2023.09.01
海外での活動

教育と開発リサーチペーパーを発行しました

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

「教育と開発」リサーチペーパーは、国際協力関係者を対象に、教育協力事業の改善のための議論を活発することを目的に発行しています。ここでは、シャンティの活動の経験から得られた、知見、アイデア、分析を提供します。
今回に発行しました「教育と開発リサーチペーパー No.17」は、シャンティで約20年の間継続実施している「ミャンマー(ビルマ)難民キャンプにおけるコミュニティ図書館事業」の1999年の事業形成時から現在までの軌跡を取りまとめたプロジェクト・ヒストリーになります。事業の実績を通史的に記録すると共に、経験から得られた知見や教訓を提示しています。シャンティホームページ出版物の「教育と開発」リサーチペーパーシリーズページからご覧いただけます。

教育と開発リサーチペーパー No17のご紹介

約20年の活動をとりまとめたため、このリサーチペーパーはかなりの分量となりました。そこで本書の見どころをご紹介いたします。本書では現在まで続いているミャンマー(ビルマ)難民キャンプにおけるコミュニティ図書館事業を以下の5つのフェーズに分けています。

名称(対象年度)
第1期 事業形成・開始 (1999年~2002年)
第2期 事業対象拡張 (2003年~2007年)
第3期 定着 (2008年~2012年)
第4期 帰還準備支援 (2013年~2019年)
第5期 コロナ禍、軍事クーデター以降 (2020年~)

事業フェーズ毎に当時の事務所長、専門家、マネージャー、コーディネーター、総務担当等の事業従事者による座談会を開催しています。これにより変化する難民キャンプの状況、出会った難民の人々についてのエピソード、直面した課題、経験などが収集されましたので、少し各フェーズについてご紹介します。(各フェーズを確認したい場合は、本書の目次リンクをぜひご活用ください!)

第1期は、1から難民キャンプに図書館を作った当時の困難や工夫が記されています。現在まで継続しているコミュニティ図書館事業の根源となる思いが座談会では語られ、関係者が2000年当時に事業に関わることを決めた理由なども貴重な話として記載をしております。
第2期は、当初5つの難民キャンプで事業を展開していましたが、対象を7つの難民キャンプに広げることになり、新たな挑戦が始まった時期です。この期の座談会から、当時から現在まで継続して人々と共に活動している3人のナショナルスタッフにも一緒に振り返ってもらっています。
第3期は、事業の定着が進んだものの、第三国定住により難民キャンプ内で長年勤めた優秀な人材の退職が相次ぎ、コミュニティで支えるコミュニティ図書館を実現するために奮闘した時期です。この期に、難民キャンプで長らく開催された「難民子ども文化祭」が始まりました。
第4期には、本国帰還が始まり、ミャンマー国内の情報提供ニーズが高まりました。また、将来の帰還によりキャンプの人口が減少した場合に備え、図書館活動に優先順位をつけて事業縮小の順番などを記した移行計画の作成が行われ、実際に計画の実施がなされました。
第5期は近年のコロナ、クーデター以降のコミュニティ図書館事業について記されています。本国帰還の目途が立たない中で、第三国定住再開の動きが始まりましたが、そのプロセスには時間がかかり、現在も約9万1千人が難民キャンプでの生活を余儀なくされています。そのため、人々からは変わりなく図書館活動を続け、居場所を提供することが求められています。

教育と開発リサーチペーパー No17に込められている思い

「私達がミャンマーに帰る時には図書館にも一緒にきてほしい」という難民の声から、シャンティでは本難民キャンプ閉鎖まで、本事業を可能な限り継続することを決めています。今も難民キャンプに残らなければならない人々は、困難を抱えたままです。シャンティが彼らのためにできることは、コミュニティ図書館をできる限り継続することになります。
しかし、国際的には更に緊急下にある難民への支援が優先され、本難民キャンプに対する関心は低下しており、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプを支援する全てのNGOが資金調達の課題に直面しています。可能な限りこの事業を継続するという思いは、シャンティだけでは解決できないものです。ミャンマー(ビルマ)難民について広く知って頂く必要があり、そのためにも本書が発行される運びとなりました。


コミュニティ図書館が開館した当時の写真。現在もコミュニティ図書館には多くの人々が、様々な目的で通っています。

本書の発行にお力添えを頂きました関係者の皆様に、この場をお借りして感謝を申し上げます。多くの皆様に本書をご活用いただけると幸いです。

教育と開発リサーチペーパーNo.17 執筆者 山内