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2020.11.14
開催報告

オンラインイベント開催報告「国際協力の現場から Vol.5 新型コロナウイルスが与えた影響~ミャンマー(ビルマ)難民の人たちの今~」

イベントレポート
ミャンマー
ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

こんにちは。ミャンマー国境支援事業事務所の山内です。2020年11月7日(土)に「国際協力の現場からVol.5  新型コロナウィルスが与えた影響~ミャンマー(ビルマ)難民の人たちの今~」と題して、ミャンマー国境支援事業事務所の活動をお伝えするオンラインイベントを開催しましたので、ご報告させていただきます。

第一部はタイとミャンマーのスタッフと中継をつないでトークイベントを実施。第二部は難民キャンプにも届けているカレン語の翻訳絵本作りワークショップを行いました。

登壇者

ジラポーン・ラウィルン(セイラー)※タイ・メーソットから参加

  • シャンティ・ミャンマー国境支援事業事務所 副所長。難民キャンプ内の学校で教育・文化の人道支援従事者として勤務し、2001年入職。難民キャンプで暮らす人々の心の支えとなれるよう活動に取り組んでいます
  • セイラー

中原 亜紀 ※ミャンマー・カレン州パアンから参加

  • シャンティ・ミャンマー国境支援事業事務所 所長。1998年に入職。タイ・バンコク事務所でスラム地域開発事業を担当、ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所所長、東京事務所海外事業課課長、ミャンマー事務所所長を経て、2019年7月から現職。
  • 中原亜紀

タイ・ミャンマー国境概要とシャンティの活動

タイ側はターク県メーソットに事務所を置き、国境沿いにある9カ所の難民キャンプの内、カレン民族の多く暮らす7カ所のキャンプで図書館活動を行っています。

国境

こちらが難民キャンプの概要です。 図書館活動の詳細は弊会ブログ内「ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ」をご覧ください。

カレン州

ミャンマー側にも拠点があり、カレン州パアンに事務所を置いています。こちらがカレン州の概要です。カレン州の人口は鹿児島県と同程度で、面積は鹿児島県の約3倍あります。シャンティは、難民キャンプから帰還した人々を受け入れる村を対象にコミュニティリソースセンター(以下CRC)事業を行っています。CRC事業の詳細は弊会ブログ内「ミャンマー国境」をご覧ください。

コロナ禍のタイ・ミャンマー国境

難民キャンプでの感染者は報告されていませんが、タイ国内での感染者数は2020年10月末時点で3,780人になります。世界的な感染拡大を受け、タイとミャンマー間の国境は閉鎖され、食糧と医療NGO以外のNGOは難民キャンプへの入場が禁止になりました。現在は全てのNGOが難民キャンプに出入りできるようになりましたが、キャンプ内の学校の再開は6月から遅れ7月20日から随時再開となりました。

友好橋

こちらはタイ・ミャンマー国境に架かる「友好橋」です。以前は毎日のように人々が行き来していましたが、現在は閉鎖しており、いつ再開されるかは分かりません。また、国境閉鎖の懸念やミャンマー国内の規制への懸念から、タイ国内に滞在していた約10万人(6月下旬時点で)の移民労働者がタイからミャンマーに戻りました。未だメーソット市内に残っている移民労働者もおり、その数は26,000人(9月末時点で)と言われています。

ミャンマー・カレン州での感染者は5月中旬に発表されましたが、それより前からミャンマー政府の提示する各種規制に従いカレン州でも規制を行っていました。一旦は収束を見せましたが、8月下旬からミャンマー国内感染者が増え、カレン州内でも市中感染による感染者が報告されています。10月末時点でカレン州内感染者は338人、ミャンマー国内感染者は51,496人と報告されています。

カレン州ロックダウン

こちらは10月時点のカレン州内の様子です。区内に感染者が出た場合、右の写真のように一時的に区をセミロックダウンしています。

新型コロナウイルスの活動への影響と対応

タイ側の難民キャンプでは、4月に図書館を一時的に閉鎖しました。その後再開したものの、多くの親が感染を心配し、子どもが図書館に通うことを止めることがありました。現在も例年と比較して利用者の減少や学校へのサービス利用者が減っています。

感染対策として衛生用品を購入し、各図書館へ配布しました。現在、図書館では入館前の検温や手洗いを実施しています。また、子どもの利用人数に上限を設け、一度に20人以上の子どもが館内に入らないようにしています。

図書館

読み聞かせは、子ども達が一番楽しみにしている図書館の活動です。図書館員はマスクやフェイスシールドを着用し、できる限り絵本の読み聞かせの機会を作るようにしています。

ミャンマー側カレン州で事業の行う1つの村では、外部の支援を受け、村人への衛生用品を配布していました。シャンティの職員は移動制限のため、4月~6月頃まで村に入ることはできず、電話をベースにしたコミュニケーションが続いていました。7月頃に一時的に村への入場ができたものの、現在はまた村への入場ができなくなりました。予定していた活動の遅延や延期が余儀なくされています。

CRC

日常のサービスを滞りなく届けるため、CRCに衛生用品を配布し、マスクやフェイスシールドを活用して人々はCRCを利用しています。また、会議などで人が集まる際は、半屋外の多目的ホールを使用しています。

これからのチャレンジ

難民キャンプの図書館とカレン州のCRC共に、多くの人が集まってもらうこと、通ってもらうことを目的にしています。しかし、今の状況では多くの人が集まったり、通うことができません。対策を取りながら、いかにサービスを継続できるか考えていかなければなりません。
難民キャンプで一度感染者がでると、その影響はすぐに広がると考えられ、未然に防ぐために実施される各規制によって、予定通りの活動ができないでいます。また、カレン州で対象にしている村も、国境付近にあり日々状況が変わるため、計画した活動が進められなくなっています。また、国境地域ではインターネット環境が整っていないなどインフラ整備が不足しており、ミャンマーの都市部で行われているようなオンライン研修や会議の実施などは困難です。厳しい環境ではありますが、いかに活動を届けていくか、チャレンジをしていきたいと思います。

