• TOP
  • トピックス
  • イベント情報
  • 【開催報告】9.10オンラインイベント「迫りくる最悪の人道危機 アフガニスタンの人々、子どもたちの今を伝える」
2021.10.15
開催報告

【開催報告】9.10オンラインイベント「迫りくる最悪の人道危機 アフガニスタンの人々、子どもたちの今を伝える」

アフガニスタン
イベントレポート
緊急人道支援

2011年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件より、20年目に差し掛かる前日、9月10日(金)、シャンティはアフガニスタンの現在の状況をお伝えするオンラインイベントを開催しました。

シャンティは紛争下のアフガニスタンにおいて、子どもの教育、女性の保護、水衛生、食料配布、コロナウイルス予防等、脆弱な立場におかれている人々や子どものために20年にわたり支援活動を行ってきました。一方、アメリカ同時多発テロ以降、アフガニスタンへ軍事介入を続けてきたアメリカですが、昨年2月にトランプ前政権が反政府勢力ターリバーンと合意を結び、今年5月に向けて完全撤退を約束しました。その後、治安情勢悪化を危惧し、駐在米軍の撤退延期を検討していたバイデン氏ですが、撤退延期は合意違反となるとの反政府勢力の警告を受け、8月時点でほとんどの米軍撤退が完了しました。これにより、力を増した反政府勢力とアフガニスタン政府との武力衝突が相次ぎ、米軍撤退が進む中、国際社会の予想をはるかに上回る速さでターリバーンが首都に進攻、15日に首都カーブルが制圧され、アフガン政府は事実上崩壊しました。この間、1カ月で1,000人以上の子どもを含む市民が犠牲となり、戦乱を逃れようと多くの方々が避難民となっています。正に今、アフガニスタンは最悪の人道危機を迎えようとしており、一人でも多くの方にアフガニスタンの現状を知っていただき、日本にいる私たちがアフガニスタンのためにできることを考える機会として、オンラインイベントを緊急開催する運びとなりました。

 

【1、情勢分析「アフガニスタン情勢の今」 青木健太氏】

アフガニスタン情勢に詳しい中東調査会研究員の青木健太氏をお招きし、アフガニスタン情勢の現状と課題分析、及び今後についてお話いただきました。その内容を抜粋してご報告します。
青木健太氏

政権崩壊の詳細
今年4月14日にバイデン米大統領が9月11日までに完全撤退する無条件撤退を表明し、最初の州都が陥落したのが8月6日南西部ニムルーズ州都ザランジ、8月15日に主要都市ジャララバード、その後首都カーブルが陥落した。実際は、ターリバーンは5月から7月にかけて農村部へ攻勢を仕掛け、アフガニスタン内の34州407郡のうちの四分の一が2ヵ月あまりでターリバーン側に攻略されるという過去20年間で類例を見ないような事態が発生していた。その意味では、米軍撤退発表前よりターリバーンの実効支配領域は全国の半数以上に及んでいた上で、米軍撤退発表を受けて一気に攻勢をしかけ、8月に至るまでに農村部のほとんどを押さえていたというのが実態に近い。

急激な進軍が可能だった理由
第一に、米軍による撤退。トランプ大統領が昨年2月にターリバーンとの間でドーハ合意という合意文書を締結したが、この内容がターリバーンに対して大幅に譲歩する内容で、政府とターリバーンとの間の和平合意、停戦などは含まれていなかった。加えて、無条件での完全撤退表明であったことが挙げられる。第二に、政府の汚職問題と治安部隊の脆弱さ。アフガニスタンは中央集権的に国家運営されてきた形跡は近現代史ではほぼなく、この20年間は欧米主導により中央政府主体の国家建設が進められる中、巨額な援助流入や政府高官の汚職が深刻であった。治安部隊については、識字率の低さから訓練度も低く、また忠誠心・士気の低さの問題もあった。第三に、ターリバーンの洗練された軍事戦略。ジャララバード、カンダハール、ヘラート、マザリシャリフ等の主要な部分を結ぶ幹線道路を押さえることで政府側の補給を絶った他、部族の長老や政府側の内通者を通じて切り崩しを図っていった。最後に、ターリバーンの支持者。一番大きなアクターであるパキスタン軍部が、インドと対峙するにあたり西側に親パキスタン政府を作ることが安全保障にかなうという「戦略的縦深」に基づく安全保障観を元に、自ら有益な武装勢力の支援を継続してきた。

