2024.12.25
対談・インタビュー

「社会課題に対して、自分にもできることがある。」という希望_グラフィックデザイナー保田卓也さん

インタビュー

遡ること4年前の2020年。シャンティは2021年に団体設立40周年を迎えるにあたり、団体ロゴをはじめ、団体概要や年次報告書といった皆さまに取り組んでいる活動についてお伝えする広報物や、封筒や名刺に至るまで、デザインの刷新に取り組むことを検討していました。そんな時に出会ったのが、デザイナーの保田卓也さんです。

今回はシャンティの想いに共感いただいて長年ご一緒している保田さんに、40周年にあわせて取り組んだリブランディングの裏側や、今思うことを伺いました。


デザイナー
保田卓也(ほだ たくや)さん

はじまりは旧友の声がけから

保田さんとシャンティの出会いは、2017年ごろからシャンティの映像コンテンツを数多く手がけてくださっている映像作家の江藤孝治さんがきっかけでした。

保田さん「江藤さんから、国際NGOのデザインの相談があって保田くんに合うと思うんだけどどうか、と声をかけてもらったんです。江藤さんとは学生時代からいろいろなプロジェクトに一緒に取り組んでいたので、それならばと思いました」

なにを隠そう、2人は武蔵野美術大学の同級生で、互いによく知る間柄。そんな江藤さんからの誘いに、保田さんは自分が適任なのか少しばかりの不安を抱えながらも、シャンティとの初めてのミーティングに挑んだそうです。

保田さん「最初は団体パンフレットから着手し、そこからさまざまな刷新に取り組んでいきました。シャンティの活動内容を整理するための議論にかなりの時間をかけた記憶がありますが、その時のやりとりを通じて、シャンティの活動や思想を学んだように感じます。ここからシャンティらしさや、ビジュアルのあり方を自分なりに整理し、そこで見出した文法のようなものを使いながら、ほかのツールも刷新していったという感覚です」


(保田さんと整理した、シャンティの取り組みを表現した図)

江藤孝治さんのインタビュー記事はこちら

最初から濃い議論ができたことでシャンティへの理解が深まったものの、難しさもありました。 “必要な支援を必要な時に”という柔軟に寄り添う姿勢がシャンティの特徴である反面、事業の整理はしにくい面があると保田さんは分析しています。

保田さん「事業の多様性や視点の多さは、ある種の豊かさだと思うんです。ただ、これを説明しようとするとはじめは難しかったですね。でも、その豊かさや整理しきれなさこそ、相手のことを思う支援において大切なことだと学ぶことができました」

民族衣装や活動地の自然・風景から感じた色を生かして

保田さんはこれまで「絵本を届ける運動」の報告書や、年次報告書などのリニューアルも手がけていますが、以前と比べて最も変化している点としてはカラフルになっていることだそう。

保田さん「ブランティングのひとつのセオリーとして、同じ色や情報をずっと使い続けることがあります。たとえば、シャンティであればロゴにあるグリーンをあらゆる場面で使い続けることで、“このグリーンの団体といえばシャンティ”と記憶してもらえる、という効果があります。ただ、さまざまな活動に取り組んでいて活動地も多様、さらに活動地それぞれの文化を尊重しているというシャンティらしさをデザインの面でもできる限り表現したいと思いました。そこで、グリーンをメインにしながらも、サブで使う色を10色ほど決めました 。これによって、色味のトーンに統一感を出しながらも、全体としてカラフルで多様な印象に変わったと思います」


(保田さんのデザインによる団体の広報媒体)

この変化は保田さんがシャンティを知っていく中で、これまで活動地で撮影した写真や映像から、民族衣装や自然の風景から多くの色を感じたことも影響していると話します。

保田さん「デザインの色使いの多さとともに、以前よりも笑顔の写真を使うことが増えています。自分自身が以前は、NPO・NGOの活動といえば社会課題を解決する、ネガティブなものをポジティブにする側面が基本で、ビジュアルとしてもネガティブな写真を使うことが多い印象だったんです。でも、シャンティの活動地で撮られた写真は楽しそうで、笑顔なことが多い。
社会問題の訴求だけではなく、継続的にコミュニケーションしていくツールに関しては、確実に届けている希望を伝える方がいいんじゃないかと考えが変わったんです。問題を伝えるより、希望を届けるものにしよう、と。こう思えるようになったのは、シャンティとご一緒するようになってからです。
一方で、ただ楽しげな様子だけが伝わって課題が見えにくくなってしまう、という側面もあって、そのバランスはいつも難しいと思っています」

はじめての試みだったからこそできた議論と整理

ひとつひとつ迷いながら進めてきた40周年のリブランディング。どうしたらより良くなるのか、シャンティとしては暗闇の中を進んでいるような日々でした。何気なく使ってきた言葉を改めて定義していく難しさ、現場を知らない人にも活動について伝える難しさ…こうしたことと真正面から向き合い、保田さんとの議論を積み重ねたことで、解釈を深められたプロセスは大きな財産になっています。

保田さん「はじめての試みだったからこそ、できた議論だと思います。以前よりもシャンティへの理解が進んだことで、言葉の定義などは今ならすんなり受け入れられてしまう部分かもしれません」

たとえば「活動」と「事業」の定義の違い、どんな取り組みを「活動」と呼ぶか?など、シャンティとしても広報物をひとつ刷新するたびに、曖昧だった部分が明確になっていく感覚がありました。

社会課題に対して自分にもできることがあるという希望

最後に、保田さんにとってシャンティに関わる中で今思うことを伺うと、社会とつながるヒントが見えました。

保田さん「最近は、新しく活動地で撮影された写真が届くたびに、そこに小さな希望が見えて自分自身の救いにもなっています。戦争や災害など、社会課題は大きくてどうにもならないように感じますが、小さくても自分にも関われることがある、ということは心の安定にもつながっています」

想いを共にする皆さんと手を取り合いながら、ひとつの組織では成し得ないことに取り組むことで見えてくる希望があります。それぞれができることを、それぞれの強みをいかしながら、これからも進んでいきたいと想いを新たにしました。

保田卓也さんプロフィール 

グラフィックデザイナー。2009年、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。同年、凸版印刷(現TOPPAN)に入社。中野デザイン事務所への出向を経て現在に至る。編集的アプローチとコンセプチュアルな造形を通して「発見」と「定着」が同時に起こるようなデザインを目指し活動している。
ウェブサイト https://www.hoda-design.com/

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企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
インタビュー・執筆:高橋明日香
インタビュー実施:2024年