2019.05.06
海外での活動

複式学級講師養成講座実施

ラオス

皆様、こんにちは。ラオス事務所の玉利です。
10連休はいかがお過ごしでしたでしょうか。

ラオス事務所では、4月29日から5月4日まで、複式学級運営の講師養成講座を実施しました。これは、ラオス北部にある3ヶ所の教員養成校教官7名が分担して講師を担当し、事業対象であるルアンババーン県2郡の教育・スポーツ局職員12名に対して、複式授業に必要な技術や知識を教えるものです。また、昨年の秋に札幌で実施した研修に参加した教育・スポーツ省・局担当官、ラオス北部3ヶ所の教員養成校教官が中心となって、昨年12月から複式学級運営の手引きを開発してきましたが、それを用いて行う最初の研修でもありました。

この手引きには、今までラオスにはなかった日本の教育概念を取り入れたため、関係者間で共通の理解を得るのに時間がかかり、またそれをラオスの教育現場で取り入れることができるかどうかかなり議論したため、手引き第1版の完成が講座に間に合うかどうか最後まで危ぶまれました。更に、講師用ガイドの作成や講義の準備も必要であったため、当初予定していなかった準備会合を3日間行って手引きをまとめ、講義内容の確認と模擬授業などを行った上で29日からの講座を迎えました。

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<熱心に講座を受講する参加者、後方は講師チーム>

では、具体的にどのような点が新しい概念かと言いますと、まずラオスのような途上国では教員が児童に一方的に物事を教える事が一般的で、児童が自ら考え知識を向上させるような授業構成にはなっていません。そこで一つの授業の中で「課題把握」「解決努力」「定着」「習熟・応用」という4段階の学習過程を設定し、そのうち「解決努力」と「習熟・応用」の2つを、教員が直接教えなくても児童が自ら考えて活動を行う「間接指導」の時間にします。更に、一人の教員がこの学習過程を異なる学年の児童に同時に用いる事ができないため、通常上学年の児童に対して学習過程の順番を入れ替える「ずらし」という手法を取り入れています。これにより教員は各学年を交互に「直接指導」し、児童は「直接指導」と「間接指導」を繰り返す事によって、複式であっても時間を無駄にする事なく学習できます。

また、ラオスの複式授業では先生が指導していない学年の児童が何もしないか遊んでしまっているケースが多いため、その時間を児童の能力向上に有意義な時間に変更するべく、様々な手法や活動、教材を紹介していきます。複式授業の成否はいかに「間接指導」の時間を有効に使用するかにかかっている、といっても過言ではありません。

いざ講義が始まると、講師である教員養成校の教官達は、さすがに普段から教えることに慣れており、会議中の深刻な表情とは打って変わって明るく、アイスブレーキングなどを取り入れて授業を盛り上げてくれました。また、他の教官も参加者のコメントを書き出すなど講師の補佐を行い、協力しながら講義を進めていきました。更に、この講座には日本で複式及びへき地教育の分野で研究実績のある北海道教育大学の教授2名がご参加下さり、参加者の理解が不十分と思われる点には補足を頂き、一部重要な点について直接講義を行って頂きました。

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<講師チームによる講義>

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<北海道教育大学教授による講義>

一方、研修生である郡教育局職員も、個人差があったとはいえ、普段から小学校教員に対し技術的な指導を行っている方々が多く積極的に参加され、グループワーク後の発表などでは熱のこもった説明がなされました。さすがに初めて耳にする複式授業の手法には戸惑っている方も見られましたが、全般的に参加者の質問や意見は建設的で、今後の複式授業の手法の広め方や手引きの改定に参考になる意見も多かったです。講座の4日目には、参加者が近郊の小学校を訪問し本研修で学んだ内容を取り入れた模擬授業を行いました。その後の振り返り会議では、模擬授業の良かった点、改善点を議論し合っています。今後彼らが本講座で学んだ複式授業の技術・知識を、学校の教員達に対して研修を行って教えていく事になります。

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<グループワーク>

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<参加者によるグループワークの発表>

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<参加者による学校での模擬授業>

講義期間中で印象的だった事は、1日の講座が終わった後、講師チームである教育省・局、教員養成校教官たちが自主的に反省会を開き、その日の各講義内容を振り返り、翌日の内容に関する確認を真剣且つ率直に話し合っていた事です。その内容も「講義内容はより複式授業にフォーカスするべき」、「直接・間接指導についてはもう少し演習を入れた方が良かった。」、「参加者が講師の講義に集中できなくなるために、サポーターは参加者と話すべきではない」など実践的な内容が多く、講師チーム自体も、直接教えることで自らの知識を深め講義技術を高めていく事に繋がったようです。複式授業運営の知識・技術はかなりハードルが高く難しいものですが、関係者にこれだけの熱意があれば、ラオスに普及させていく事も可能と期待させてくれました。

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<自主的な反省会の様子>

日本では50年近い経験と実績がある複式授業の教授法がラオスでも普及し、子ども達の学習改善に貢献できるかどうか、まだこの先の活動次第でどうなるかはわかりません。ただ、昨年8月に事業を開始して依頼、最初の1,2歩は概ね順調に来ているという印象です。この先はまだ長い道のりですが、少しずつ目標の達成に向けて活動を行っていきます。

*この事業は国際協力機構(JICA)の草の根技術協力で実施しています。

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