モザイク状のアフガニスタン
アフガニスタンは非常に複雑でモザイク状な社会であり、具体的には大きく分けて5つの複雑さがある。まず、アフガニスタンは伝統的な部族社会であり、外部からの20年間の近代化・民主化への取り組みの方がむしろ歴史上では例外的とも呼べる。地理的な特徴もある。パキスタン、イラン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、中国と6か国から囲まれた内陸国で、戦略的要衝であり、歴史上常に対国の利害がこの地でぶつかってきた。次に、多民族国家であることが統治を難しくさせている。パシュトゥン人、タジク人、ハザラ人、ウズベク人など、数十の民族、他にもトルクメン人、アラブ人、パシャーイー、ヌーリスターニー、バローチ人、インド大陸から来たシーク教徒等、非常に多様性に溢れた国である。また、イスラム教の国である。イスラムの教えに加え、部族の慣習法(パシュトゥン・ワリー)も行動に大きく影響する。元軍閥、ムジャヒディンと一口にいっても多様である。CIAが支援したスンナ派のムジャヒディン勢力は主に7つあった。

長期的に見たアフガニスタン
ターリバーン出現時の社会情勢については、ムジャヒディン同士の内戦状態により暴行や略奪が常態化、住民に対して通行税を巻き上げる無秩序状態の中、ターリバーンはムジャヒディンを追い払って勢力を拡大、当時は治安秩序を取り戻したと一定の国民の支持があった。ターリバーンが勢力拡大する中で特に農村の国民が反対しなかったことからも、ターリバーンはアフガニスタン社会において全くの異物ではないといえる。
混乱は20年でなくむしろ40年を超える。79年のソ連侵攻から89年までのソ連とアフガニスタンのムジャヒディン勢力らの戦闘から始まった。加えて米軍介入後はターリバーンが「占領者」とみなす外国軍の存在のため、ターリバーンは一旦パキスタンに避難して勢力は弱体化したものの、2004年、2005年ごろから勢力を回復し、徐々に支配勢力を拡大してきた流れがある。

ターリバーンの両面性
ターリバーンは20年前と変わったとの見方もあるものの、額面通りに受け止めることは難しい。9月7日発表の暫定内閣はアフガニスタン政府の高官や政治家は入っておらず、民族的に見てもパシュトゥン人が主体、男性のみと、非常に権力の独占に近い。また、戦争を終結したいと言いながらも、武力制圧、抗議デモの禁止、国外へ脱出しようとする人やジャーナリストに対する拷問、女性警察官や民族音楽家の殺害等も発生している。建前と実際、末端の兵士の行動には乖離があり、20年前の厳しい統治時代と比べて基本的な姿勢は大きく変わっていないようにもみえる。

