2023.06.07
海外での活動

『私たちの教科書』―地域カリキュラム事業終了時調査から見えたこと

ネパール

みなさま、こんにちは。ネパール事務所の萩原です。

2020年3月から3か年にわたって実施した地域学習カリキュラム事業の終了時調査を実施しました。終了時調査では、対象地域であるラクシラン自治体の全52対象校中17校の校長及び教員へのインタビューや教室環境の観察を行いました。

地域学習カリキュラムの授業は実践されているか?
全52校で地域学習カリキュラムが実践されていることは終了時調査前に確認済みでしたが、調査では17校を対象に、「どの程度実践されているか」を確認しました。

ネパールの標準カリキュラムにおいて、地域学習の授業時間は1-3年生で5時間、4-8年生で4時間が基準となっています。調査の結果、1-3年生については一部基準に満たない学校があるものの、全体的に多くの学校で基準より多い授業時間が割り当てられていることがわかりました。(8年生について当年度は、教育省の方針により地域学習カリキュラムの実践は必須ではなかったのですが、75%の学校が自主的に授業を行っていました。)

また調査では、地域学習の実践に当たって教員が「児童中心の教授法を取り入れているか」についても確認しました。「ラクシランの歌」(100%)は地域学習カリキュラムの制作と合わせて作った歌で、とても人気があります。このほかグループワーク(100%)や地域の素材の掲示(76%)、児童の作品の掲示(76%)は積極的に行われています。一方、地域のサイト訪問(53%)や課題解決型学習(35%)、地域のリソースパーソンの招聘(29%)は、事前準備や関係者との調整を要することもあってか、実践できている先生とできていない先生がいるようです。


「ラクシランの歌」をうたう女子児童

児童や保護者、コミュニティにどのような変化が見られたか?
インタビューに回答したすべての教員が、地域学習カリキュラムと児童中心の教授法の導入により、出席率や自分の地域への関心と敬意などに良い影響があったと回答しました(「とてもあった」「少しあった」の合計)。また、「保護者やコミュニティ好影響があったか」とのについては79%の教員がYes、21%がNoと回答しました。

「私たちの教科書」―地域学習カリキュラムへのオーナーシップ
こうした良い変化が見られた理由について自由回答で尋ねたところ、地域学習カリキュラムへの愛着や親近感、オーナーシップといったキーワードがよく聞かれました。例えば、「教科書の内容が地域の文脈に沿ったものであるため、児童は愛着を感じており、この教科書(の内容)を勉強したいと思っている」「この教科書は自分たちの地域性をきちんと認知したものだと保護者は考えており、それゆえ地域の人々は教科書にオーナーシップを感じている」「地域の文脈を反映し、地域の写真が使われているため、教科書は人々に愛されている」などの回答です。ラクシラン地方自治体は先住民族のチェパンやタマンの人々が多く住む地域であり、自らの文化や地域性が教科書に反映されたことは、彼らにとって非常に意義あることだったようです。

さらに興味深いのは、地域の慣れ親しんだ内容だからこそ、児童の理解やより良い学びにもつながっていることをうかがわせる回答です。「地域の内容だから児童は理解しやすい」「(慣れ親しんだ)地域の内容であるため、児童は(そのトピックについて)話しやすい」「地域学習の教科書で説明されたことについて、児童はもっと知りたい、探索したいと思っている」。子どもが学びを深め広げていく際、自らの具体的な経験と結び付けて理解していくことはとても大切なので、地域学習カリキュラムはその土台を提供するのに役立ったのかもしれません。

本調査を通じ、私自身、自らの地域や文化がきちんと認められ、それについて学べることの大切さをあらためて実感することとなりました。すべての人が誇りをもって学ぶことができるような事業をこれからも実施していきたいと思います。

本事業は外務省のNGO連携無償資金事業として実施しました。
本事業はローカルNGOのSamunnat Nepalと連携して実施しました。

★対象校モニタリングの様子はこちら

ネパール事務所 萩原宏子