カンボジア人の証として、この本が欲しかったのです
みなさんこんにちは。支援者リレーションズディレクターの神崎です。
カオイダン難民キャンプというところは、約2キロメートル四方を鉄条網で囲まれた、
赤土の大地でした。キャンプの内外は自動小銃を持ったタイ郡の兵士に見張られて
いました。警備されて、キャンプが軍事的緊張の中に置かれていました。
武装強盗団の侵入や、他の侵入者に対する射殺事件もたびたび起きていました。
カオイダン難民キャンプ
私たちの最初の活動は、ポル・ポト時代の焚書によって失われたクメール語の書籍を、
タイの国境地域から探して、それを印刷して本にすることでした。
マイクロバスに本を積み、巡回活動を始めましたが、せっかく作った貴重な本が次々と
無くなっていくのです。図書館を利用したことはもちろん、美しい絵本に触れたことがない
子どもたちに、絵本が欲しいという欲望を抑えられなかったのだと思います。
ある日、絵本を盗んだ女性を見つけ、図書館というものの正確を説明して、返却してもらいました。
そして女性がこう話したのです。
私はまもなくオーストラリアに定住します。
オーストラリアではカンボジア語の本が手に入りません。
私の子どもたちはまもなくカンボジア語を忘れてしまうでしょう。
でもこの子は間違いなくカンボジア人なのです。
カンボジア語を忘れたカンボジア人ってあるでしょうか。
絵本を見ている内に、どうしてもこの1冊だけでもオーストラリアへ持って行きたくなったのです。
そして、子どもたちにこれがカンボジアの言葉だと教えてやりたかったのです。
カンボジア人の証としてこの絵本が欲しかったのです。
カオイダン難民キャンプで出版された本
祖国を追われ、人としての尊厳も民族のアイデンティも失われてしまった人たち。基本的な人権は国が守ってくれるとされていますが、その体制の枠組みの外にいる人たちは、何も保障もありません。
難民問題はとかく飢餓やその悲惨さで認識されてしまいがちですが、難民問題は人権に関する問題だと思います。仮に飢えが解消されたとしても、問題が解決されたことにはなりません。人間の尊厳という問題が何よりも優先されなければいけないところが破局しているのです。
自分は何者なのでしょう?
カンボジアの女性が語った言葉は、祖国を失い、自らのアイデンティを文化や言語に求めようとする痛切な訴えでした。
~忘れられた難民キャンプ~
タイ側にはミャンマーから逃れてきた人々が暮らす難民キャンプがあります。1949年よりミャンマー(ビルマ)国内の少数民族の反政府勢力とミャンマー(ビルマ)軍事政権とによる対立が始まり、1975年以降、戦闘や人権侵害を逃れて人々がタイ側へ流出してきました。
ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ 斜面に住居が立ち並ぶ
©Yoshifumi Kawabata
そして、2011年の民政移管以降、難民キャンプのリーダーの間では、難民たちの自主帰還が議論されています。2015年11月の選挙で、アウンサンスーチー氏率いるNLDが勝利し、ミャンマー国内が民主化に動いている中で、今後、帰還に向けた具体的な準備が一層進んでいくことが想定されています。
一方で、難民キャンプへの国際的な支援は年々減少の一途をたどっています。困窮した生活の中、より稼げる職を求めて、人材が流出しているという問題もあります。さらに、第三国定住を選択する人が国外に行くことによる人材流出もあります。
帰還に向けた議論や、キャンプへの支援の減少、人手不足などの問題があいまって、難民にとっては先の見えない状態が続いています。それに伴い、若者の非行や自殺が後を絶たず、新たな問題となっています。
絵本の扉を開くとき
©Yoshifumi Kawabata
今後難民キャンプでは、帰還に向けた重要な局面での舵取りがされるでしょう。
これまで15年に渡って難民に寄り添い続けてきたシャンティにできることは、それぞれの難民が将来的にどの道を選ぶにしても、彼らの決断を支え、難民キャンプがなくなるその日まで図書館活動を通じて人びとを励まし続けることだと考えています。
そのためには、皆さまからのご支援が必要です。
どうぞよろしくお願いします。
「まだ本を知らないアジアの子どもたちへ10万冊の絵本を届けたい!」