平和的に権力移行されるかどうか
いかに包摂的な政権を樹立するかが今後の安定を見る点で重要である。20年前のボン合意では排除されたターリバーンが不満を持って抵抗を続けてきており、今回排除されるグループは地下に潜伏して将来の火種になる可能性が高い。
指導体制については、注目すべきは非常に強硬派として知られているシラジュディン・ハッカーニーが内相代行(FBI指名手配犯)、ムッラー・オマルというターリバーンの創設者の息子、ヤクーブが国防相代行に入っており、欧米諸国では非常に強硬的だと批判がある。また、宣教・教導・勧善懲悪省が設置された。これはイスラムの教えに従って司法を適応していく現れである。ただ、ターリバーンも専門性がないことを理解しており、その意味では20年間存在した政府機構の上で指導、役人を管理していく形が想定される。地方行政についても州知事を任命して既存の地方行政機構を活用することになりそうだ。
国際機関、NGO等の慈善事業団体との連携が大事である。例えば、保健分野ではターリバーンを保健省の人間、WHOの人間、保健分野のNGOを実施団体にしたり、外注・業務委託したりして国の統治をする必要性がある。地方でのNGOとターリバーンとの連携、国際機関を交えたクラスターでの相談は徐々に始まっており、国連の人道支援担当の事務次長、ICRCの代表も既にターリバーンと協議して人道支援をするとしており、それをターリバーンも認めている状況である。
その他、様々な問題もある。治安部門では、武器の蔓延した社会をどのように改革していくか、女性の権利を含めた統治の問題、各国が政府承認するのか、大使館を再開するのかといった問題もある。逼迫する財政と人道支援も喫緊の課題だ。世界銀行やIMFは資金拠出を停止しているという一方、銀行も再開しておらず、公務員も完全には復帰していない。非常に社会経済活動が停滞する中、深刻な人道危機が訪れるという危険性はある。また、海外団体に協力した人の国外退避も課題である。

まとめ
外部からの近代化が現地の人々や社会に良い結果を生んでこなかった側面がある一方、ターリバーンを擁護することも難しいということで両面性を理解する必要性がある。ターリバーンの意識、国民の意識が変わり、アフガニスタン人の発意によって国造りを進める他に有効な処方箋はない。また、アメリカは無責任な撤退をしたという評価は免れず、今後、アメリカに対する各国の評価は下がる予想は十分でき、域内への新しいパワーバランスの出現も考えられる。「イスラム国」の活動もあり、ターリバーンはまだアルカイダと絶縁しておらず、再びテロの策源地になる懸念もある。
最後にアフガニスタンと日本について述べたい。まず、日本に求められるのはアフガニスタンの安定化に向けた側面支援であろう。責任を持って退避を希望するスタッフ及び家族の国外退避支援を行うべきである。次に、政治とは関係なく中立、公正、独立という立場で食料、医療、シェルター等の人道支援を行う必要性がある。更に、日本独自の対話や関与も重要だと思う。諸外国や自分達がグローバルスタンダードと考える人権基準や政治制度を押し付けてもアフガニスタンでは上手くいかない。アフガニスタンでは独自の紛争解決手段、独自の社会の秩序があり、それを理解した上で対話や関与を通じて互いが妥協するという形で新しい関係を作るしかなく、日本は欧米各国とターリバーンの両方を理解できる独自の立場でしっかり対話を行っていく。また、現地情報をしっかり把握するための収集分析体制を作ることが重要だ。パシュトゥー語の専門家、ダリ―語の専門家もほとんどおらず、専門家育成を含めた長期的な施策が必要である。

 

【2、アフガニスタンの現状 山本英里】

弊会山本より、現場も含めたアフガニスタンのこれまでと現状についてお話ししました。
山本事務局長

まず、地域や家族、個人の背景、その人の教育、思想、職業によって見方が異なるため、アフガニスタンを一般化して語ることは難しい。これからの内容は、これまでの事業の経験を通じて関係してきた主にパシュトゥンが多い東部地域や他民族の方々との出会いが基本になっていることをお伝えしておく。

アフガニスタンでは正にゼロから復興支援を始め、学校建設、先生向けの研修、図書館設置、絵本出版等を行った。課題はあったものの、この20年間での国際社会による支援は一定の成果があった。特に教育においては、まず、2000年時点で90万人の就学数が950万人(うち4割弱は女子)、学校数については、2000年時点での3,000校が18,000校と大幅な増加だった。これまでの支援は環境整備が主になっており、これから教育の質、中身という段階であった。
説明スライド

