ迷ったけどお父さんと相談して家に戻ることにしました。ほぼ半壊状態だけど、家に帰りたいのよ。」という声も。
(公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 国内緊急救援担当 渡邉珠人)
リンゴ農家のお母さんは「泥をかぶったリンゴは衛生面の問題もあり出荷できない。しかし、リンゴはそのまま放置しておくと枝がしなってしまうため、来年に向けて泥をかぶったリンゴを取っておかないといけない。」とおっしゃっていました。
二団体協働を通じて得た学びと今後の課題
・被災地支援はさまざまな立場、考えの方と話し合う場であると感じた。
・人間関係の構築と信頼関係の構築が重要だと感じた
・他団体のスタッフの被災者と接し方、関係づくりの姿勢を学ぶことができた
・団体間のデータ共有方法をどう構築するかが課題
・両団体とも日本国内の支援者・関係者が多く、地元の人と協力することができた
長野市での今後の支援活動について
地域を中心とした支え合いの仕組みが機能するよう支援していくことが今後の目標です。被災する前の生活を取り戻すのに10~20年以上かかることもあります。避難所ではみんなで力を合わせて、人を支える仕組みができますが、避難所の閉鎖に伴い、共助の関係が途切れてしまう可能性もあります。今後は「子どもたちが安心して過ごせる時間・居場所づくり支援」や「高齢者を中心とした居場所づくり支援」、コミュニティ再生につながる支援、図書館/図書室支援などに取り組む予定です。
質疑応答
Q.協働に至るまでどのような協議をしていたか
A.協働に向けた対話を重ね、協定書を結び、覚書を交わしていた。災害発生時、どのような予算規模で、どのように派遣するかなどを協議していた。
Q.今後も協働を考えているか
A.協働を検討しているが、資金調達(ファンドレイジング)が今後の課題。日本赤十字社や赤い羽根共同募金なども、台風19号災害への寄付金が集まっていないと聞く。理由ははっきりわからないが、東京や千葉も被災し、首都圏(主に東京)のメディアが北関東や他の被災地の報道が少ないからではないか。
Q.今回の災害は国際的な支援団体からの支援をあまりみかけないが
A.海外の団体から支援を受け入れるための調整はとても難しいからではないか。今回も海外から支援がなかったわけではない。日本からの支援を受けているタイのスラムでは、子どもたちも参加したチャリティーライブを開催し、70万円ぐらいの寄付が届きました。
東京新聞:恩返しの歌声届け タイ・スラム街から台風被災地へ:国際(TOKYO Web)
スラムの子どもらが演奏、タイ 日本の被災者を支援|全国のニュース|佐賀新聞LiVE
引き続き被災地の復興に向けたご支援をお願いします
質疑の中で「両団体とも海外で支援活動を行っているが、海外でのノウハウを国内活動へ活かすことができるか」という趣旨の質問がありました。国内であろうと海外であろうと、ノウハウや経験は汎用性があると考えています。我々支援団体はあくまでも「触媒」であり、人と人をつなぐ存在とも想っています。支援活動の結果、それが負の遺産にならないよう、タイミングを見て、地元の団体に引き渡していくことが大切です。今後も支え合いの仕組みが機能するよう支援を続けていく予定です。
いまこの瞬間も、世界のどこかで新たな災害が発生し、多くの被災地が「忘れられた被災地」となっています。被災地では、今も被災前の生活を取り戻すための取り組みが続いています。引き続き、被災された方々に寄り添い、活動を続けてまいりますので、活動へのご理解とご支援のほどよろしくお願い致します。
※当事業の初動調査は、ジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成を受け、チャイルド・ファンド・ジャパンと共同で実施しました。
報告
シャンティ国際ボランティア会
広報担当 召田