2017.10.15
海外での活動

ラオス活動報告会「NGOのプロジェクト運営とは」開催報告

ラオス

2017年10月10日、シャンティ国際ボランティア会 東京事務所の地下会議室にて、ラオス事務所の活動報告会を行いました。2014年から開始した「ラオスの少数民族の子どもたちのための就学前・初等教育における指導能力改善事業」を当初から担当してきたラオス事務所 所長の加瀬が、ラオスの子どもたちを取り巻く教育の現状や、プロジェクトのプロセスや成果についてご報告しました。教育やラオスに関心がある方など14人にご参加いただきました。

▼報告会の概要はこちら

https://sva-old.skr.jp/wp/?p=24705

ラオスの教育事情

ラオスは日本の本州とほぼ同じ面積で、約680万人が暮らしています。49の民族が暮らし、67%の人が仏教を信仰しています。政治体制は社会主義国家で、ラオス人民革命党が政権を握っています。

教育制度は小学校5年、中学校4年、高校3年、大学4年の5・4・3・4制で、複式学級を採用している学校が28.2%あります。複式学級とは、1つの教室に複数の学年が集まり、1人の教師が各学年を順番に教えていくクラスです。シャンティが活動しているラオスのヴィエンカム郡では複式学級が多く、課題を抱えていました。

ラオスのヴィエンカム郡の複式学級

ラオスの教育課題

ラオスの教育課題は、大きく4つあります。

1つ目は、低い残存率(定着率)です。小学校入学後、そのまま学校に通い続ける子どもの数は、2015年までに95%を達成することを目標にしていますが、全国平均は75%程度、地域によっては50%まで下がります。学校に通い続けるためには、家庭環境も大きく関係します。ラオス全体の貧困率は低下していますが、農村部と都市部で大きく差があり、特に少数民族の住む地域は貧しく、退学率も高い傾向にあります。

2つ目は、小学校1年生の退学率に改善の兆しが見られないことです。これには民族の問題も関係しています。49の少数民族が暮らすラオスは、民族間で話す言語も異なります。しかし、教育の場で使われる言語はラオス語に統一されているため、家庭で使ってきた言葉と学校での言葉が異なり、難しさを感じて退学してしまう子どもが多くいます。

3つ目は、教員の効果的な配置ができていないことです。特に都市部に教員が集中しており、農村部での教員の不足が深刻な問題になっています。その格差を是正するための政策はいまだ策定されていません。

最後に、複式学級の運営技術が不足するなど、教員の指導能力が低いことです。そのため、教育の質が保てないといった課題があります。

ボートで片道3時間、ラオスの地方の村の現状

シャンティが活動している場所は、ルアンパバーン県のヴィエンカム郡という地域です。地方都市で整備が追いついていないため、道路はガタガタ、ボートで3時間もかかる村もあります。ヴィエンカム郡はラオス全143郡の中で13番目に貧しい郡で、住民の多くは農業で生計を立てています。人口のおよそ90%が少数民族で、カム族、モン族、テン族などが暮らしています。学校で使われるラオス語を母語とする人は10%とほとんどいません。また、活動対象となった68校のうち、63校が複式学級の運営を行っています。

この地域の課題は、まず教師の指導能力です。複式学級が多く採用されているにも関わらず、運営への理解が浸透していません。通常、2学年の複式学級を運営する場合、片方に指導と説明をしている時、もう片方に自習活動をさせなければなりません。しかし、その自習活動を十分に受けさせられず、子どもが時間を持て余すことがありました。他にも、2学年または3学年が教室内で授業を行うため、指導時間を確保できない、準備が不十分になる、黒板や教材の活用アイデアがない、教材の管理ができないなど教員自身の指導技術の向上が大きな課題でした。また、絵本などの教材が全くなく、学校によっては雨期になると道路が分断されてしまうといった問題がありました。

教員の指導能力向上を目指して

多くの課題を抱えるヴィエンカム郡で、2014年にシャンティの活動はスタートしました。プロジェクトの目標は「就学前・初等教育における少数民族の子どもたちへの教員の指導能力向上」です。目標を達成するため、現地スタッフと共にまずは複式学級の指導ガイドブックや読書教材の作成などの出版事業を行いました。また、教員に向けた研修も行い20人前後の参加型研修を行いました。そして、研修後のフィードバック会議やフォローアップで、研修での学びが現場で生かされているかの検証を行い、そのサイクルを何度も繰り返しました。

活動の主役は誰か

プロジェクトは計画することからスタートしますが、計画通りに進まないことも多々あります。その度に修正して、目標までの近道をスタッフ全員で探しました。

プロジェクトにおいて所長の加瀬が特に大切にしたものは「主役は誰か?最前線で奮闘する現場教員の助けになっているか」を絶えず問うことだったと言います。

読書教材の作成・出版では、挿絵に関して意見が合わないこともありましたが、お互いが納得のいくまで何度もスタッフ同士で話し合いを重ねました。研修では、一方的に伝えるのではなく、教員同士の学び合いが促進できているか、という点も重視し、最終的には互いに学び合うことで技術を習得し、教員自身への良い刺激になるようにしていました。また、日本人スタッフがいなくなっても、活動が継続し、教育課題が改善されていくように、研修成果を見る場には現地スタッフも参加しています。

「あくまでも、日本人は補佐。主役は現地の人」という加瀬の言葉がとても印象的でした。

現地の声とラオス事務所の今後

4年間の活動を通じて、以下のような声も聞けるようになりました。

「これまで一度も複式学級に合った指導案を作成したことはなかったが、研修を通じて作成方法を理解でき、授業の準備をするようになった(教員)」
「生徒たちが学校へ登校する時間が以前より早くなった。生徒が授業を楽しみにしている証しではないかと感じている(教員)」
「勉強している時間が一番好き。特にラオス語が好き。書いたり読んだりできるるようになったから(生徒)」

ラオス事務所 所長の加瀬は「NGOの活動は草の根の活動。一つの郡で対象教員200人はラオス全体から見ると小さなものかもしれないが、その200人の教員の先には1万人の子どもたちがいる」と言います。4年間、ラオスのヴィエンカム郡で実施してきたプロジェクトの成果が、今、少しずつ出てきています。

【イベント報告】
シャンティ国際ボランティア会
広報課 インターン 岩松 智子

ラオスでの教育課題の解決に向けて

今後は、今までのラオスでの経験を生かし、ラオス内でもよりへき地での活動を計画しています。ラオスの子どもたちがより良い未来を描けるように、引き続き活動へのご支援と応援をよろしくお願いいたします。