カンボジア幼児教育事業 完了報告会を開催しました
こんにちは。カンボジア事務所の菊池です。
6月27日(木)に、2020年9月~2024年4月までJICA草の根技術協力事業として実施してきた、カンボジア国幼児教育カリキュラムに基づく「遊びや環境を通した学び」の実践のための基盤構築事業の事業完了報告会を行いました。
事業完了報告会の内容を中心に、この事業の概要や成果を紹介します。
事業の背景
カンボジアでは、幼児期の教育は、教育法の第16条の中で初等教育への就学準備のために履行されるべきものとして明記されています。近年、カンボジア政府が力を入れて改善に取り組んでいる分野の一つであり、教育省リードのもと、国際機関やNGOを含む多くのステークホルダーの支援が入ってアクセスや質の改善に取り組んでいますが、依然としてカンボジアの幼児教育は様々な課題を抱えています。
教育省は、2018年に幼児教育カリキュラムを改訂し、「遊びを通じた学び」を基本原則に明記しました。しかし、改訂されたカリキュラムが全国に普及されていないことに加え、現場の教員は遊びを取り入れた活動経験がほとんどなく、現場での実践が非常に困難な状況が見られています。また、幼稚園で「遊びを通した学び」を生み出す環境が整っていないという課題もあります。これらの課題の改善に向けて、カンボジア教育省との協議のもと、本事業を通じて、幼児教育カリキュラムに基づく「遊びや環境を通じた学び」の実践のための基盤構築の取り組みを実施することになりました。
「遊びや環境を通した学び」は、日本の幼稚園教育要領でも重要性が謳われています。自発的な活動としての遊びを通じて、幼児は心身全体を働かせ、様々な体験を通して心身の調和のとれた全体的な発達の基礎を築いていきます。自発的な活動としての遊びは、幼児期特有の学習であり、遊びや生活を通じて、幼児は、周囲に存在するあらゆる環境からの刺激を受け止め、興味を持って主体的に環境に関わることで、様々な活動を展開し、充足感や満足感を味わいます。こうした環境を整えることはとても重要で、物的な環境はもちろん、保育者や友だちなどの人的環境や自然環境を、保育者が構成していくことが必要になります。
事業概要
さて、本事業は、先行事業として、2016年からJICA草の根技術協力事業として実施してきたバッタンバン州の公立幼稚園における幼児教育・保育の質の改善事業の成果を踏まえて、それを全国に向けて面的、質的に広げていくための基盤を構築するという位置づけで実施されました。事業実施にあたっては、教育省幼児教育局、教員養成局、幼稚部教員養成校、バッタンバン州教育局、バッタンバン市中央幼稚園と当会で、事業開始時にタスクチームを結成し、ほとんどの活動のタスクチームとの協議・協働しながら進めてきました。また、日本人専門家として、先行事業に続き、社会福祉法人天竜厚生会のチームカンボジアの皆さんと協働し、たくさんのご助言、インプットをいただきました。
事業のフレームワークはこちらになります。
このフレークワークに沿って、①教員向けガイドブック・活動事例集の作成、②人材育成、③パイロット州の幼稚園での活動の質の向上の成果達成に向けて、各種活動を実施してきました。
①ガイドブック・活動事例集の作成
ガイドブックは、環境構成、おはなし、教材の3種類で構成されており、タスクチームで草案を作り、日本人専門家からのインプット、全州の教育局にも協力いただいたコンサルテーションワークショップを2回実施して、最終化しました。現場の教員にとって分かりやすく、実践しやすいように工夫されています。また、モニタリングを通じて各園のよい実践例や日本人専門家からの活動紹介を取り入れた、活動事例集を作成しました。作成したガイドブックを紹介したビデオもご参照ください。
②人材育成
タスクチームがマスタートレーナーとなり、研修を通して郡教育局や中央幼稚園教員をトレーナーとして育成し、その育成したトレーナーが現職の幼稚園教員に研修をしました。人材育成にあたっては、日本人専門家にご協力いただき、2回の訪日研修を実施、さらにオンライン・実地での技術指導も行いました。
③幼稚園の活動の質の向上
