2022.07.19
対談・インタビュー

記念対談 vol.4 京都大学連携講師 直井里予さん×中原亜紀 【難民キャンプの図書館で育まれた平和と文化】

スタッフの声
対談

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会40年記念対談
【難民キャンプの図書館で育まれた平和と文化】

2021年2月にミャンマーで発生したクーデターによって、帰還の足止めを余儀なくされている難民キャンプの人々。そんな中、図書館にできることは何か。ミャンマー事務所 中原所長と直井理事が現状と思いを語ります。

対談日:2020年10月26日


難民キャンプの現場と課題

直井:難民キャンプの課題として、今どんなことが挙げられますか?

中原:キャンプでは自分の国について知らずに生まれ育った子どもが全体の3〜4割以上を占めています。基本的にキャンプの外には出られないので、子どもたちはキャンプの世界しか知らない、自由もない、権利もない。NGOの支援によって勉強は続けられますが、卒業後は仕事を手にすることもできない状況です。

直井:仕事ができないというのは非常に深刻ですよね。

中原:キャンプでの生活が長く続けば続くほど、民族としての誇りもアイデンティも失われてしまいます。そこを図書館に通うことで強くしていきたい、自分の民族に愛着を持ってもらいたいと考えています。図書館には大人もたくさん訪れるので、多くの知識や経験を得ることもできます。それもまた子どもたちの成長にとって大きな糧になっている。図書館は生きる力や意味、喜びを得る場所でもあると思うんですね。

直井:シャンティの活動の根底にある「共に生き、共に学ぶ」ですね。価値観や文化の違いはあれど、そこを乗り越えて、互いに痛みを抱えながら、一緒に生きていく。シャンティでは「難民子ども文化祭」という取り組みもやってきましたよね。

中原:ミャンマーは多民族国家で、カレン族をはじめ135の民族が共存しているといわれます。難民子ども文化祭を通して民族というものを大事にしてほしい、そして子どもたちが民族間の理解を深め、共感し、共に歩んでいってもらいたい。そんな願いを込めて開催してきました。

直井:昨今はクーデターも起きました。

中原:今回のクーデターで、これまで粛々と続いていた帰還も完全に閉ざされてしまいました。難民キャンプでの生活はもうしばらく続かざるを得ないと思います。そうしたときに私たちに何ができるかというと、やはり図書館活動を継続していくということですよね。キャンプの人たちが楽しみや夢、喜びを見出せる希望の空間としての図書館は、絶対に残したいと思っています。

直井:シャンティでは、地域の人たちと共にコミュニティーリソースセンターも運営していますよね。こうした地元の人たちと一緒に作り上げるボトムアップ式の活動には、私も非常に期待を寄せています。

中原:一番辛く悔しい思いをしているのは地域住民の方々ですよね。そんな皆さんが「このセンターは私たちが継続します。自分たちの力で受け継いでいって、子どもたちの教育支援や地域開発にもしっかりと貢献できるようにしていきます!」と言ってくれて。本当に心強かったですね。

図書館で育まれた平和と文化

中原:難民キャンプでの図書館活動は2000年にスタートしましたが、軌道に乗るまでにはさまざまな問題がありました。図書館運営はシャンティではなく現地の皆さんが行うという形に持っていきたかったのですが、そもそもみなさん絵本も絵本の読み聞かせもやったことがない。そこから意義を理解してもらい、責任を持って運営に参加し、図書館が地域の人々から愛される場所になるまでには5、6年かかりました。

直井:図書館というのは、人と人とが出会う空間にもなるわけですよね。本を読むだけでなく雑談をする時間もあって、偶然の出会いもあって、おしゃべりが始まって、そこで関係性が生まれる。そういった空間の形成というのは、とても貴重なものだと思います。

中原:図書館員も子どもたちと触れ合い、関係性を構築していく中で、多くの学びや経験が得られたようです。初期はどこか他人事のような部分もありましたが、次第に自ら進んで青少年向けの活動やお年寄りのための活動など、図書館を通したコミュニティとの連携を考えるようになっていきました。シャンティの図書館活動がここまで継続できたのは、こうした試みによって地域に認識されていったことが大きいような気がします。

直井:図書館活動の一環で、絵本コンテストもやっていましたよね。読むだけでなく自分たちで本を作るというのはすごいことです。

中原:子どもたちが自分たちの言語で絵本の世界に入っていくと、理解度が全然違うことに驚きました。言語を取り巻く文化をしっかり継承していく。それは平和や文化に対する意識が培われていくことにつながると思うんですよね。

直井:こちらはやたらとプッシュするのではなく、そっと見守る、そして存在を忘れないようにする。そうすることでお互い前に進めるというか、平和を作っていけるというか。

中原:本当にそうですね。平和を作っていくのは現地の人たちであって、第三者が「これが平和です」って押し付けるのはおこがましい。相手が望む本当の平和をどう作っていくか、そこを一緒に考えるのが大事なのだと思います。

NGOの機動力 難民キャンプでの支援を続けることとは

直井:難民支援に関して言えば、やはり政府の方針がコロコロ変わりますよね。それに対応できるのはやはりシャンティのようなNGOしかないんじゃないかと思うんです。臨機応変に対応できるNGOの機動力。そうしたところが今非常に求められている気がします。

中原:小規模であっても継続していけるというのがNGOの強みですよね。フレキシブルに、柔軟性を持って関われる。だから続けられる限り続けて、難民の人たちが必要とする支援を最後までしっかり続けていきたい。それがシャンティの使命だと思っています。

直井:難民と一括りにせず、一人ひとりの声を聞いていく。それができるのがシャンティの強みだと思います。共に力を合わせて、対策や政策を考え生み出していく可能性もあるのではないでしょうか。

中原:将来への展望が見えにくい状況にあっても、先の未来を一緒に描ける関係性でいたいですよね。いずれ難民キャンプが閉鎖されたら、あるいはミャンマー国内に平和が訪れたら、その時はこういうことを実現したいよね、達成したいよねと、夢や目標を一緒に作っていく。シャンティはそういう団体でありたいなと思いますね。

プロフィール

ミャンマー事務所 所長
中原亜紀

1998年入職。タイ・バンコク事務所でスラム地域開発事業を担当した後、ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 所長、東京事務所海外事業課 課長、ミャンマー事務所 所長、シャンティ・ミャンマー国境支援事業事務所 所長を経て、2022年1月から現職。

京都大学東南アジア地域研究研究所・連携講師
直井里予

1998年からアジアプレス・インターナショナルに参加し、北タイのHIV陽性者やカレン難民に関するドキュメンタリー映画を制作。2011年からは京都を拠点に活動中。ドキュメンタリー映画作品に『昨日今日そして明日へ』、共著に『越境する平和学』(法律文化社)などがある。地域研究博士。

企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
編集:藤原千尋、高橋明日香