2022.06.09
海外での活動

ウクライナ避難民の子どもたちと絵本の力

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こんにちは。事業サポート課の菊池です。

今年に入って1月末~2月に事業評価のためにネパール、4月末~5月にウクライナ避難民支援初動調査のためにモルドバに出張しました。海外出張は実に2年ぶりだったのですが、今年こそは、現地事業の視察、対面での業務調整できることに期待したいと思います。

 

ウクライナ民話『てぶくろ』

さて、今回、ウクライナ避難民支援のための初動調査でモルドバに入る際に、緊急人道支援対応の書類や物資に加えて、避難民の子どもたちに会う機会があるかもしれないと思い、レクリエーション活動用に折り紙やシール、絵本を数冊持っていきました。

そのうちの1冊は、ウクライナ民話の、エウゲーニー・M・ラチョフ絵、うちだりさこ訳の『てぶくろ』(福音館書店)です。

ウクライナ危機が起きて以降、日本の書店の児童書コーナーでも、「平和」をテーマにした書棚でこの絵本をよく見かけるようになりました。『てぶくろ』は、これまで323万部発行されており、日本の絵本の累計発行部数でトップ10に入っている名作です(株式会社トーハンの『ミリオンぶっく2022』より)。てぶくろの中に様々な動物たちが入り込んでいくこちらのおはなしは、優しさとユーモアを感じることができ、私も保育園に通う息子のリクエストで、何度も何度も読み聞かせをしました。

日本語で書かれた絵本ですが、言葉は違っても、避難民の子どもたちにも親しみのあるこのおはなしを通じて、何か活動ができるかもしれないと思い、持っていくことにしました。

 

モルドバでの活動

モルドバでの調査活動の中で、避難所の責任者と緊急物資支援の話をするまで少し時間が空いた時があり、避難所にいる子どもたちとレクリエーション活動をしました。手遊び、折り紙、絵本の読み聞かせ(この時は、言葉が通じなくても分かるしかけ絵本を使いました)をしたのですが、活動がはじまるとみんな興味津々で活動に参加し、途中からお母さんたちも一緒になって子どもたちの様子を見守っていました。わずかな時間でしたが、子どもたちも楽しい時間が過ごせたようです。


折り紙で紙飛行機づくり(写真:©Yoshifumi Kawabata)


絵本をのぞき込む子どもたち(写真:©Yoshifumi Kawabata)

さて、持参した『てぶくろ』の絵本ですが、現地でウクライナ避難民の子どもたち向けのチャイルドフレンドリースペースを運営している団体の職員の方に渡すことになりました。この絵本の話をした人たちは皆、これはウクライナの子どもたちから高齢者までみんなが知っているおはなしだけど、日本の子どもたちにもこのおはなしが知られていることにはとても驚いたと話していました。

そして、この絵本を通して色々なお話が聞けました。年配のモルドバ人のおばあちゃんの話では、「小さい時からこのおはなしを聞いていたけれど、てっきりモルドバやルーマニアの昔話だと思っていた」とか、出会ったウクライナ人の子どもたちの多くは、「このおはなしのオチは、動物たちがぎゅうぎゅうに入った手袋が、最後にはちきれてしまうところだよ」と教えてくれたりとか、ウクライナ人の子どもたちの中でも、「いやいや、私が聞いてきたおはなしはこの日本の絵本と同様に、最後は動物たちが逃げてしまうよ」とか、面白いやりとりがありました。特に、おばあちゃんが、「この絵本のように、みんなが共存していけるとよいのにね」と話していたことが印象的でした。

今回の訪問した避難所の中では、子どもたちの絵本が置いてあるところはほとんどありませんでしたが、ヨーロッパを中心に、ウクライナの避難民の子どもたち向けにウクライナ語で絵本を届ける取り組みをしている書店や団体もあると聞いています。『てぶくろ』の絵本を渡した団体の職員は、子どもたちはウクライナ語で書かれた絵本を見ると、みんな我先にと飛びつくのよ、と話していました。私が以前駐在していたタイとミャンマーの国境の難民キャンプでも同様の話を聞いてきましたが、この状況の中での、自分の言葉、文化、アイデンティティへの強い思いを感じました。

 

絵本の力

モルドバでウクライナ避難民の子どもたちと直接話して、絵本がそばにあったら、それを読んでくれる人がそばにいたら、どんなに良いだろうと思いました。避難所の職員から子どもたちが描いた絵を見せてもらったのですが、黒く塗りつぶされていたり、怖いイメージの絵が多く、そうした子どもたちのこわばった気持ちを、どのようにほぐしていけるだろうと考えています。

避難してきた子どもたちが描いた絵

 

絵本には力があります。絵本を通して、子どもたちはおはなしの世界に入ってあらゆる体験ができますし、読み聞かせを通して、語り手と聞き手のコミュニケーションによって人への信頼を生み出していきます。その中で、子どもたちは心が揺さぶられ、感動を覚えながら、豊かな経験を積み重ねて成長していきます。私はそのような機会を多くの子どもたちに、味わってほしいですし、特に貧困、災害、紛争下の子どもたちには、積極的に絵本やおはなしを届け、また、それができる環境を周りの人たちと一緒に作っていきたいと思っています。ウクライナ避難民の子どもたちに出会い、そうした気持ちがますます強くなりました。

話は変わりますが、2021年~2022年にかけて、国立青少年教育機構が実施する絵本専門士養成講座を受講し、先月、無事に絵本専門士としての認定を受けることができました。シャンティの活動を通じて、絵本やおはなしの力をさらに広めていきたいと思います。

事業サポート課 菊池