国境の街で学んだこと
ハラゲー!(カレン語でこんにちは)
現在、シャンティ国際ボランティア会ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所にて、NGO海外研修プログラムに参加しています、藥丸涼花と申します。タイとミャンマーの国境の街メーソットに来て20日以上が経ち、研修も最終週に入りました。今回のブログでは、研修生として活動で見聞きしたこと、感じた事をお伝えしたいと思います。

コミュニティ図書館にて。一番左が筆者
これまでの活動
研修の1週目は、まず事務所にて支援事業について説明を受け、翻訳絵本作りの活動を体験、そして本や物資配布の準備を行いました。2週目はシャンティの支援活動現場の訪問を中心に行いました。難民キャンプを訪問し、そこに住む人びとの現状や生活を知ることができました。たくさんの学びがあった週でした。3週目はオフィスワークと訪問の両方行い、4週目の締めくくりの週は別の難問キャンプの訪問や報告書の執筆などを行います。
今回の約1か月にわたる充実した海外研修プログラムは、渡航前から手厚くサポートしてくださった東京事務所、そして現場の最前線で温かくご指導いただいたミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の皆様の多大なるご支援により実現しました。この場を借りて心より感謝申し上げます。
メーソットという街について
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所があるのは、タイの北西部に位置するターク県メーソットという街です。メーソットはタイとミャンマーの国境の街で、川の向こうはミャンマーカレン州のミャワディーです。
タイとミャンマーの国境沿いには難民キャンプが9つありますが、その内3つがターク県内にあります。町にはタイの文化の他に、ミャンマーやカレン、ムスリム、中国系などの文化が混ざり合っている様子を感じます。カレン族の布の肩掛けバッグを持っている人や、伝統衣装を着ている人、木をすりつぶして作る日焼け止め「タナカ」を顔に塗っている人に出会いました。使われる言語も様々で、レストランのメニューにはタイ語とビルマ語が併記してあり、よく聞いているとカレン語の挨拶も聞こえてきます。活動中はタイ料理だけでなく、ミャンマー料理やカレン料理を食べる機会もありました。事務所の職員さんにもカレンの方がいて、業務中はタイ語・カレン語・英語が飛び交っています。

