移動図書館車の新たなスタートを応援
1月22日、いまにも雪がふりそうな寒空の下で、そこだけは少しあたたかく感じられたのは、移動図書館車の車体に描かれたライオンの色使いのおかげでしょうか。
東日本大震災の被災地支援活動の一環として、2011年から岩手県、宮城県、福島県を走ってきた移動図書館車のうち一台を、南相馬市の家庭文庫「ちゅうりっぷ文庫」へ寄贈することになりました。ちゅうりっぷ文庫は、代表の梶田千賀子さんが毎週南相馬市の自宅の一室を開放し、自由遊びや読み聞かせ、親子読書なども行っています。今回の寄贈を機に、車体のイメージも大きく変えることになりました。
移動図書館車に絵を描くことになったのは、南相馬市在住の画家で絵本作家の小原風子さん(下の写真左)。今回、風子さんが寄せてくれた気持ちのこもったコメントが「おはなし」のようで、また、塗り替えのいきさつにも触れられていますので、そちらをご案内したいと思います(風子さんのコメントは、文の頭に「風」と付けました)。なお、文中に出てくる「ちかこさん」というのは、ちゅうりっぷ文庫の梶田千賀子さん、「古賀さん」というのは、いまこれを書いている、南相馬事務所の古賀東彦のことです。
風 ある日、ちゅうりっぷ文庫のちかこさんの新しいお家におじゃますると、家の前のお庭に「走れ東北!」「立ち読み、お茶のみ お楽しみ」と書かれた黄色と白の大きな車が停まっていました。ちかこさんのお話では、震災後今まで被災地を走り続け、南相馬のみんなのところも回ってくれていた移動図書館車がその役目を終えるのだと。そのことをシャンティの古賀さんに聞いたちかこさん、「この黄色いバスがまた生まれ変わって、ちゅうりっぷ文庫に来るお友だちの遊び場になったり、小高へ戻って来た方たちのところへ、また移動図書館車になって会いに行ったりできたら素敵だなあと考えていたのだけれど」と言うのです。
風 「わぁぁぁっ! 素敵ですね! 新しいちゅうりっぷ文庫さんの、子どもたちへの目印にもなるし! 遊び場にもなるし! 私も運転して、一緒に小高に行ってみたいなぁ〜。小高に戻ったおじいちゃんおばあちゃんたちとお茶したりしながら、子どもたちにちかこさんが絵本を読んだり」などと話しているうちに、「じゃあ、風子さんこの黄色いバスに絵を描いてくれる?」「わぁぁっ! 描きたい! 描きたい! 描かせてください!」と、ふたりで気持ちが盛り上がりました。
風 それから、この黄色いバス(ちかこさんと私の間ではこの移動図書館車のことを「黄色いバス」と呼んでいました。『幸福の黄色いハンカチ』みたいな? 幸せの黄色いバスって感じで、幸せがいっぱい詰まっているように響きました)に、どんな絵を描こうか考えました。ちかこさんからは、チューリップの絵を描いてほしいということと、できればこの車の下半分の元々の黄色い色を生かしてほしいということ。そして、去年亡くなってしまったラッキーという愛犬を絵のどこかに入れてほしいというお願いを受けました。
風 それから、ご縁があって去年出会った、ウクライナのキエフ生まれで現在はプラハに暮らすアーティストのマリア(下の写真右)とも、一緒にこの黄色いバスを描こうということになりました。黄色いバスに描く絵のアイディアスケッチは私が描くことに。マリアも日本に来て一緒に描くことを楽しみにしてくれました。
風 なんの絵を描こうか考えながら、いろいろアイディアスケッチをしていたら、最初は大きなお日様が浮かんできました。ちゅうりっぷ文庫さんは、いつも子どもたちやお母さんたち、みんなの陽だまりのような温かな場所なので、お日様がよいかなぁと。黄色いバスを眺めながら、自分で描いたお日様とその周りで遊ぶ子どもたちのスケッチを見ていたら、大きなお日様がライオンのお顔に見えて、バスの下半分はライオンがごろりと寝転ぶ身体に見えて、「あっ、これでいこう!」とイメージが決まりました。
