• TOP
  • トピックス
  • イベント情報
  • 【開催報告】10/5ハイブリッドイベント「絵本を届ける運動」25周年イベント『本の力を、生きる力に。~本がもつ力とは。難民キャンプ図書館に届けた8万冊の翻訳絵本から見えてくるもの~』
2024.10.15
開催報告

【開催報告】10/5ハイブリッドイベント「絵本を届ける運動」25周年イベント『本の力を、生きる力に。~本がもつ力とは。難民キャンプ図書館に届けた8万冊の翻訳絵本から見えてくるもの~』

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ
周年
絵本を届ける運動

「絵本を届ける運動」は1999年に活動を開始し、2024年で25周年を迎えました。そこでこれまで活動を支えていただいた皆さんへ感謝の気持ちを伝えると共に、これまでの活動の歴史と実績を振り返り、絵本がもつ力について改めて考えるイベントを開催いたしました。イベントは第1部の講演を対面とオンラインにて、第2部のワークを対面のみの形式にて行い、総勢33名のみなさまにご参加いただきました。

【登壇者】

鈴木 晶子:コーポレート・コミュニケーション シニアマネージャー兼広報担当。2005年に緊急救援担当としてシャンティに入職。2010年にはタイ国境ミャンマー(ビルマ)難民事業担当としてコミュニティ図書館の運営に携わる。2015年より広報課の課長を経験し、2023年から現職。

ジランポーン・ラウィルン(セイラー):ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 副所長。難民キャンプ内の学校で教員として働いていたところ、シャンティと出会い、2001年よりシャンティの図書館アシスタントコーディネーターとして入職。以来20年以上にわたり、図書館事業に携わる。

 

【第1部講演】

※会場(シャンティ東京事務所・慈母会館)の様子

 

●「絵本を届ける運動」の歴史

シャンティの活動の原点は1981年にタイに逃れたカンボジア難民が暮らす難民キャンプでの活動にあります。インドシナ地域での内戦から逃れカンボジアからタイ国境に避難してきた難民の方々の姿をみて、何かできることはないかと開始したのが、難民キャンプでの図書館活動でした。

その後カンボジアでも図書館活動を始めますが、当時はカンボジア国内もポルポト政権の焚書政策により、書籍のほとんどが失われていました。そこで日本から絵本を送る「絵本1冊運動」を開始します。リサイクル品の絵本を日本で集め、それに翻訳文を切って糊で貼りつけカンボジアの子どもたちに届けました。

その当時はリサイクル品の絵本を使用していたため、状態の良い絵本を探すことに苦労をしたり、また翻訳文も上下の区別がつかず、逆さまに貼ってしまうことが多々発生するなど、作っていただく支援者の方々にとっても、シャンティのスタッフにとっても負担の多い取り組みでした。そういった声を受け、絵本は日本各地の支援者の方々に集めてもらい、カンボジアと、事業を開始したラオスに日本語のままの絵本を送り、活動地にて翻訳から翻訳文を貼り、絵本を配布するまで全ての工程を行うようにしました。ただ、この方法は活動地のスタッフに負担がかかり過ぎるということで、活動をもう少しシステム化してリニューアルすることになり、1999年に現在の方法に近い「絵本1冊・翻訳シール・名前を書くシール・あいうえお表」を1セットにして参加者に送る「絵本を届ける運動」が生まれました。

 

●「絵本を届ける運動」の実績

カンボジアから始まった活動ですが、その後シャンティの活動地が増えるにつれ絵本を届ける先も増えていき、現在では4ヵ国5地域に広がっています。また2024年で25周年を迎え、これまでにのべ326,109人以上、3,022以上もの企業や団体の方々に参加をいただき、合わせて400,720冊もの翻訳絵本を活動地に届けることができました。

 

●翻訳絵本を届ける先のひとつ、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプからの声

シャンティは2000年にタイとミャンマーの国境にあるミャンマー(ビルマ)難民キャンプでの事業を開始いたしました。2002年にシャンティが設立したメラ難民キャンプ第一図書館には、これまで「絵本を届ける運動」を通して届けてきた翻訳絵本が並んでいます。この図書館は毎日50人以上の人が利用しており、学校が近くにあるため、昼休みや放課後にはたくさんの子どもたちが絵本を読みに図書館を訪れます。図書館では日々読み聞かせや紙芝居、人形劇やゲームお絵描き、折り紙などを行っています。シャンティは現在7カ所のカレン系難民キャンプで15館のコミュニティ図書館を運営しており、全ての図書館で子どもたちが本を読む習慣を身に着け、読み書きの能力を高めることができるよう取り組んでいます。