メーソットのマーケットの様子
国境を越えればすぐミャンマーという場所の特徴を、活動中に何度も意識をすることがありました。事務所で、学校で、休日にマーケットを散歩している時でさえ、国境の向こう側から爆発音が聞こえてきました。国境のこちら側では危険なことはありませんが、それでも砲声が聞こえる中、学生から好きな本の聞き取りをしたことは印象的でした。川のこちら側は安全で、ミャンマーの人もたくさん暮らしているのに、川の向こう側では紛争が起こっているということ。日本では、身近に陸続きの国境や紛争を意識することはありませんが、メーソットに来て国境や隣国、紛争という概念を強烈に意識することになりました。
難民キャンプへの訪問
研修で訪問したウンピアム難民キャンプは、事務所から車で2時間ほどの深い山の中にあります。人口1万1000人を擁する大規模な難民キャンプです。曲がりくねった山道を進むこと1時間、乾季でも濃い緑色を残した山肌一面に家が建ち並ぶ風景が見えてきます。道中、ロンジーと呼ばれるミャンマーの伝統衣装を身に着けた人や、カレン族の肩掛けバッグを持った子供たちを見かけました。地面に降り立つと少しの湿気と肌寒さを感じます。
今回の訪問の目的は、キャンプの現状を把握し、学校と図書館の活動を確認することです。到着してまず事務所では、ウンピアム難民キャンプの状況についての説明がありました。食料供給が限定され、一部の脆弱な世帯にしか食料を供給できないこと、国際的な動向を受けて保健医療サービスを担っていたNGOが撤退し、キャンプ内の医療事情が悪化していることなどが課題として挙げられました。
次に、キャンプ内に2校ある高校のうち、1校にお邪魔して教育事情に関するお話を伺いました。教育支援のNGOの一部が撤退し、学校運営が難しくなっていることと、保護者の負担が大きくなっていることが報告されました。校舎の修繕費用がなく、教科書などの物資も不足しているとのことでした。生徒数500人、1年生から12年生を擁する大規模校で、現在はテスト期間だということですが、昼休みに中庭に出てきて私たちを遠巻きにする興味津々といった顔が印象的でした。
キャンプ内のコミュニティ図書館では、図書館青年ボランティアが子どもたちに読み聞かせをしているところを見学しました。体を動かすアクティビティを行った後、動物がたくさん登場する本を取り出します。小さな子どもたちが飽きないように、動物の名前を問いかけたり声色を使い分けたりと工夫しながら読み聞かせをしていました。図書館は停電中でしたが、子どもたちがわっと盛り上がると周りが明るくなるようでした。このボランティアは高校3年生の女の子で、この図書館で4年間読み聞かせを行ってきた大ベテランです。図書館を訪れる子どもと遊ぶのが好きで、将来は学校の先生になりたいと話してくれました。話の途中、突然大粒の雨が降ってきて、乾季だというのに土砂降りになりました。トタン屋根は、雨漏りはしにくいものの、雨が降ると隣の人の声も聞こえないほどの騒音になります。ウンピアム難民キャンプは深い山の中にあるので昼間でも涼しく、天気も変わりやすいそうです。
最後に、キャンプの住民の方の家を訪問させていただきました。近所から注文を受けて洋裁の仕事をしている女性は、いつか祖国ミャンマーの状況が落ち着いたら帰りたいと話します。中学3年生の娘さんは、困っている人を助けるため将来は弁護士になりたいそうです。高校3年生のお姉さんは医者になりたいと少し恥ずかしそうに話してくれました。
支援が減少してキャンプでの生活が苦しくなる中で、コミュニティに貢献する青年ボランティア、将来の夢を語る学生の姿がまぶしく感じられました。それと同時に、彼らの生活を目の当たりにしても何もできない無力な自分に歯がゆさを感じました。

読み聞かせをする図書館青年ボランティア
おわりに:国境の街で学んだこと
難民キャンプの訪問と事務所での様々な活動を通して、図書館は単なる学習施設ではなく、進路を切り開くツールであり、心のよりどころとなっていることに気付きました。現場で出会った同世代の図書館青年ボランティアたちや、懸命に学ぶ子どもたちの姿は、自分に何ができるのかを深く考えさせるものでした。また、事務所の方が難民キャンプの住民に対して、どのような支援が必要なのか、真摯に向き合っていることが感じ取れました。
メーソットに来て、困難な状況にある人々の生活や教育環境に触れ、今まで自分がいかに恵まれた環境で育ってきたかを実感しました。活動の前半に、難民キャンプ出身の方からかけられた言葉があります。
「私たちは貧しい。あなたもキャンプを訪問したらそれが分かるはず」
これを聞いて、私は何も言えませんでした。そうだとも違うとも、かわいそうだと言うのも違う気がして、ただ立ち尽くすことしかできませんでした。今も、あのとき何を言えばよかったのかはわかりません。
私は日本から来た研修生という外部者です。だからこそ、日々のフィールドノートやこのブログを書く際も、私の視点で安易に評価的な感情を書いてはいけないのではないかと、何度も表現に迷い、恐れを感じてきました。メーソットでの研修はもうすぐ終わります。日本から、ニュースや本からではわからない現実を見聞きし、悩み、考えてきた研修期間でした。複合的で難しい問題であり、簡単に答えは出ません。しかし、言葉に詰まり、難しいと思考をやめたくなるような現実の前に立ち続けること。そして、現地で感じた砂埃の匂いや雨漏りの音、若者たちの夢を自分の言葉で日本の社会に接続すること。それが今の私の役目だと思っています。「外部者」として感じた無力感や葛藤も忘れずに、自分に何ができるのか、これからも考え続けたいと思います。
シャンティ国際ボランティア会 NGO海外研修プログラム
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所研修生 藥丸涼花


