コミュニティ図書館、識字教室開始!
夜にやってきました、コンポントムにあるニーペック集合村です。
無電化地帯で、夜は村全体が暗闇に包まれますが、
その中で月と図書館だけが光を放っています。
図書館の中をのぞいてみましょう。
なにかやっているようです。
中に入ってみます。
先生がクメール語で1,2,3と書いています。
識字教室です。
前からのぞいてみました。
みなさん、とても楽しそう。
ちなみに最前列真ん中の緑のTシャツの女性は、前回ご紹介したパ・ポムさん(33歳)です。
読み書きができるようになりたいと話していましたが、一番前で積極的に参加しています。
参加者は20歳~70歳までの25人の女性と小僧さん8人の合計33人です。
練習問題は、手のひらサイズの黒板に答えを書き、先生がチェックして回ります。
明かりは、車のバッテリーからの電気と、パナソニック様からご支援いただいたソーラーランタンを
使用しています。
教室の中は活気に溢れています。
中列の女性たちです。
後ろの方たちです。
前から後ろまでみんな笑顔です。
ユーモアたっぷりに授業を進めるベテラン先生のおかげで、
笑顔と笑い声がたえないアットホームな授業となっています。
さて、となりの図書室も明かりがついているので、のぞいてみましょう。
ニーペック図書館のエース的存在で、これまで度々登場しているミック・ランさん(55歳)です。
識字学習者の子どもたちに絵本の読み聞かせをしています。
こちらは図書館員のニョム・ポムさん(34歳)が、子どもたちとオセロをして遊んでいます。
識字教室は、住民が最も来やすい18時~20時に開催されています。
識字教室の開催時間は図書館も開館し、参加者のお母さんたちが安心して子どもを預けられる
村の託児所として機能します。
識字教室に来ているお母さんのご主人です。
図書館で待っている間、子どもの面倒をみています。
村では、女性が夜に識字教室に学びに来るには、家族の理解が必要になります。
それにしても、そもそもどうしてお母さんたちは識字教室に来ているのでしょうか。
こんな声がきかれます。
「薬のラベルや処方箋が読めないので、病気になったとき、おいてある薬が何の薬で、
どう服用するのかわからない。」
「米や家畜を売るとき、秤の目盛りが読めず、また計算ができないため、
仲買人に言い値で安く買い叩かれてしまう。」
「村の外に出るのが怖い。店の看板などが読めないので、初めて行くところは
どこになにがあるのかさっぱりわからず戸惑う。恥ずかしくてきくこともできない。」
「村役場に貼ってある各種行政サービスのお知らせが読めない。」
「わたしはもう70歳になりますが、生きている間に本が読めるようになりたい。」
(※識字教室参加者リスト)
読み書きができないことは日常生活に深刻な影響を与えているようです。
2013年の中間年人口調査によると、当国の成人識字率は79.7%とされていますが、
日常生活において実際に読み書きを使いこなせるのは、この半分以下とみられています。
昨年、ニーペック集合村で成人を対象に50世帯を調査(ランダムサンプリング)したところ、
住民の85%が「読み書きができないことで日常生活に不自由を感じている」と答えています。
ちなみに同調査では、小学校未修了者が79%、貧困世帯率が93%(カンボジアの貧困線である1人あたりの収入が1日1.15ドル以下を採用)と、同国の他の農村地域と比較しても、ニーペック集合村が著しく貧しいことが判明しています。
このような状況の背景には、カンボジアは過去の戦乱で、教育レベルの高い人が粛清として優先的に殺されたということと、生き残った人たちも強制労働などで、若いときに基礎教育を受けられなかったということが挙げられます。
また、当時の共産主義政権の焚書政策により、本がすべて焼かれ、学校や図書館も壊されたため、この環境で育った人たち(現在、年齢が40、50台、それ以上の方たちも)にとって、「読書」という行為自体が廃れてしまいました。その影響の一つとして、カンボジアではいまだに地方には公共図書館がほぼ皆無で、学校図書館も十分に整備されておらず、また市場でもあまり本が売られていません(少し売られていても、そもそも貧困層には手が届かない値段)。
この「本へのアクセスの問題」は、東南アジアの中でもカンボジアの教育が抱える特筆すべき点です。
(※識字教師トレス・サモンさん(74歳)。
毎日、早くから図書館に来て、教材作成等、授業の準備をしています。
マンチェスターユナイテッドのサッカーユニフォームがトレードマーク。)
また、非識字と貧困との相関関係も懸念されています。
読み書き計算ができないことが、生活向上への障害となり、貧困の悪循環に陥りやすくなります。読み書きができない→(農業や保健衛生などの)正しい知識が得られにくい→(農業などで)収穫・収入が少ない、病気にかかりやすく、医療費がかさむ→(貧しいことから)教育が受けられない(自分、もしくは子どもも)→読み書きができない、、、といった次の世代にも引き継がれるマイナスの連鎖です。
識字に取り組むことは、この貧困の悪循環を断ち切るスタートになりえますが、
とりわけカンボジア農村部においては、成人になってから学べる機会は皆無に等しい状況です。
そのためシャンティは、図書館や識字教室を備え、子どもから大人まですべての人が学ぶことのできる
生涯教育の環境を整えたコミュニティラーニングセンター(CLC)のモデルをカンボジアに広めようとしています。
識字教室は週6日で、これから7ヶ月開催されます。
すでに朝の7時~9時はコミュニティ幼稚園を開催しているので、
文字通り、子どもから大人まで学べるコミュニティ図書館となりました。
初年度は、試験のできよりも、楽しい授業運営により、中退者を出さないことを目指しています。
パ・ポムさんです。
「毎日、識字教室に来るのが楽しみです。大人になって学ぶことができるとは思っていなかったので、とてもうれしいです。読み書きを覚えて、いろんなことを学んで、暮らしをよくしていきたいです。」
識字は、「道を切り拓く力」だと思います。
自分の生き方を自ら考え、選び、実現していく力です。
識字教室で読み書き計算を学んだり、図書館活動の一環として農業・保健衛生などの生活向上研修に参加することによって、少しずつでも住民は自分や家族のよりよい将来を思い描き、理想に向けて計画的に行動していく力を養っていけると思います。
また、識字は「自己変革」だけでなく、「社会変革」の礎でもあります。
自らの人生に対して主体的に行動をするようになった人たちは、
今度は村の発展に向けて積極的に関わってくれると信じています。
今回は別記事で、もう一つ報告が続きます。
カンボジア事務所
ノンフォーマル教育事業調整員
江口秀樹