100年先も見てもらえる映像を、1回限りの出会いでつくりあげていく_映像作家 江藤孝治さん
シャンティの活動は、ご支援者の皆さんやボランティアの皆さんなど数えきれないほど多くの方々に支えられています。その中で、それぞれの専門分野でお力添えいただいている外部パートナーの皆さんも欠かすことのできない存在です。
シャンティの想いに共感いただいて長年取り組みをご一緒している外部パートナーの皆さんにもこれから登場していただこうと思います。
今回は2017年からシャンティがお届けしている映像のほとんどを手がける、映像作家の江藤孝治さんです。シャンティとの出会いから、シャンティでの撮影時に意識していること、今後に対する想いなどを伺いました。
映像作家
江藤孝治(えとう たかはる)さん
社会課題に向き合い悪戦苦闘する姿を追いたい
江藤さんとの出会いは振り返ること2017年。もう7年も前のことです。シャンティがNHKのドキュメンタリー番組で取り上げられた際に、当時制作ディレクターとしてシャンティへの密着取材を長期間にわたって担当してくださっていたのが江藤さんでした。通常であれば密着期間が終われば、関係性は失われてしまうことがほとんどですが、江藤さんは密着終了後もシャンティの活動に関心を持ってくださったのです。
江藤さん「シャンティの密着取材を担当する以前もNPOの取り組みを撮影することはありましたが、NPO自体への理解はそこまでなかったように思います。たとえば、災害時の人道支援や、教育関係でいうと学校を建設するといったハード面の支援を想像していました。
シャンティの活動を知っていくうちに、社会課題に向き合って悪戦苦闘している職員の皆さんの姿と、事業内容のユニークさに興味を持ちました」
当時のシャンティは団体設立から35年が過ぎたころ。今後どのように団体として変化を遂げていくべきかを模索している最中でした。シャンティがこれまで積み重ねてきた成果や、活動の軸である「絵本を届ける運動」に関わる人の想いなどを、映像という形でも残していきたいと考えていたところ、江藤さんであれば相談しながら、共に悩みながら進めていけるのでは…と思い、ご一緒するようになりました。
江藤さん「関心があったので、ぜひやらせてください!とお答えしました」
1回限りの出会いと、1回限りの瞬間でドキュメンタリーを紡ぐ難しさ
最初に江藤さんと制作した映像は『本の力を、生きる力に。アジアの子どもたちに届けられた27万冊の本』と題した、絵本を手にした人々のストーリーを紹介する動画でした。
それからコロナ禍に入る前までは、ミャンマーやカンボジアなど、年に1回ほどのペースでシャンティの活動地を訪れ、絵本を手にした人々のストーリーや、アフガニスタンの子ども図書館の1日など多岐にわたる内容の映像を手がけてくださっています。
江藤さん「シャンティの撮影は、僻地や難民キャンプなど立ち入り困難な地域も多く 下見ができないのが難しい点ですね。過去の資料をみたり、シャンティの職員さんや現地の方から話を聞いたりして、こんな映像であれば撮影できるのでは…と検討していく、点を線にしていくプロセスが大変です。事前にストーリーをイメージしていても、現場に行くと事情が異なり、出演者をその場で探さなければならないことも多いです。でもその出会いが、奇跡的なものだったりします。1回限りの出会いと、1回限りの瞬間でつくりあげていくというのは、ドキュメンタリーならではの難しさであり醍醐味かもしれませんね」
本の力を、生きる力に。アジアの子どもたちに届けられた27万冊の本
日常に寄り添いながら、自然な形でカメラを回す
江藤さんとご一緒するようになった理由のひとつに、カメラマン、録音担当、ディレクターといった複数名で撮影する形ではなく、一人で撮影から編集までできるという強みもありました。活動地でもシャンティのチームメンバーとして溶け込みながらコミュニケーションしてくださるので、海外事務所の職員や現地で出会う人の中には、江藤さんのことをシャンティ職員だと思っている人も多いかもしれません。
江藤さん「シャンティの活動地で映像を撮る時はいつも、できるだけ普段通りの様子をとらえられるよう、その場所におけるふだんの日常に寄り添いながら、過剰に演出をせず 自然な形で撮影を進めることを意識しています。
絵本を手にした子どもたちの目の輝きや笑顔、そんな子どもたちを支え、見守る大人たちの姿は映像でしか伝えられないと思うので、そういうところをぜひ見てもらいたいです」
どこへでも 誰にでも −ラオスの移動図書館活動−
100年先も見てもらえる映像をつくりたい
もともと遠くにボールを投げるように映像をつくりたい、という思いを抱いていたところ、シャンティと関わるようになり、ますますその想いが深まったそう。
江藤さん「シャンティの活動も気が遠くなるような、砂漠に水をあげて植物を育てるような取り組みだと思っているので、すごく励みになります。若林会長のメッセージ映像を制作した際に、100年スパンで物事を捉えていることにも感銘を受けました。シャンティと出会って、普段自分がもちだす近視眼的な時間の物差しだけではない100 年単位のスケールを1つ自分の中にインストールできたように感じています。できては消えていくコンテンツが氾濫する現代において、100年先を見据えて活動するシャンティのように、100年先も見てもらえるような映像をつくっていけたらと思います」
地域から描く、地球市民社会の地図~ 若林 恭英~
江藤孝治さんプロフィール
映像作家。福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業 卒業。在学中、探検家・関野吉晴氏の探検プロジェクトに帯同しながらカメラを回したドキュメンタリー映画『僕らのカヌーができるまで』を制作・公開。
卒業後、映像制作会社「グループ現代」「ネツゲン」に所属しNHK番組など映像コンテンツの制作に多数携わる。2014年、若手現代美術家の加藤翼とアメリカインディアンの交流を追ったドキュメンタリー映画、『ミタケオヤシン』制作・公開。2018 年7 月よりフリーランス。
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企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
インタビュー・執筆:高橋明日香
インタビュー実施:2024年