ネパールでの校舎建設の課題
ナマステ。ネパール事務所の三宅隆史です。ネパール事務所では、3年前の大地震で被災した学校の防災能力を強化することを目的とする事業を実施中です。この3年間の事業は、①耐震構造の校舎の建設、②図書活動を通じた防災教育の推進、③学校の防災管理能力の強化、④住民への防災についての啓発という4つの活動で構成されています。①は12校でのハード(建物)面の支援で、②と③と④は建設校を含む36校でのソフト(知識や技能)面の支援です。今日は、シャンティの他の事業国には見られないネパール特有の校舎建設の課題と悩みについてお伝えします。
第一に、2017年から始まった地方分権化に伴う教育行政機関の混乱があげられます。以前は教育省の出先機関である「郡教育局」が校舎建設の許認可、教員の任命、教員給与や学校補助金の支払いといった教育行政を担っていましたが、2017年7月の新会計年度から郡教育局は郡教育開発調整委員会という調整のみを行う組織に改組され、郡教育局の権限と役割は、市役所や村役場といった自治体に新設される「教育部」が担うことになりました。しかし、自治体の能力が不足しているため、権限の委譲が円滑には行われておらず、このことがSVAのような支援団体に影響を与えています。たとえば、校舎建設の許可権限は、復興庁という行政機関とその郡レベルの出先機関が有しており、SVAはこれらの機関から承認を得ているにもかかわらず、もう権限を有さないはずの郡教育局が同じ学校の建設許可を他のNGOに与え、このNGOが建設工事を始めてしまいました。発覚してすぐにこのNGOとの交渉を行った末、事なきを得ましたがあせりました。一方、自治体への権限移譲には良い面もあります。建設工事が中断する雨季が空けた後、道路の早期の補修を村長に陳情したのですが、村長の指示によってすぐに道路を補修してくれました。以前は村から郡に要請があげられ、これを郡が検討、許可した後に、道路の補修が行われるという流れなのでどうしても時間がかかっていたのです。
第二は、山奥の小さな学校の支援が後回しになるという点です。この点はラオスと似ています。本事業の対象地域であるヌワコット郡では、震災によって452校の97%にあたる439校が全壊あるいは半壊しました。援助機関の多くは、300名以上が在籍している中学校や高校(通常ネパールの中高校は小学校を併設)といった大規模校で、平地部の道路が整備されており、街からのアクセスが良い学校を優先して支援しています。したがって、児童数が50名以下の小規模校で、山間部のアクセスの悪い学校が取り残されています。アクセスの悪い小規模校であっても学びを改善するというニーズは変わりません。シャンティは来年度、このような状況にある2校の校舎の建設を支援します。2校とも雨季には、車両では学校にたどり着くことができず、2時間から4時間歩く必要があります。このうち1校では、仮設教室が老朽化し、雨季の間雨漏りするなど学習環境が劣悪なため、授業が行われておらず、多くの児童は片道2時間半歩いて別の学校に通っています。
第三に、山岳地域であるが故の学校の敷地の問題があります。来年度の支援の候補だったある学校は、現在も仮設教室での学習を強いられています。校舎建設のニーズは大きいのですが、学校の敷地が狭いために、復興庁が承認する耐震構造の校舎を建設することができません。村役場は土地の確保の努力をしましたが、無理でした。別の問題として、写真のように敷地が崖に面している場合、建設工事に入る前に、まず防御壁を設置する必要があります。防御壁がなければ、雨季に大量に降る雨のために、土地が崩れて、せっかく建てた校舎やダメージを受ける可能性があるからです。この点はコストにも影響を与え、防御壁の建設費用が校舎建設費用に加えてかかります。
この他、雨季の間の道路の悪化による工事の中断、建設工事の資材と過程の質の確保、学校運営委員会や建設業者との調整や交渉といった他の事務所と共通した課題があります。このような課題や悩みを抱えながらも、校舎が完成し、子どもが安全で快適な環境で学ぶことができる日をめざして、スタッフ一同、学校関係者と共にがんばっています。(本事業は、外務省の日本NGO連携無償資金協力を得て行っています。)