活動地に届ける翻訳絵本のテーマは、東京事務所に毎年リクエストを出します。ここ最近は食べ物にまつわる絵本や家族にまつわる絵本、仕事にまるわる絵本などを希望としてあげました。また、民話は子どもたちからの人気が高いため、毎年リスエストをしています。子どもたちの学びに繋がるテーマや、子どもたちが夢中になれるテーマなどさまざまなリスエストを出しています。

またこれまでは面白いストーリーの絵本や自然にまつわる絵本、戦争と平和をテーマにした絵本を多く届けてきました。面白いストーリーは子どもたちが絵本自体を好きになるきっかけになり、読み聞かせにもよく使われます。例えば2011年に届けた『いいことしたぞう(偕成社)』という絵本は、子どもたちからとても人気があり、読み聞かせのリクエストをよく受けます。この絵本は子どもたちが社会性を身につけたり、感情の動きを学ぶことができる1冊です。また、自然にまつわる絵本の中には『ゆき(あすなろ書房)』や『しんかい たんけん! マリンスノー(小峰書店)』など、難民キャンプの子どもたちが目にしたことのない景色や生き物が出てくる絵本もたくさんあります。子どもたちは夫々の想像力を働かせながら、このような絵本を楽しんでいます。戦争と平和をテーマにした絵本の中には『オットー 戦火をくぐったテディベア(評論社)』や『へいわってどんなこと?(童心社)』『もっと おおきな たいほうを(福音館書店)』などがあります。世界の状況について絵本から学び、平和に対する想いを育てることができればと願い、これまでにもたくさん届けてきました。

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプが設立されてから既に40年以上が過ぎました。難民キャンプで暮らす子どもの多くはキャンプの外の世界を知りません。キャンプから出たこともなく、キャンプの外の様子を知る機会もほとんとありません。「絵本を届ける運動」を通して子どもたちに届ける翻訳絵本の中には子どもたちにとっての初めてがたくさん詰まっています。キャンプの外とのかかわりがほとんとない子どもたちが、絵本を通して世界のことを知ることは本当に良いことなのかといった葛藤もありましたが、絵本を嬉しそうに読む子どもたちの姿をみると、学びたいといった意欲を周りの大人が制限すべきではないと感じるようになりました。絵本を通して知らない世界を知り、また絵本を通して世界のことや自分のこと、これからどうしていきたいのかということを考えたり、目標に向かって努力したりといった環境を子どもたちのためにできる限り整えることができればと思っています。

「絵本を届ける運動」に参加いただく方の中には、1冊の絵本が子どもたちの未来につながっていると聞いても具体的に想像つかないと思われる方もいらっしゃるかも知れません。ですが、1冊が毎年2,500冊以上となり、それが17年続いて80,000冊以上もの絵本を難民キャンプの子どもたちに届けることができました。このイベントを通してみなさまにつくって頂いた絵本が、子どもたちの未来への大きな一歩に繋がっているということを少しでも感じていただけたらと思います。

 

●質疑応答

質問:図書館にくる子どもたちのエピソードや、子どもたちが言った言葉で印象に残っているものがあれば教えてください。

セイラー:ある図書館で出会った女の子のエピソードですが、その子はまだ小学校にあがっていない年齢でした。友だちと本棚の後ろに隠れて遊んでいる中で、図書館にある絵本を友達に読み聞かせをしていました。その子自身、まだ文字が読めなかったのですが、ストーリーを覚えており友達に絵本のページを開きながら堂々と読んであげていました。この子のように、自分ひとりで絵本を楽しむのではなく、友達に読んだり、家族やお母さんに絵本のストーリーを話したりする子どもたちがたくさんいます。自分自身が楽しんだことを、このように人に伝えていくということはすごく良いことだと思います。

質問:コロナの間、キャンプにはどのような影響がありましたか。

セイラー:コロナの影響はキャンプの中でもあり、キャンプへの出入りにも制限がかかりました。通常はシャンティの職員もキャンプの中に入ることができるのですが、コロナの期間は一切入れませんでした。図書館の利用にも制限がありました。難民キャンプの中の方針に従い、開館時間を短縮したり、その時々の状況によって調整しました。図書館を利用できる人数を制限した時期もありました。また子どもたちが図書館に来たいと言っても、親が子どもたちを行かせないといったこともありました。そういった状況下ではありましたが、私たちもなんとか図書館活動や読書習慣をとめないよう話し合い、例えば大人に限って本の貸し借りを可能とする、学校と連携しながら本を学校に持っていき、先生や生徒が学校で本を借りれるといった工夫をしました。

