途上国の現場で働くとは
ミャンマー事務所の山田です。学生時代の私は、将来、途上国の現場で教育のために働きたいと大きな希望と夢を持って語っていました。現場とは途上国であっても都市のこぎれいなオフィスでデスクワークをするのではなく、田舎で地元の人たちと触れあい、一緒になって活動していくというイメージでした。困っている人たちのために直接働ける天職のような仕事だと信じていました。
そしてネパールの教育NGOでのインターンを経て現在シャンティのミャンマー事務所で、その夢を叶えることができました。一方で働いてからしか分からなかった途上国の現場が見えてきました。
今後途上国の現場で働きたいと思う人たちのために。
まだまだ未熟な新人NGO職員ですが、比較がしやすい今だからこそ、教育協力の現場で働いてきた私の経験を皆さんにお伝えしたいと思います。日本の教育協力のNGOの事業スタッフとしての経験をベースに書きましたが、もしかすると一部他の業種や職種にも当てはまるかもしれません。
1.体力
ミャンマーに赴任することが決まったとき、長年途上国の現場で働かれていた先輩から、現場で働くには1にも2にも3にも体力が大事と教えてもらいました。
小中高とサッカー部で走り回っていた私は、体力には自信があったため、このアドバイスを気にもかけていませんでしたが、ミャンマーの田舎にきてその重要性をひしひしと実感しています。
日本のようなインフラが整備されておらず、衛生的な食事が食べられない途上国の現場では生活に適応するのに困難を強いられます。途上国でなくても異国での生活の適応はアスリートのサッカー選手であっても難しいのかもしれません。日本のような全てが整い、食べ慣れたものが手に入る環境では体力を維持することができても、過酷な途上国の環境で体力を保っていられるとは限らないのです。
もちろん体調を崩してしまうと仕事ができません。
かくいう私もこちらに来て腸チフスにかかってしまい、1週間弱仕事を休んでしまいました。
体力をつけるなんて、基本中の基本だろうと思われるかもしれませんが、こんなにその重要性に気づかされたのは途上国の現場に来てからなのです。病気や感染症のリスクが高いので罹る病気には罹ってしまうのですが、普段から免疫力を高めておくことに越したことはありません。
2. 忍耐力
体力、忍耐力と何を体育会系みたいなことを言っているんだと思われるかもしれませんが、これもすごく大事。全てが時間通り、計画通りに進むとは限りません。未整備なインフラや、お祭り、日本にはない長期休暇などによって、プロジェクトが遅れたり止まってしまうこともしばしば。一々一喜一憂していたら精神が持ちません。
さらに、文化や習慣が違う人と一緒に仕事をするというのはとても忍耐力がいるのです。日本人は、仕事中は勤勉に取り組むべきだと思いがちですが、みんながみんな同じような仕方で仕事をしているとは限りません。
ネパールでインターンをしていたときの話。私は黙々と活動報告を作っていました。同僚は仕事中楽しそうにPCの画面を見ている。何をしているの、と聞くと何もしていない、と答えたため、激怒してしまいした。その後同僚は何も言わずに帰宅したというオチがあります。
指摘をするにしても、言い方、タイミングなど非常に気を遣います。改善を指向しつつも、全てにおいて理想を追い求めすぎず現場の人たちのペースに合わせて耐えるということも重要なスキルになってくるのです。
3. マネジメント・調整がメイン
職種や役割によっても異なりますし、私の仕事も現場に出ていくことは多い方なのですが、途上国の現場において求められる一番の役割は事業のマネジメント(運営)と調整ではないでしょうか。
この点、私が一番勘違いしていたのは、現場で働くからといって、緊急援助でない限り毎日困っている子どもたちや地元の人たちのところに行って支援ができるわけではありません。
活動をするにしても現地語の能力が乏しい私がいきなり現場に飛び込んで何かを変えることは現実的には難しいのです。
事業の進捗管理や予算管理、予定の作成、月次報告書の作成など事務仕事があります。またご支援者への日本語での申請書・報告書、広報資料の作成、訪問者や東京事務所とのやりとりなども日本人である私が担っている仕事です。内容は現場での活動に関するものが多いですが、求められる仕事は事務作業です。
事業を実施するにはご支援者さまのご協力が必要で、かつ活動を広く知ってもらう必要があります。現場での事務作業はとても大事で、日本人である私にメインで求められている役割であると認識しています。
4. それでも現場は楽しい
これまで学生時代には見えなかった途上国の現場で働く実態をお伝えしました。
しかし、それでも現場に出る機会は多く、地元の人や子どもたちと関わる機会はたくさんあります。そこで新たな発見や学びそして出会いがあり、これは途上国の現場ならではの体験です。
また文化の違う現場のスタッフと一緒に何かを成し遂げたときの感動は素晴らしいものです。言葉や生まれた場所が違っても同じ理念を共有し、一緒に何かを成し遂げる、これ以上にやりがいのあることはありません。
マネジメントや調整業務が中心的な仕事である一方で、自分の確固とした専門性を持っていれば事業実施に大きな影響力を与えることもできるかもしれません。
近年、途上国の現場において解決すべき課題も大きくかつ複雑なものが設定されているように感じます。より専門的な知識や技能、経験が必要とされていくことでしょう。
この点、組織運営に関する経験だけでなく、教育・保健衛生・コミュニティ開発などの「分野の専門性」を身につけておくとより直接的なインパクトを残せるかもしれません。
内向きだ内向きだと言われる日本、この記事を読んで一人でも多くの人が途上国の現場で働きたいと思ってくれるのであれば、これ以上の嬉しいことはありません。
ミャンマー事務所
山田