2025.09.03
海外での活動

カンボジア 研修での学び

カンボジア

チョムリアップスオ!!(こんにちは!!)

現在、シャンティ国際ボランティア会カンボジア事務所にて、約1カ月間のNGO海外研修プログラムに参加しています、白石大誠と申します。

早いもので研修期間もすでに3週間以上が過ぎ、残り数日となりました。さみしさをこらえて、しっかり記事を書いていきたいと思います!

 

これまでの活動

本題に入る前に、簡単にこれまでの活動を振り返っていきます。

第1週

オフィスワークを中心に、シャンティがカンボジアで行っている各事業について担当職員から説明を受けました。また、学校に配布予定の教材づくりや翻訳作業を体験し、カンボジアにおける事業の全体像を理解する時間となりました。

 

第2週

CLC(Community Learning Center)という公民館のような施設への訪問や、小学校での移動図書館活動に参加しました。子どもたちと楽しく交流することができ、国際協力の現場を肌で感じられる貴重な経験でした。

 

<使用絵本>『おおきなかぶ』再話:A・トルストイ、訳:内田莉莎子、画:佐藤忠良、出版社:福音館書店

 

第3週

建設中の小学校3校に赴き、現地の教員や郡教育局職員、学校運営に関わる住民が参加する、学校建設に関するワークショップを見学しました。

なお、本研修プログラムは、直前までタイとの国境における衝突の影響で中止の可能性もありましたが、研修が実現できたのは、東京事務所・カンボジア事務所の皆さまのご尽力とサポートがあってこそだと強く感じています。この場を借りて心より感謝申し上げます。

 

国境紛争をめぐる気づき

さて、今回の本題としては、カンボジアで約3週間過ごす中での気づきを書いていきたいと思います。このたった数週の間に、数えきれないほどの出会いと気づきがありましたが、すべて書くことは難しいので、「今」カンボジアに来たからこそ感じることのできた物事に焦点を当てたいと思います。すなわち、カンボジアとタイの国境紛争についてです。

安全管理の観点から、係争地や国境付近に近づくことはありませんでしたが、それでも紛争の影響は遠く離れた場所においても随所に感じられました。前提として、ここに記すのは個々人との対話や観察を通じて得た私なりの見方であり、決してカンボジア全体の意見を代弁するものではありません。その点を踏まえてお読みいただければ幸いです。

カンボジアに到着した直後、空港から事務所に車で向かう道中で目にしたのは、兵士を応援する広告でした。中には民間の企業が出している広告もあるようで、入国早々に国がまさに一丸となって戦っている雰囲気を感じ取ることができ、街中の風景にナショナリズムの高まりを実感した場面でした。

翌日、市内のマーケットでご飯を食べていると、兵士への応援を示すTシャツを着た若者数名が募金活動を行っている場面に出くわしました。彼らが歩くたびに、お札を持った手が募金箱へと伸びていき、自然と募金が集まっている様子でした。日本の街頭募金ではここまで順調に集まっている様子を見たことがなく、その違いにまた、ナショナリズムの高まりを感じました。さらに、タイ製品の不買運動でタイ系列の飲食店に客が入らなくなっていたり、輸入停止の影響で国産品の使用を余儀なくされた結果値段が高騰した商品があったりと、日常生活の場面にも紛争の影響が滲み出ていました。

中でも最も印象的だったのは、移動図書館活動で訪れた小学校での出来事です。低学年と思われる参加者の子どもたちに「カンボジアとタイ、どっちが好き?」と突然尋ねられたのです。私はその場をうまく切り抜ける言語力も柔軟性も持ち合わせておらず、空気を読む形で「カンボジア」と答えました。すると子どもたちは一斉に盛り上がりました。きっと彼らはまだタイはおろか、カンボジアの歴史・文化すら学校で学んでいない、あるいは学んでいる途中のはずです。自国のアイデンティティや、カンボジアとタイを異なる国たらしめるものとして名前以上のものを完全に認識・理解する前に、すでにタイへの拒絶感を潜在的に覚えているようでした。

タイを「嫌う」子どもたちには、その感情の理由や根拠が薄い、あるいはまったく存在しない子も中にはいるのではないかと思われました。通常であれば、人が何かを嫌うとき、その負の感情を和らげる手立てとしては、理由となる状況を改善したり、根拠を論理的に説明して崩していくことが考えられるでしょう。しかし、理由が曖昧であったり、そもそも存在しない場合、取り除くべき原因がない以上その手段は力を持ちません。だからこそ、彼らの抱える感情は、掴みどころのない霧のように漂い続け、和らげることが極めて困難に思われました。自国への愛よりも先に他国への憎悪を刷り込まれているような、言葉にしがたいむなしさを感じました。愛国心の延長として対立国に否定的な感情を抱くのであれば、手放しに肯定はできなくとも、理解はできます。しかし、愛国心の前に憎悪があるという順序の逆転を目の当たりにしたとき、その感情がいかに強固で取り除きがたいものであるかを感じざるを得ませんでした。そして子どもたちがそういった感情を醸成する環境で生活していることへの不安と危うさも感じました。