一方、汚職・腐敗、治安悪化、教育・貧富の格差が広まる中で、生活が良くなる実感がわかない市民の方が多かった。2020年では国民の半数から8割が貧困に苦しむと言われており、2009年から2020年までの間、武力衝突・テロ等の事件による民間人の死傷者数は毎年ワーストを更新、紛争が長引けば長引く程新たな報復のサイクルが生まれ、国際社会への不信感にもつながっていったといえる。現地で活動する人にとって、治安状況は年々悪化する状況の中、4月の米軍撤退の決定から援助関係者においても退避に向けての動きが出てはいたものの、支援活動の継続の必要性も唱えられていた。そういった中、8月の首都陥落は想像以上に早かった。

ターリバーン制圧によるリスクについては地域差、個人差がある。地域によっては制圧後もそれほど影響はなく、平穏を取り戻しているところもある一方、行政サービスの機能停止、物流停止、物価高騰など市民生活への影響が大きく出ている。また、銀行問題は大きく、送金こそできるようになったものの、現金引出上限の設定も週に200ドル程度、と現金も不足。失業、給与の遅配も発生している。

教育については、8月末時点で再開が決定したが、各地域、学校によって再開が徐々に行われ、女性教員の一部も出勤しているが、出席児童・生徒数は少ない。コミュニティベースド学校も一部の地域で再開した。また、前政権下での新科目の廃止が決定され、宗教科目を新たに追加する事が発表されたが、新しい教科書の改訂や印刷、配布等、具体的な部分はいまだ不明となっている。省庁では、大臣クラスの人事が任命されているが、どの程度具体的に業務を遂行できるのか不透明であり、各県レベルにおいても行政ごとに対応が異なっている。

現在、人道支援上の懸念が高まっており、アフガニスタンを孤立させずに人道支援を継続していくことは非常に大切である。一方で女性の就業許可の問題や実務経験のない新しいターリバーン行政関係者が、どのように実務を担っていけるのか、懸念するところは大きく、今後中長期的な支援が必要となってくる。この20年間で育った現地の人材を活かし、またアフガニスタンの多様性を考慮しつつ、国際社会が連携して包括的支援を考える必要がある。

 

【3、パネルディスカッション 青木氏、秦達也氏、山本】

モデレーターの秦氏より、パネリストに話を聞きました。
パネルディスカッション

秦氏)青木さん、ターリバーン内部、アフガニスタン国内の勢力との兼ね合いや外部の国々も含め、パキスタンに対するコメントをお願いします。

青木氏)パキスタンは「戦略的縦深」の観点からヒト・モノ・カネの資源を後援し、ターリバーンを支援してきたと考えられるため、パキスタンの影響力は大きいと言えます。他方、ターリバーンはアフガニスタンの土着の運動ということや、パキスタン・ターリバーン運動の構成員らが軍事攻勢の過程で刑務所から放たれている現状を考えると、パキスタンからすれば諸手を挙げて喜べる状況ではないとの見解もあります。

秦氏)ターリバーン政権下において今後の活動はどう折り合いをつけてやっていきますか。

英里さん)これまで活動に関わってきた人がアフガニスタンにはおり、また活動を展開できるスペースもあります。支援スペースを広げていくことです。

秦氏)30秒ずつ皆さんへメッセージをお願いします。

青木氏)アフガニスタン情勢が複雑すぎるとコメントにありました。善悪二元論で理解できないのは、アフガニスタン情勢だけではなく、世の中のほとんどの問題がそうかと思います。現実の難しさがあるため、欧米メディアの偏り、ターリバーン擁護側の偏り等、ポジショントークに巻き込まれないよう、自分の目を養っていくしかないと思います。

英里さん)アフガニスタンを孤立させない。

秦氏)これまでを思い起こしていました。20年間アフガニスタン人と共に汗をかき、厳しい状況下で培ってきたので、何とかして活動を継続していければと思います。一方、今が正念場だとも感じます。両面性をもって内発的なアフガニスタン人の思いをサポートし、長期的な平和構築に向けて一刻も早く戦争が終わるよう、また平和な社会が来るよう願っています。