おはなしからはじまる「多文化共生」
『おおきなかぶ』(トルストイ再話、内田莉莎子・訳、佐藤忠良・絵、福音館書店)
「ムオイ・ピー・バイ! ムオイ・ピー・バイ!(1,2,3!)」
カンボジアから来た「おはなしおじさん」のフーンさんと一緒に「おおきなかぶ」を引っこ抜こうと、おばあさんとおねえさん、いぬ、ねこ、ねずみになり切るやまびこ保育園の子どもたち。9月下旬、カンボジアの幼児教育関係者を対象に静岡県で実施した幼児教育研修の実習中のできごとです。
実習を受け入れてくださったのは社会福祉法人天竜厚生会の「やまびこ保育園」。実習中、同保育園の谷野祐太先生から、「子どもたちに読み聞かせをやってもらえませんか」との言葉をいただき、実現しました。
シャンティは20年以上にわたってカンボジアで図書館活動を行っており、その活動の核となっているのが絵本の読み聞かせです。日本の皆さんのご協力で絵本にクメール語の訳文を貼っていただき、カンボジアに届け、それを図書館や幼稚園で活用します。「おおきなかぶ」は中でも大人気の絵本です。
カンボジアの子どもたちも一列に連なって、「ムオイ・ピー・バイ!」で一緒にかぶを引っこ抜きます。
今回のやまびこ保育園での読み聞かせは、いわば「逆輸入」。聞きなれないクメール語の読み聞かせですが、子どもたちは興味津々。最後の「ムオイ・ピー・バイ!」でかぶを引っこ抜き、おはなしが終わった後も、子どもたちは「ムオイ・ピー・バイ!」の大合唱。子どもたちの反応に、私たちもびっくりでした。
日本の皆さんに訳文シールを貼り付けていただいた絵本がカンボジアに届き、その絵本がカンボジアの子どもたちに楽しまれ、今度はクメール語で日本の子どもたちがおはなしを楽しむ。素敵な瞬間を日本の子どもたち、幼稚園の先生、そしてカンボジアの人たちと一緒に共有できたことを、本当にうれしく思いました。
「おおきなかぶ」の読み聞かせ以外でも、保育園での実習中、日本の子どもたちとカンボジアの参加者は、一緒に虫捕りをしたり、カンボジアの踊りを一緒に楽しんだり、外で遊んだりと、ふれあう機会がたくさんありました。
テレビや新聞で報道される「外国」は時に遠い存在で、「怖い」といった感情に結びついたり、あらぬ誤解につながってしまったりすることもあると思います。けれども、子どものころの楽しい記憶は原体験として心に残り、姿の見えない他者としてではなく、「一緒に遊んでくれた●●さんがいる国」として、他の国を身近に感じることにつながります。
日本の子どもたちとカンボジアの参加者の姿に、こうした地道な交流のきっかけ作りをこれからもやっていきたいと感じました。
小さな一歩ですが、最終的にはそれが、さまざまな違いを持つ人が共に生きる「多文化共生社会」の実現につながると信じています。
本事業はJICA草の根技術協力事業の一環として、静岡県及び社会福祉法人天竜厚生会ほか、日本のみなさまと協力して実施しています。
カンボジア事務所調整員
萩原 宏子