2011.07.25
読み物

様々な事情を抱えた移民たち

スタッフの声
ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の菊池です。
毎度お伝えしたいことが多すぎて、文章が長くなってしまうのですが、お時間があるときに読んで頂けると嬉しいです

私がメーソットに赴任してから2か月半が経ちました

この2か月半、難民キャンプ訪問やメーソットでの生活、そして事務所スタッフや他のNGOの方の話を聞く中で、少しずつではありますが、難民キャンプも含めたタイ・ミャンマー国境が抱える様々な事情/問題が見えてくるようになりました

今日は、タイ・ミャンマー国境が抱える事情として外すことのできないミャンマー移民について(私の目から見えた範囲で)書こうと思います 

「移民」と一言で言っても、季節労働者として一定期間タイ側で働いている人々、ミャンマーで仕事がなくて、貧困から逃れるためにタイに来た人々、勉強をするために親元を離れてタイ側に来た人々、ミャンマー軍の迫害から逃れてきていわゆる「難民」に該当するような人々など、様々な背景を持った人々が同じメーソットの町で生活しています

タイでは200万人以上のミャンマー移民労働者が働いていると言われていますが、実際にどれほど正確にタイ政府によって把握されているのかは分かりません。それでも、不法移民労働者対策として、直近では、タイ政府の4月26日の閣議決定に基づいて6月15日から7月14日までの1か月間、ミャンマー、カンボジア、ラオスからの移民労働者、及び15歳未満の扶養家族の登録が行われています。これから年末にかけて健康保険申請や労働許可書申請を行っていきますが、タイ労働省の情報によると、6月15日から7月12日までの統計で、合計約76万人の移民労働者が登録され、そのうちミャンマー人は約51万人(約67%)ほどだそうです。この登録、健康保険、労働許可書の一連の申請を行うにあたっては、2,980~3,880バーツ(約9,000円~12,000円)ほどかかります。

 

写真:労働局の地方オフィス。7月14日直前は建物の入り口の前は登録申請する人で埋め尽くされていました。

一方で、先日、新聞記者の方と一緒に、メーソットにあるごみ山、スカイブルーを訪問する機会がありました。このごみ山のすぐ隣に家があり、約30家族が生活しているそうです。そのほとんどがミャンマー人です。彼らは、1日に6~7回来るごみ収集車が捨てるごみから、資源になるようなもの(プラスチックや缶など)を探して売ることによって生計を立てています。ごみをかき分けている人々の中にはまだ小さな子どももいました。ある家族は1日に50バーツ(約150円)、また別の家族は1日に3人で80~100バーツ(約240円~300円)の稼ぎだと話していました。話を聞いた家族は、ミャンマー国内では仕事がないため、タイ側にやってきたそうですが、その日暮らしが精一杯で、とても移民登録や労働許可書申請ができるような費用はないね、と話していました。そのため、不法移民として捕まるのが怖くて、ゴミ山の外に出ることは考えていないそうです。私たちが出会った1つの家族は9人の子どもがいるそうですが、費用の問題でみんなを学校に行かせることはできない、とも話していました。何より私が気になったのは、「生活をどのようによくしていったらいいかよく分からない・・・」と話していた彼らの姿でした。

 

ミャンマーから来た子どもたちのうちタイの学校で勉強しているのは30%未満と言われ、多くの移民の子どもたちは教育へのアクセスの機会が限られている現状があります。そのような中で移民のための学校も作られており、私の住むメーソットのあるターク県には移民学校が74校、1万人以上のミャンマー移民の子どもたちがその学校で勉強しています。先日移民学校の中でも最大のCDC(Children Development Center)を訪ねたのですが、この学校では、保育所からGrade12(高校レベル)まであり、合計1138人が勉強しているとのことでした。また、これらの移民学校の中には、海外ドナーの支援を受けてバンコクや海外の大学へ留学できるプログラムを持っているところもあり、ミャンマーの子どもたちが自立的に学ぶ姿も見られます。その一方で、財政難で運営資金の確保に苦労している学校もあります。

 

 写真:CDCの校舎

 

メーソット市内でも移民学校を見かけますが、その移民学校にも通えない子どももいるのが現実です。私は移民の子どもたちを対象にタイ語を教えている学習センターで、6月末からタイ語を勉強し始めたのですが、私のタイ語の先生もミャンマー出身(シャン族)で、10歳のときに親戚に連れられてタイに来たそうです。ご家族はまだミャンマーの村に住んでいて、今でもミャンマー軍が来たら逃げる生活をしていると話していました。これまで1度も学校に通ったことはないそうですが、幸いお寺で勉強する機会があったそうです。私の先生は20代半ばなのですが、先生に将来の夢を聞いたところ、「自分は学歴もないし、この社会でチャンスを作るのは難しいでしょう」と話していました。また、「難民キャンプでの生活は国際機関やNGOから何でも与えらえる環境だけれども、私たちが置かれている環境は、生きていくのが精一杯」とも語ってくれました。。。

メーソットに来てから2か月半、ひと括りにできない様々な事情を抱えた「移民」の人々に出会って、改めてこの国境の抱える様々な問題について考えさせられてしまいます。私たちの事業は難民キャンプの中で行われていますが、タイ・ミャンマー国境が抱える事情を全体として捉えていくことが、難民キャンプが置かれている立場や、その中で生活する人のニーズ、また必要な教育、支援を見出していくためにも必要だと思います。まだまだ見えていないことがたくさんありますが、自分なりに観察して今後もお伝えしていきたいと思います

ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所  菊池