2022.03.11
読み物

記念対談 vol.1 やべみつのり先生×三宅隆史【本がひらく未来】

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絵本のチカラ

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会40年記念対談
【本がひらく未来】

アジアにおける絵本・紙芝居作りの指導に25年に渡って尽力いただいた絵本・紙芝居作家のやべみつのり先生と、「曹洞宗国際ボランティア会」時代からやべ先生と仕事を共にし、現地での作家育成と作品の制作・出版に携わり続けてきたネパール事務所 所長の三宅隆史が、絵本や紙芝居の持つ力、そしてシャンティが変わらず大切にしていることについて語ります。


対談日:2020年9月25日
『ほねほねマン』脚本 ときわひろみ、絵 やべみつのり、童心社


子どもの想像力は計り知れない

三宅:子どもって、見たことも行ったこともないところを容易に想像することができますよね。閉塞的な難民キャンプでも絵本や紙芝居は、そうした子どもたちの想像力を育む心の栄養のようなものだと思うんです。

やべ:子どもの想像力は、大人からは計り知れないものがありますよね。どんな状況でも想像力を働かせて、生きる力にしてしまう。

三宅:やべ先生の『かばさん』(こぐま社)も、子どもたちにすごく人気がありますね。

やべ:難民キャンプの子はカバなんて見たことがないだろうし、お父さんと小さい子が遊ぶというのもおそらく想像しにくいですよね。そんな難民キャンプの暮らしとはほど遠い作品を好きだと言ってくれる子がいるというのは、作者にとっては奇跡です。

三宅:普遍的な価値がある本は、国に関係なく人気があります。例えば『おおきなかぶ』はロシアの民話ですが、アフガニスタンでもすごく人気があります。ただ、タリバン時代に偶像崇拝禁止というのがあって、その名残で先生たちからすれば「こういう絵本は偶像崇拝じゃないか」と。だから「そんなことはコーランには書いていない」と、イスラム教の教えを踏まえた上で研修をやるんです。


アフガニスタンの出版関係者への研修

図書館は子どももおとなも自分らしさを取り戻す場

三宅:ミャンマーの難民キャンプでは、紛争や貧困で家族を失ったり友達が怪我をして、心の傷を負っている子どもたちが大勢います。ある子どもの作文によれば、家では父親に叩かれたり、学校では着ている物が汚いと友達から馬鹿にされたりするけれど、図書館に行ったら気が晴れるんだと。

やべ:つらい経験を乗り越えるには、負った心の傷の何倍もの楽しい時間が必要になる。その役割を果たすのが図書館だというわけですね。

三宅:子どもだけでなく、大人にとっても同様です。例えば、アフガニスタンでは、先生になる前はムジャヒディン(イスラム戦士)として戦っていたという人が、先生になって子どもたちの前で絵本の読み聞かせをする。最初は戸惑うんですが、実際やってみると子どもたちがすごく笑って喜んでくれる。読み聞かせを通して、先生自身の気持ちも変わっていくんです。


難民キャンプの図書館で大好きな絵本とともに

アジアの作品を日本に逆輸入したい

やべ:作品づくりを通して実感したのは、アジアの人たちは、日本人が失いつつある人間として大事なものをまだまだ持っている。そういうものが絵本や紙芝居になって、逆輸入のようにして見せられたらいいですよね。

三宅:先生のアドバイスを受けて作ったアジアの人たちの作品を、今度は日本の人たちに見てもらおうと。

やべ:そういう試みもぜひシャンティには期待したい。もちろん一緒に学び合うところから始めてもいいと思うんです。日本の人たちにとっても、アジアの人たちから学ぶところはきっとたくさんあるはずですから。


ミャンマーでの研修講師を務めたやべ先生

粘り強く他の団体ができないことに取り組む!

三宅:シャンティを立ち上げた有馬実成氏は「難民の人たちは着の身着のままで逃げてくるわけではない、文化という重要なものを持ってくる」と言っています。それを大切にして、基礎にして、他の衣食住を支援するんだと。

やべ:衣食住はもちろん、文化的な面が人の生きる基礎になるということはありますよね。

三宅:「本や図書館を通して文化や教育を支援する」というシャンティの活動は、国際協力の中では二の次に考えられがちですけれど、他団体や国連がなかなかできないことをやっていると自負しています。

やべ:敬服しますね。本や図書館の支援というのは、始める時や最初のうちはなかなか成果が見えない。地道に粘り強くけもの道を切り開いてきたというところが、僕はものすごく大事だと思います。シャンティの活動あってこそ、たくさんの子どもたちが本と出会えて、それだけ世界が広がったということなんですから。

アフガニスタンの子ども図書館

対談動画

プロフィール

絵本・紙芝居作家 やべ みつのり先生

1942年岡山県倉敷市生まれ。1977年より、造形教室「ハラッパ」を主宰。現在は各地で造形遊びや紙芝居作りのワークショップを開いている。絵本『かばさん』(こぐま社)、『ふたごのまるまるちゃん』(教育画劇)、『ひとはなくもの』(こぐま社)、紙芝居『ほねほねマン』(童心社)など。

ネパール事務所 所長 三宅 隆史

広島県広島市出身。1994年シャンティに入職、海外事業課長、ミャンマー(ビルマ)難民支援事業事務所、企画調査室長、事務局次長、アフガニスタン事務所長、タイ事務所アドバイザーなどを経て、2017年よりネパール事務所長。教育協力NGOネットワーク(JNNE)事務局長、開発教育協会理事。

企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
編集:藤原千尋