また、シャンティの活動を見学する中で、郡の職員や地域の有力者のスピーチを聞く機会がありました。母数は多くありませんが、私が耳にした3回のスピーチすべてで国境紛争への言及がありました。公的な場でのスピーチでは、イベントの内容に直接の関係がなくとも社会情勢や自身の見解を述べることが一種の慣例になっているようでしたが、それでも私は強い違和感を覚えました。教育や平和構築を主題とする場で、あまりに自然に「紛争」という言葉が飛び交うことに、どうしても引っかかるものがあったのです。

さらに議論は国境問題に及び、タイのスパイが国境付近で潜伏していた事例が紹介され、この地域でも不審な人物を見かけたら報告するようにとの注意が促されました。しかし会場全体を見渡しても、こうした発言に特段の違和感を示す様子はありません。むしろ、当然のこととして受け止められているようでした。わずかに苦笑する参加者がいたため、後で理由を尋ねると、「この地域に本当にスパイがいるはずないだろ」という、発想の飛躍ぶりに対する苦笑であり、発言内容そのものへの違和感ではないと分かりました。そのやり取りを通じ、外国人の私には異質に感じられるこの話題も、カンボジアの人々にとっては国境問題がそれほどまでに日常的で身近な現実であることの表れなのだと理解しました。

ただ、これまでのカンボジア滞在で感じたのは、タイへの否定的な意見と感情だけでありませんでした。ある人からは、カンボジアとタイは多くの歴史や文化を共有する、ある意味兄弟のような国でもあるという言葉を聞きました。憎悪に埋もれがちな空気の中で、この言葉を聞けたことを私は大変うれしく感じました。外国人の私でもついつい忘れてしまいそうになる、対話と共生への道の根源となり得る、こういった感情がカンボジアで生まれ育った方から聞けたことがとても嬉しかったのです。同時に、兄弟のような国と争わざるを得ない虚脱感を抱える人もいるのだろうと想像されました。カンボジア国民一人ひとりの中にも、愛と憎しみ、対話への希望と敵対心といった矛盾を抱えながら過ごしている人もいるのかもしれません。

 

戦争が日常にあるということ

上述した点は、あくまでも一部を切り取った具体例ですが、戦争とはこのような日常の再構築を指すのかな、とも感じました。戦争は国境付近の出来事ではなく、遠く離れた街の日常の隙間にまで入り込み、当たり前を作り変えていく。私はその現実を目の当たりにしました。

そして研修生として滞在する私自身もまた、あまりに自然に語られる反タイ感情に引き込まれそうになる瞬間がありました。ナショナリズムの高まりが持つ副作用を、自分の中に感じざるを得ませんでした。

 

さいごに

正直、これらの出来事を「気づき」として片付けてブログに書くべきかどうか、とても悩みました。日本という安全な国から突然やってきた一人の大学生である私は、日本人として守られながらカンボジアで生活をしています。そのため、どうしてもその立場からの目線でしか物事を捉えられていない気がします。自分は外から物事を見ているだけの傍観者だからこそ、こうして簡単に言葉にできているのではないか──そう思ってしまいます。

日本人である私は、カンボジア国民の多くが抱えている感情を「当事者」として感じることは決してできません。その前提は、頭では理解しているつもりです。しかし、見聞きしたことをこうして文字に起こした瞬間、自分自身を自ら積極的に当事者の輪の外に置いてしまうような、ある種の諦めを伴う感覚があります。そして同時に、その「輪の外」から一丁前に分析をしているような、そんな傲慢さも覚えます。

それでも、ここで得た学びはかけがえのないものであり、今、この時だからこそ見えたことを自分の中だけに留めておくには、あまりにも大きすぎると感じています。だからこそ、言葉にして残すことに意味があるのだと信じて、ブログに残すことにしました。

これからも、この気づきと悩み、そして違和感を決して忘れることなく、自分の中で丁寧に消化していきたいと思います。そのうえで、支えを必要とする方にそっと手と心を添えられるような存在になれるよう、考えることを決してやめずに歩み続けたいと思います。

私の文章と言語化能力でどこまで伝えることができたか不安ではありますが、少しでも新たな視点と気づきとを共有できていたら嬉しいです。

内容も相まって、硬い内容になってしまいましたが、研修の残りの数日間も全力で取り組みます!

次回のブログ執筆者はもう少し明るい話題をお届けするかも…?しれないので、引き続きシャンティのブログや活動記録を読んでいただけたら嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ソクサバーイ!!(お元気で!!)

 

追記:しっかり観光も楽しみました!

 

シャンティ国際ボランティア会 NGO海外研修プログラム

カンボジア事務所研修生 白石大誠