質問:図書館の大人の部屋へは子どもが入ることはできますか。またその逆もできるのでしょうか。

鈴木:図書館では大人の部屋と子どもの部屋をわけていますが、2つの部屋はドアひとつで繋がっているため、それぞれの部屋への行き来は自由にできます。大人の部屋の方が新聞を読んだり、本を読んだりゆっくりできるようになっています。子どもたちが大人の部屋に行くこともありますが、様子をみながら子どもの部屋に戻ってくるといった姿も見受けられます。

質問:25年間続けている中で、一番やっててよかったなと感じたことがあれば教えてください。

鈴木:はじめて絵本を見る子どもや大人の表情は今も忘れられません。好奇心旺盛な目で駆け寄ってきたり、読んでいる姿を見たときに、初めてを作っていけるこの取り組み自体素晴らしいなと感じています。この活動は私たちも先輩方からずっと引き継いできているものですし、たくさんの方々に支えられている活動なので、これからも続けていきたいと思っています。また(シャンティが設立したカンボジアで働く)カンボジアの先生のように、私たちはその時に届けて、その時にいる子どもたちのためにと思っていますが、ああいう風に20年以上その活動が根付くためにやり続けている方と再会したり、またカンボジアに行ったときについてくれた通訳の人が難民キャンプで生まれ、その当時本を見たことを覚えていたと。その後忘れていたけれども、またシャンティと関わることで自分の生い立ちを思い出し、その時があったからずっと頑張って勉強してきて今がある、というのを話してくれた方に出会う機会があり、特に教育支援や絵本の支援は今すぐというのは難しいけれども、長い年月の中で培われるものであり、長いスパンの中で活動が息づいていると改めて感じました。

 

【第2部ワーク】

第2部のワークでは会場にお越しいただいたみなさまにシャンティ東京事務所のご案内と、翻訳絵本づくり、翻訳絵本の修正体験を行っていただきました。

第2部は10名の方にご参加いただきました。まず初めに2Fの事務所と絵本を保管している地下倉庫にご案内し、「絵本を届ける運動」の一連の流れを説明させていただきました。

その後は慈母会館に戻り、みなさまに自己紹介をしていただきました。今回参加いただいた方々の中には、日頃より「絵本を届ける運動」にご支援いただいている方のみでなく、イベント登壇者の鈴木が書いた『わたしは 10 歳、本を知らずに育ったの。(合同出版)』を読みシャンティの活動に興味を持っていただいた方や、過去に難民キャンプを訪問されシャンティの図書館事業についても知っていただいている方、活動に興味はあるものの参加はしたことがなく、今回のイベントを通してより詳しく知りたいといった方など、さまざまな方がいらっしゃいました。

自己紹介のあとは、翻訳絵本づくりと翻訳絵本の修正体験を行いました。翻訳絵本づくりは、来年度のミャンマー(ビルマ)難民キャンプに届ける絵本のひとつ、『てぶくろ(福音館書店)』にビルマ語の翻訳シールを貼りました。また、「絵本を届ける運動」にボランティアとして参加している、ミャンマー人のリンさんによるビルマ語での読み聞かせも行いました。

※『てぶくろ(福音館書店)』の読み聞かせをするリンさん

※翻訳絵本づくりの様子

翻訳絵本づくりの最後の難関である署名では、リンさんにビルマ語の書き順を教えてもらいました。見ただけでは想像がつかない書き順の文字もあり、驚きの声があがりました。

※ビルマ語の書き順を教えるリンさん

翻訳絵本の修正体験では、支援者のみなさまから返本いただいた翻訳絵本の中で、シールの貼り間違いや貼りもれなど、修正が必要な絵本をピックアップし、シールを剥がして貼りなおすといった手直しをしていただきました。翻訳絵本に貼るシールは一度貼ると中々剥がれないよう、粘着力が強いものを使用しているため、専用のシールはがしを使って1冊1冊丁寧に修正いただきました。

第2部のイベントは少人数ということもあり、とてもアットホームな雰囲気で、参加いただいたみなさま一人ひとりとじっくり話しができ、シャンティの活動に対するそれぞれの思いをお聞きすることができました。

イベントの様子(第1部のみ)は以下の映像からご覧いただけます。