質疑応答

当日はオンラインイベントに参加くださった方からたくさんの質問をいただきました。ありがとうございます。当日の質疑応答の内容を一部をご紹介します。当日の質疑応答の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。

Q: 難民キャンプの図書館では、どの年代の人が多く本を借りていますか?
A: 13歳以上18歳くらいまでの子ども達が多く本を借りています。また、大人の中にも読書好きの人は頻繁に図書館に通っていて、たくさんの本を借りています。

Q: 難民キャンプの人々は政府の対策やコロナウィルス自体をどう思っているのでしょうか?
A: 住民の方々は不安を持っているので、いかに感染予防するかということを考えています。タイ政府は積極的にキャンプの感染予防のために動いており、医療関係のNGOもタイ政府と連携して動いています。キャンプの方々はNGOや政府から提示されるガイドラインに沿って生活しています。

Q: キャンプ内の学校が閉まっていた時、子ども達はどう過ごしていたのでしょうか?
A: 子どもが家庭で勉強ができるよう、教育系NGOは宿題用の紙を配布し、学習用の道具を家庭に配布していました。家庭内でできるレクリエーションやそれに必要な道具を配布するNGOもいました。図書館では保護者や学校関係者と協働し、子ども達の家へ本の貸出を行っていました。

第二部:翻訳絵本作りワークショップ

シャンティは日本の絵本に、アジアの子どもたちが読めるよう現地語の翻訳シールを貼って届ける「絵本を届ける運動」を行っています。今回のイベントでは、難民キャンプの子どもたちの母語であるカレン語の翻訳シールを絵本に貼っていただくワークショップを行いました。

ワークショップでカレン語の翻訳シールを貼った絵本が利用される難民キャンプの図書館の様子を動画で皆さんに見て頂きました。その後、司会の吉田から絵本の翻訳シール貼りの手順をご説明しました。また、絵本に翻訳シールを貼る作業をしている間、参加者からのご質問を基に、司会の吉田、登壇者の中原、セイラーでフリートークを行いましたので、少しご紹介します。

Q: 英語を併記している絵本について
A: タイ国内で絵本を購入し、カレン語の翻訳をして配架することもありますが、中には英語を併記している絵本があります。子ども達の言語への興味は高く、絵本を通して英語に触れることで学習の機会を提供できると思います。全部の絵本を英語併記にする必要はありませんが、様々な言語に触れることに子ども達も喜んでいます。また、シャンティが難民キャンプ向けの絵本を出版する時、学生からの要望もあって、近年は英語を併記しています。学校での補助教材として活用され、子ども達が気軽に英語に触れられるようにと考えています。

Q: どんな種類の絵本が難民キャンプでは人気ですか?
A: 動物や自然についての絵本が好まれています。キャンプで暮らす子ども達は外に出ることができないため、知らない動物がたくさんいます。絵本を通して始めて動物のことを知り、とても楽しんでいます。また、日本の絵本の絵はとても質が高いので、子ども達の好奇心を刺激しており、文字の読めない年代の子どもも絵本の絵を見て楽しんでいます。

Q: 子ども達の質問に困った経験はありますか?
A: 子ども達の質問は私達の想像をはるかに超えています。例えば、おはなしに出てくる仮想の動物が本当にいると信じてその動物について質問してきます。とても難しいことですが、図書館員達には「分からない」と回答するのではなく、できる限り子どもの質問に答えを出すように伝えています。昔、最後にお母さん象が亡くなってしまうおはなしを読み聞かせした時、子ども達が泣き出してしまい、「なんでお母さんが死んでしまったの」と私に聞いてきたこと今でも覚えています。

その後、セイラーによる「カレン語講座」を開催し、参加者の皆さんのお名前のカレン語での書き方を実演、ご紹介せてもらいました。

カレン語

カレン語講座が終わり、司会の吉田からセイラーに、最後の質問をしました。

Q: 難民キャンプで活動する中で、印象に残っている子どもはいますか?
A: ある女の子は元々は図書館の隅で絵本を読む恥ずかしがりやだったのですが、図書館で過ごす内に図書館員のように絵本を抱えて読み聞かせを友達に披露するようになりました。この女の子のように頻繁に図書館に通う子ども達は、本を元の場所に戻さない子どもを見て注意するようになるなど、図書館員の様に活動をサポートしてくれるようになります。子ども達のこういった変化はとても印象的です。

普段お会いできない皆様に、私達の活動をご紹介でき、そして皆様からたくさんのご質問を頂き、とても嬉しく思います。最後に今回の登壇者2名からのコメントをご紹介します。

セイラー:本日はご参加頂き本当にありがとうございました。1つの絵本を持つ力はとても大きく、子ども達の未来を変える力を持っています。大変な状況にありますが、これまでと同じような活動を子ども達に届けたいと思います。

中原:長時間に渡りご参加頂きありがとうございました。これから難民キャンプに絵本が届くのが楽しみです。皆さんの思いをしっかりと受け止め、引き続き活動していきたいと思います。これからも応援して頂けますと幸いです。

イベントにご参加頂いた皆様ありがとうございました。参加できなかった皆様もYouTubeから絵本のワークショップを除いたイベントの様子をご覧頂けます。ぜひご覧ください。

ミャンマー国境支援事業事務所 山内