ついに絵本・紙芝居出版を再開!
皆さん、こんにちは。ミャンマー事務所のルウィンマです。本日は2021年以降中断していた絵本・紙芝居出版を今年から再開したことを受けて、私たちの思い、そして一緒に絵本や紙芝居を作ってくれているミャンマーの作家、画家、編集者の思いをお届けします。
(ミャンマーの作家、画家、編集者とシャンティ職員の集合写真)
小学3年生でも1年生で学ぶ単語が読めない
ミャンマーでの軍事クーデターから2年以上が経ちますが、教育、政治、経済、保健医療、あらゆる面で悪化の一途をたどっています。この2年間で、社会全体を見ればこの国の未来を、家庭を見ると家族や友人など親しい人を失ってきました。教育現場では、学齢期の子どもたちが治安面や政治的な懸念から学校に通う機会を失いました。学校の代わりになる学習の場は少しはありますが、ほとんどの子どもたちは学習に遅れが出ています。
学校ではなくても、子どもたちが学習を続けたり、ライフスキル(生きる力)を育むための機会があれば良いことは言うまでもありません。例えば、子どもたちが本を読んだり、遊んだりできるスペースに通えたり、オンライン教育を受けることができれば、子どもたちはまだ成長するチャンスを得ることができます。しかし、インターネットへのアクセスや、経済状況、自主運営されていた図書館の閉鎖、治安の悪さなど、多くの制約があり、ほとんどの家庭で学びの環境を整えることができていません。
この2年間の損失が子どもたちに大きな影響を与えていることを、身をもって感じることがありました。先日会った8歳の女の子(通常では小学校3年生にあたる年齢)は、小学校1年生で学ぶ単語の読み書きができませんでした。この2年間、彼女は学校に行けず、家では遊んでいたため、学校に復学しても、授業に集中できないのだそうです。
別の家庭では、軍政下の学校に子どもを通わせたくないと、この2年間、子どもたちを学校に通わせることを躊躇っていました。そして、子どもたちは勉強する機会を得ないまま、年齢だけが上がっています。
こうした事例は数多く聞かれ、子どもたちは学校に行くことよりも外で遊ぶことに慣れてしまい、子どもたちの行動や習慣にも悪影響を及ぼしています。
絵本ができることは?
読書は学校教育の完全な代わりになるとは言えませんが、子どもにとって重要な支えになります。例えば、義務教育を終えることができなかったものの、多くの本を読んだことで安定した生活ができているという人も見てきました。困難の中でも読書は子どもたちの生きる力を育み、成長の糧になります。質の高い絵本に触れることで、全く教育に触れることができないという環境から少し抜け出せるのです。だからこそ、混乱するミャンマーで、質の高い絵本を出版し、学校に通えなかった子どもたちの元に届けることはとても大切です。
ミャンマーでは、教育事情の変化に伴い、多くの作家や出版社は、私立学校や家庭教育で保護者が利用できるように、さまざまなテーマの絵本の制作に力を入れています。しかし、その一方で、物価高の影響もあり、絵本の価格は高くなっています。そのため、絵本を購入することができる家庭は多くありません。
シャンティができることは?
シャンティでは、2014年から2020年までミャンマーで絵本や紙芝居を出版してきました。シャンティの出版活動の特徴は3つあります。1つ目は手洗いやことわざなど様々なテーマを取り扱っていること、2つ目はミャンマーにいる作家、画家、編集者の育成にも力を入れている点です。物語やイラストなど全ての過程でミャンマーの作家、画家、編集者と一から検討し、日本の絵本作家にも助言をもらいながら試行錯誤して作成しています。同じメンバーと継続して出版活動を行ってきているため、メンバーに知識や経験が蓄積され、毎年質が向上しています。3つ目は出版活動を継続することでミャンマーの児童図書業界を活発にし、流通する絵本の数やテーマを増やしていることです。(シャンティが出版した絵本や紙芝居は無償で学校に配布しています。)
(作家、画家、編集者との会議の様子)
新型コロナウイルスの流行や軍事クーデターにより、2021年からは出版活動を一時中断せざるを得なくなりました。しかし、ご支援者の皆様やこれまで一緒に出版に取り組んできた作家、画家、編集者らの協力を得、2023年から出版活動を再開することができました。再開に向けて、作家、画家、編集者らに連絡したところ、この時を待っていたかのように喜んで参加の意を示してくれました。再開後、初めての対面での会議で会った際には、みんな意欲、喜び、期待、熱意に満ちあふれていました。というのも、これまでの7年間の出版活動を通じて、みんな自分たちの絵本が子どもたちの学びに間違いなく良い影響を与えることを実感しているからです。2023年に出版する絵本や紙芝居もあらゆる角度から考え、試行錯誤しながら制作しています。
「絵本を作れることを楽しみに、シャンティからの連絡を待っていた」
絵本を作る人も育てることの大切さ
作家、画家、編集者らと話をしていると、シャンティが日本から絵本専門家を招いて行った出版研修が、絵本作成の基盤となり貴重なものだったという話をよく耳にします。彼らは研修を通じて表現方法など技術や新しいアイデアを得てくれていました。だからこそ、シャンティは人を育てる研修にも力を入れて活動を進めています。
あるメンバーは、「毎年、新しい絵本を作ったり研修を受けることを楽しみにしていました。シャンティと出版した絵本や紙芝居は私たち作家、画家、編集者としてのキャリアの中でも節目となる大切なものです。だから、シャンティからの連絡を待っていました。シャンティや他のメンバーと一緒に仕事がしたいのです。今ミャンマーでは誰もが予想しなかった事態が起きていますが、絵本出版活動が継続されることを願っています。」と話してくれました。
(作家、画家、編集者との会議の様子 写真内紙芝居:『うさぎとかめ』、脚本 やえがしなおこ、絵 やべみつのり・矢部太郎、童心社)
2023年は学校の授業や自主学習でも活用できる小学生向けの絵本と紙芝居、計5タイトルを作成しています。活動も順調に進んでおり、既に第一ドラフトを作成し終わり、日本の絵本作家らからの助言を受けて改訂作業を進めています。
国の状況がどうなっても、どんな困難があろうとも、子どもたちにとって大切な絵本の出版は今後も続けていくつもりです。ミャンマーの広い地域すべてを支援することはできませんが、出版した絵本や紙芝居が子どもたちへ良い影響をもたらすことを心から願っています。シャンティのメンバーの一人として、このような重要な活動に貢献できることを嬉しく、誇りに思います。
ミャンマー事務所 ルウィンマ