パイロット郡の51の幼稚園に対して、家具や教材、絵本等を配布し、幼稚園と協力して教室内の環境整備を行ったほか、モデルとなる幼稚園の活動視察、研修に参加した教員の活動実践状況のモニタリング等を行いました。
事業の成果
以下、事業の成果のハイライトを共有します。
①ガイドブック・活動事例集の作成
開発された3種のガイドブックは公式の副教材として2023年12月に教育省に承認され、現在、全州の教育局や郡教育局、幼稚園等に配布されています。2024年4月に実施した事業終了時時点で、事業対象の教員の82%がガイドブックおよび活動事例集を「いつも使っている」「よく使っている」と回答しています。
②人材育成
人材育成においては、この事業を通して41名がトレーナーとして育成されました。事業終了時にマスタートレーナー、トレーナーに「遊びや環境を通した学び」実践手法の習得度についての自己評価を実施したところ、83%がガイドブックを通して実践手法を教える自信があり、一般の教員に対して具体的に教えることができると回答しており、実践手法への理解と自身の深まりが確認されました。
トレーナー、およびトレーナーからの研修を受けた現職の教員がこの事業を通してどのように変化したのか、トレーナーや教員の声を紹介します。
③幼稚園の活動の質の向上
幼稚園の活動の質の向上においては、最終モニタリングにおいて、環境構成に関わる評価を行い、ガイドブックに記載された11項目(教室内外の家具や遊具などの空間構成・使用状況、衛生や生活習慣、アートや理科など幼児の学びに繋がるコーナー、おもちゃや絵本などの教材の管理などの環境と室内空間に関わる11項目)において、7割以上の教員が実際に幼稚園ですべての活動を実施していることを確認しました。
また、同モニタリングでは7つの観点(1.個別的な指導と学び、2.保育者と子どものやりとり、3.子どもどうしのやりとり、4.望ましい態度・習慣の育成、5.自由遊び、6.遊びと学びとクラス集団活動、7.クラスでの遊びを通した学び)から実際にクラスで行われている活動についての評価も行いました。観察より、クラスでの活動内容や活動における教員と幼児間のやりとり、教員の幼児への態度、反応などにおいて、項目によって7~9割の教員が適切な対応と態度(サポートする、褒める、強制しない、声を荒げないなど)を取っていることが分かりました。
幼児の行動(定期的な登園、お片づけや衛生の習慣、人の話を聞く・日常会話などのコミュニケーションや他の子どもとの付き合い、すぐに諦めない態度などの項目)の変化について教員へのインタビューを行ったところ、事業完了時には、すべての項目において7割以上の教員が幼児の行動が改善したと感じていることが確認されました。
本事業では、教育省幼児教育局が「遊びや環境を通した学び」を公立幼稚園に普及するための計画作りをすることを事業目標としてきました。実際に、教育省幼児教育局は、タスクチームとして、ガイドブック配布計画と普及研修プランを作成、さらに事業終了時には、本事業のガイドブック内容を取り入れた全国の幼稚園の質を高めるためのモデル幼稚園スタンダードの推進とガイドブックの更なる配布計画を発表しました。スタンダードを満たした幼稚園は、モデル幼稚園となって、他の幼稚園のお手本となります。ガイドブックの内容がこのスタンダードの様々な主要指標に取り入れられましたが、一部の指標ご紹介します。
最後になりますが、カンボジアの幼児教育の質の改善に向けて必要なことはまだまだあります。
2018年に改訂されたカリキュラムの浸透、現場の教員の更なる活動実践、保護者への理解促進、環境整備のための予算確保などを含め、教育省幼児教育局の継続したリードのもと、さらに改善していく必要があります。シャンティでも、引き続き、現場の先生方や教育省幼児教育局と連携しながら、園児たちが主体的に遊び、学んでいくための環境を整えていくために、必要な支援を継続していきたいと思います。
本事業に日本人専門家として関わってくださった社会福祉法人天竜厚生会チームカンボジアのブログでも、完了報告会の様子を紹介していますので、是非ご覧ください。
カンボジア事務所 菊池