【開催報告】「人道危機下にこそ、子ども、女性を守る教育支援 ~アフガニスタン現場からの友の声 第2弾~」
シャンティは12月9日(木)、ジャパン・プラットフォームとの共催でアフガニスタンの現在の状況をお伝えする緊急オンラインイベントを開催しました。
【プレゼン「アフガニスタンにおける20年間のJPF/NGOの教育支援」】
ジャパン・プラットフォームの共同代表理事であり、特定非営利活動法人CWS Japanの事務局長でもある小美野氏より、現在までのアフガニスタンの支援のうち、特に教育に焦点を当て、お話しいただきました。
JPF加盟団体によるアフガニスタン支援は2001年10月に開始され、16加盟団体が140支援事業を実施し、合計約200万人の人々に支援を届け、また民間からの1.4億円資金で更に支援拡充できました。2010年より、教育への支援を重要テーマとして国の復興と国を支える人づくりの支援を開始し、2018年からは慢性的で複合化する人道支援危機に対応すべく、アフガニスタン帰還民の他にも国内避難民、受け入れ地域住民へも支援を拡大してきました。
うち、教育支援は合計46事業、約31億円にものぼり、現在の教育関連の支援は、学校の校舎や教室、トイレや水道等の学習環境を整え、特に女子が学校に通えるよう支援してきました。また、質改善に向けた教員研修、農村部でのコミュニティによる学校運営、助産師・看護師育成の他、地雷回避教育、成人の識字教育を支援し、現地が主役となる支援展開をしてきました。一時見合わせていた事業も、現在は再開されています。
もともと40年に及ぶ紛争、人権侵害、貧困、干ばつによる食糧危機、強制移動、パンデミックと、政変前より最悪ともいえる人道危機状態に陥っていました。更に、冬は零下20度にまで気温が下がる地域もあり、数メートルに及ぶ降雪も道をふさいで物流を阻んでしまいます。他方、現在の大干ばつにより、人口の半分である1,900万人が深刻な食糧不足の状態、冬は2,280万人増加と予測されています。これを受け、緊急越冬支援プログラムの実施を決めました。
教育に話を戻すと、政府予算の7~8割を占めていた国際支援の多くが8月以降に停止され、財源不足により公務員への給料の支払いが停止されています。加えて、男子の小学校・中等教育は再開された一方で、女子の中等教育は再開されていない等、女子教育に対する課題は残されています。教育は、個人の自己実現のみならず、アフガニスタン自らが平和で安全な社会・国を作っていく基盤です。また、多くの子ども、若い世代にとって学校が心の安らぎ、身体的な保護を提供する場になっており、緊急下での教育は無視されるべきでありません。40年来の紛争が生んだ教育を受けられなかった世代が更に生まれないよう、JPFは支援を続けたいと思います。
【パネルディスカッション「緊急時にこそ必要な子ども、女性を守る教育支援」】
ジャーナリストであり、ジャパン・プラットフォーム理事でもある浜田敬子氏をモデレーターとしてお招きし、弊会事務局長の山本英里とアフガニスタン人2名(Aさん、Bさん)によるパネルディスカッションを行いました。
山本さん、自己紹介、これまでの活動、現地の現在の様子をお願いします。
シャンティは1981年に日本で設立し、「共に生き、共に学ぶ」平和な社会の実現を目指し、本、初等教育を中心とした教育文化支援、緊急人道支援を現在6か国、8地域で行っています。
アフガニスタンでは、シャンティとしては2001年の米軍空爆後に物資配布を開始し、また私は2002年にUNICEFが実施するBack To Schoolキャンペーンに参加、東部地域に駐在しました。その後、シャンティは2002年に二度目の物資配布、難民キャンプにおける子どもセンターの支援を開始、2003年には本格的な教育支援開始を決定・開始しました。
20年間の中で、シャンティは43校の建設、約6,000人を対象とした教員研修、158館の図書館設置、107タイトル・187,000冊の本の出版を行いました。学校に直接届けていた支援活動を少しずつ省庁、行政に移管していくタイミングでの政変で、現在は活動再開しているものの、省庁、行政に移管を考えていた活動は変更をせざるを得ない状態です。
子どもたちは経済的な困難から働かざるを得ない状況にあります。20年経過し、約900万人の子どもたちが学校に行けるようになった一方、残念ながら最近はこの傾向が再度見られるとの報告を受けています。
Aさん、自己紹介と、タリバン制圧後の生活がどうなっているかを教えてください。
修士号を取得し、国立大学で講師をしていました。大学には生徒の他、教員もおらず、最悪な状況と言えます。8月以降、給料も支払われていません。
Aさんはお家にずっといる状況でしょうか。
そうです。8月から家にいます。
Bさん、現地の子どものために働いているということですが、今はどのような生活をしていますか。
皆さん、こんにちは。Bと申します。子どものための居場所の支援を行っています。タリバン制圧を受けて一度は閉館しましたが、今は再開しています。
Aさん、食糧危機状況、また厳しい冬も来ますが、一番何が心配ですか。
前政権が崩壊して以降、アフガニスタンには多くの課題があり、特に食糧問題が深刻です。
Bさん、ご自身や家族は食事をちゃんと取れていますか。
私たち家族は食事をちゃんと取れています。ただ、多くの人は十分な食糧がない状況が続いています。
山本さん、生活支援がなければ教育を受けることすらできない状況について、どのように関わり、どう全体状況を見ていますか。
食糧と教育のどちらを先に支援すべきか葛藤を感じますが、今回、同時支援しなければ根本的解決にならないと気付きました。
公教育という学校支援は国の基盤作りであり、また、学校に通えない子どもたちも通えるノンフォーマル教育支援も必要です。食糧支援も実施していますが、同時に中長期に人材育成をしなければ、また同じ課題に直面するでしょう。加えて、現在はAさん、Bさんのような人材が現地におり、この20年間の活動の成果を感じます。
