2025.08.23
海外での活動

カンボジア 国境での軍事衝突と移動図書館活動

カンボジア
避難民

こんにちは。カンボジア事務所長の菊池です。

カンボジアとタイの国境で起きた7月24日の軍事衝突から、もうすぐ1か月が経とうとしています。カンボジア事務所では、国境での軍事衝突以降、職員全員で話し合い、避難所での移動図書館活動を実施してきました。このブログを通して、私がこの間カンボジアにいて目の当たりにしてきたこと、また、移動図書館活動を行うことになった経緯をご紹介します。

 

2025年7月24日(木)の午前中、スタッフの上期面談のため、プノンペンからバッタンバン事務所に向かっていた私は、車中でカンボジアとタイの国境で軍事衝突が起き、国境の係争地での交戦が広がっているニュースを確認しました。職員の安全を確認して、東京事務所に一報を入れた時には、まさかここまで避難民が出る事態になると思ってもいませんでした。5月下旬から国境での衝突があり、両国の緊張が高まっている状況はあったものの、7月24日の交戦以降、状況がみるみる変わっていくのを目の当たりにして、私は気持ちの焦りを抑えられませんでした。

 

翌日25日(金)には東京事務所と国境情勢を受けた緊急会議があり、現状確認と共に、情報収集に向けた準備が進められました。カンボジア事務所では、昨年度、今年度の事業地がカンボジア北部州であったため、州教育局や事業対象園の教員などの事業関係者ともTelegramグループでやり取りをしていて、国境付近の学校が閉鎖し、避難がはじまる情報もタイムリーに共有されてきました。国境付近に住む事業関係者が、この状況に不安を抱える中で、現地職員が心配と励ましの声をかけ続けていました。事務所のあるプノンペンやバッタンバンでは、治安状況の変化もなく、一見して平穏な状況はありましたが、週末をはさんで、カンボジア事務所の職員は、他の国民同様、気持ちが高ぶり、ほとんど寝られなかったと思います。私自身も、何かをしないと落ち着かず、ニュースを追いながら、事務所スタッフに所長のメッセージを発信し、この先の事務所対応方針、事業対応方針を固め、同時に今年度のNGOネットワークの世話人を担当しているため、在カンボジア日本大使館やJICAと安全管理についての方針の情報交換に時間を費やしていました。

 

その後、ASEAN議長国のマレーシアやアメリカ、中国の仲介で、7月28日(月)24時に無条件の停戦合意、このニュースにほっとしたものの、その時点でカンボジア北部、西部での軍事衝突で13万人もの避難民が出ていました。

その状況を受けて、現地スタッフと共に、学校建設活動の対象校選定と併せて、29日(火)にはカンボジア西部にある避難所となっている学校を視察し、郡教育局長に面会して、支援ニーズを確認しました。今回の国境での軍事衝突以降、避難民はお寺や学校等に避難しましたが、行政、企業、寺院、団体、個人から多くの寄付や支援物資が届けられていました。プノンペンをはじめ、主要都市では支援物資の収集センターが開設され、多くのボランティアが協力し、支援物資が続々と避難所等に運ばれていました。視察時にも続々とトラックやバスで支援物資が運ばれてくる中で、ふと目をやると、行き場のない子どもたちが避難所となっている学校の敷地内で、道路をふさがないようにして、静かに座っていました。

 

避難所からの帰りの車の中で、現地スタッフと、今、自分たちにできることは何だろうかと話しました。避難所で足りないと聞いた調理器具を支援するか、、、と話していた時に、カンボジア事務所で30年働いてきた現地職員が言いました。「シャンティは、これまで避難民が出た時に、移動図書館活動をしてきた。支援にはタイミングがある。停戦合意があったが、避難民はいつ自宅に戻れるか分からず、不安を抱えている。子どもたちは、手元に何もなく、何もすることもなく、大人と同じように不安を抱えて避難所にいる状態。日々避難所にたくさんの支援物資が届くから、物資の支援はシャンティでなくてもできる。でも、移動図書館活動はシャンティにしかできないこと。移動図書館活動は子どもたちや周りの大人の緊張を和らげることができる。今、できることはこれなのではないか?」 私は、その言葉にはっとして、そうだ私たちにできることはこれだ!という感覚と共に、シャンティが設立された当初の活動の原点に触れたような思いになりました。

 

翌日30日(水)、カンボジア事務所の全職員と、緊急支援について話をしました。視察した避難所の状況、避難所のニーズ、そして、シャンティのミッション、活動の原点、なぜ移動図書館活動なのか。全職員が避難所の移動図書館での活動に賛同し、先発チームとしての活動の参加に、事業スタッフも総務・経理スタッフも含めて、多くの職員が手を上げました。また、先発チームには参加できないスタッフも、自分にできることは何でもしたいと声を上げました。それまで、それぞれの職員が不安や気持ちの高ぶりがある中でしたが、スタッフ全員と同じ方向を向けた瞬間だったと感じています。東京事務所から避難所を対象にした移動図書館活動の実施に同意を得て、そこから避難所を管轄する行政機関への連絡、活動許可依頼のレターを準備し、移動図書館活動の準備を進め、31日(木)に再び避難所に向かいました。

 

避難所で郡知事と直接面会し、シャンティや移動図書館活動を説明して、避難所での活動許可をもらい、その日から2か所の避難所での移動図書館活動を開始しました。そのうちの1か所の避難所となっているお寺では、境内に人々がテントを張って避難生活を送っていました。その時点で人々が避難してから6日が経っていました。

お寺の境内で子どもたちが座れるビニールシートやマットを引き、本を並べ始めてから、どこからともなく子どもも大人も集まってきました。地面に引いたマット上に子どもたちが駆け出して集まり、シートいっぱいに子どもたちが座って、これから何かはじまるのか、緊張とワクワクが交差します。そして、アイスブレーキング、おはなしが始まると、子どもたちはその世界に吸い込まれるように、時々大きな声で笑いながら、夢中になっておはなしを聞いていました。そして、自由読書がはじまり、子どもたちは気になる本を手にして、声に出しながら、本を読んでいます。避難所生活から1週間近く経ち、心の渇き、学びへの渇望があったのかもしれません。本を読む子どもたちの熱気がそこにはありました。

カンボジア西部の避難所は、国境の状況が比較的安定したことを受けて、それから数日で人々が家に戻りはじめました。移動図書館活動もそれをもって終了になりましたが、後日、事務所に戻って全職員で活動の振り返り会をしたときに、活動に参加した職員が、この経験での学びや改善点を共有する中で、自分たちが実施した移動図書館活動には意味がある、自分にもそれができたことを誇りに思う、と話していたことが印象的でした。

 

私たちの移動図書館活動は、その後、カンボジア北部の避難所でも行われています。今、私たちだからできること。シャンティの活動の原点に触れながら、全職員で話し合って決め、同じ方向を向いて移動図書館活動ができることを、カンボジア事務所長として、とても心強く思っています。

 

徐々に避難民が自宅に戻っていますが、まだ数万人の人々が避難所に残っています。

避難民が一日でも早く帰還し、両国が平和を求め、互いに尊重し合い、人々が安心して生活できる日がくることを願ってやみません。

 

カンボジア事務所  菊池