風 ちかこさんもこのアイディアスケッチを気に入ってくれました。実はちかこさんとの出会いは、私が震災後に描いた『いねむりライオン』という絵本がきっかけだったのです。「いねむりライオンがやっと目を覚まして、みんなの町まで絵本を届けに行くみたいで素敵だね!」とふたりで笑いました。
風 それから、ちかこさんのご家族やシャンティの古賀さん、私の職場の同僚など、みんなが力を貸してくれて、一緒にバスのシールを剥がしたりヤスリをかけたりしながら、黄色いバスに絵を描く日の準備をしました。絵を描く前の日には、ちかこさんのご主人がぴかぴかに車を洗車してくれました。ずっと走って来た車に、今までお疲れ様、これからまたよろしくねと言うみたいでした。
風 マリアとちゅうりっぷ文庫の子どもたちと絵を描く前日は、夜から雪になりました。当日もとっても寒かったけれど、その時間だけ青空がのぞきました。子どもたちと遊びながら作った、チューリップやお花のシールを、ライオンさんが寝転ぶ原っぱの周りにペタンペタンと貼っていきました。ライオンさんのお腹の上には、子どもたちとちかこさんの愛犬ラッキーも乗せました。ライオンさんが寝転ぶ原っぱの後ろには、マリアがちゅうりっぷ文庫さんから見える森の絵を描いてくれました。黄色いバスが、ちゅうりっぷライオンのバスになってニコニコ笑っているようにみえました。
風 この様子を知った、絵本が縁で知り合った友人は、「はるの図書館バス、おひさまをいっぱいのせて出発進行! みんなにお花の種も届けよう! みんなのこころに本の花が育ちますように」と素敵な言葉をくれて、私もうれしくなりました。
風 ライオンさんがみんなをあたためるポカポカのお日様みたいだったら素敵だなぁ! そんな願いを込めて描きました。そうしてたくさんのお花は、たくさんの絵本なのかな? ひとつひとつのお花は幸せの粒みたいなものかな? 子どもたちみんなが描いてくれた幸せいっぱい詰まったお花畑。ちゅうりっぷライオンのバスの周りで遊ぶ子どもたちの姿が浮かんできます。ちゅうりっぷライオンのバスがみんなの町へまた走り出す日を思い描くと今からワクワクが止まりません。そんなちゅうりっぷライオンのバスの「絵本」が、作れたら素敵だねと、ちかこさんとマリアと話していました。夢はどんどんふくらんでいきます。
風 もうすぐ、もうすぐ、春がきたら、ちゅうりっぷライオン出発進行〜!
風子さんのコメントはここまでです。
ちゅうりっぷ文庫の梶田さん(下の写真左)は、「小高からちゅうりっぷ文庫に遊びに来ていたお子さんが4月から小高幼稚園に。今度は、ちゅうりっぷ文庫の絵本のおばちゃんが、ちゅうりっぷ号で、希望と夢と愛と絵本を乗せて、小高の町に会いに行きますね」と。
冒頭にも書きましたが、シャンティは、東日本大震災被災地支援活動の一環として、岩手・宮城・福島の3県で、移動図書館車を使った被災地支援活動を続けてきました。今回寄贈を進めている車は2011年12月に岩手事務所にやってきました(メリルリンチ日本証券から寄贈)。一台めの軽トラック、二台めの枚方市から譲っていただいた移動図書館車どちらも愛着がありましたが、この車が来てようやく、自分たちのロゴやプロジェクト名が刷りこまれた図書館車で事務所を出発できるようになりました。下の写真は、その初日。大槌町に向かう前の一枚です。
2014年、活動場所を山元事務所に移すまで、この車は岩手県の大槌町と山田町を中心に活躍しました。その後は、山元事務所が移動図書館活動を終える2017年3月まで、宮城県山元町と福島県南相馬市を走り続けました。
シャンティの活動を支えた移動図書館車の一台として、今もさまざまな光景が浮かんできます。6年あまりの間、いろいろなことがありました。いろいろなところに行きました。
その長い旅もいったんここで終わりです。
梶田さん、風子さんの言葉を聞き、図書館車の新しい一歩を心から応援したいと思います。行ってらっしゃいという言葉とともに。
南相馬事務所 古賀東彦