山本さん、NGOによる教育支援活動はタリバンとどのような関係でやっていますか。
少なくとも私たちの活動地域では、教育局の副局長以下の実務を担っていた人たちが前政権下より引き続き働いています。今の政権にこれまでの教育を継続するよう、NGOと一緒に説得しています。一方、NGOの活動実施許可のプロセスは従来と変わりはなく、新しい関係者に団体や事業について説明し、許可を得て活動している状況です。
山本さん、初等教育と高等教育で差はありますか。
あります。高等教育はほとんど再開されていません。許可の問題以外に、例えば施設や教員が足りない中、男女の教室を分ける、女性教員を配置する等、新しい方針に基づく条件を満たせないといった問題もあるかと思います。
小美野さん、中央銀行凍結により公務員の給料が払えず、道具で家財道具を売っていた9月の状況から変化はありますか。
銀行からお金を引き出す制限は現在もありますが、国際送金については伝統的な送金システムも利用し、中国、イタリア等の銀行を中継、ユーロ建てで現地に送金できています。制裁は全く解除されておらず、日本政府は取り決めをしていません。また、現在は自分の子どもを売る、臓器を売る人も多くいます。
Aさん、2001年米軍空爆前と、2001年から色々な支援が入るようになった頃では、ご自身の受けた教育はどう変わりましたか。
2001年前はタリバン政権下で教育にアクセスすることができませんでした。、私たちはイランに移住し、両親が勉強を教えてくれました。また、アフガニスタンへ帰還後は学校でも教育を受けられるようになり、最終的には大学卒業、試験合格と続いて講師になれました。
Aさん、高等教育を受けたことでどう変化がありましたか。
特にライフスタイル、生き方が変わりました。高等教育は経済的、政治的、イデオロギー的な自分を持てる術であり、自立のための術です。
Bさん、どのような教育を受け、教育を通じてどのような変化がありましたか。
学校には週に2回だけ通える小さな図書館がありました。私は先生に交渉して毎日通って全ての本を読み、色々な考え方、自分の力の伸ばし方を学びました。教育を受ければ、本を通じて他人の考えを知ることができます。現在のアフガニスタンの状態は教育を受けていない人が多いからでしょう。
山本さんへ、2001年以前・以降を比較して子ども、女性にどう変化が生じましたか、また現在の状況が続くとどんな影響が出ますか。
ゼロから支援し始めたアフガニスタンにおいて20年という年月は短く、成果を今の段階で評価することは難しい一方、2020年時点で950万人のうち約4割の女子児童が学校に通い、Aさんのように社会を変えていきたいと思う人が劇的に増えています。公務員の女性比率も政変前は21%、上級の管理職も16%、国会議員も27%と飛躍的に活躍しています。
ある14歳の少年の話をします。ご飯を食べさせてあげられない、と5歳の時に両親が民兵に出した以降、最前線で打たれたら打ち返すことしか教わっておらず、食糧がなくなったら隣の村を襲って取ってくるまでだ、と答えました。そんな彼が、学校に行き始めた子どもたちを見て羨ましそうな目をしたのです。支援活動を継続していくことでそんな子どもたちの減少に繋がるのでは。
Aさん、日本に伝えたいことや期待することは何ですか。
まず、教育は重要です。教育を受けることは賢くなる唯一の方法であり、物事の正否を知り、自立し、困難を克服することもできます。教育は食糧の次に重要でしょう。
もう一つは、国際社会による支援の継続の必要性です。これまでの支援を通じて大きな成果があり、とても感謝しています。8月以降、私たちは全てを失いましたが、まだ私たちは国際社会、コミュニティと繋がっています。特に子どもたち、女性たちが教育支援を必要としており、支援を継続していただきたいです。
Bさんはどうですか。
教育は非常に重要で、人生の中の基礎です。教育なしには人生を歩んでいけません。現在、多くの学生・子どもが経済的な問題で学校に通えておらず、その多くが将来に対する希望やモラルも失っている状態です。私たちの居場所支援は、そんな子どもたちにとって唯一の存在です。残念ながら、教育を受けていない人たちは他人に言われることをそのまま受け入れてしまいます。私たちの将来を作るため、支援をお願いします。
山本さん、教育現場における課題と今後の課題解決方法、日本へのメッセージをお願いします。
課題としては、まず教員の給与未払いです。また、地域に根付いたコミュニティベースドの学校の継続に対するサポートの可否も課題です。教育関係者には、引継ぎ完了後の自分の身を案じながらも、活動実施のために現暫定政権下の新しい公務員たちと対話を続ける行政関係者もおり、今の間にできることを既成化するための後押しを日本でできればと感じます。
小美野さん、JPFとして教育支援の予定、日本へのメッセージをお願いします。
複数年スパンの腰を据えた支援が必要です。その中の教育の位置づけを考えつつ、JPFとしての支援展開の方向性を来年3月頃に見出していきたいと思います。
日本へのメッセージとしては、人としての優しさを忘れているのではないでしょうか。アフガニスタンの人々と政治とを切り離して考えることを不自然だと考える人が多いと感じます。日本国としても、他国に合わせるといったポリシーでなく、日本国としてのポリシーを制定すべきです。また、アフガニスタン内の団体に直接支援を届けることで人々を支援できます。最後に、私たちも敗戦後に国際社会から沢山支援を受けて復興してきた身ということを忘れずにいたいと思います。
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当日は沢山の方にご参加いただき、ありがとうございました。
今後もシャンティはイベントやブログを通じて皆さまに活動国・活動地域の情報公開に努めてまいります。