【開催報告】7/7オンラインイベント「ウクライナ支援報告会~戦火を逃れた人びとに何ができるか~」
シャンティ国際ボランティア会(シャンティ)は2022年8月より、ウクライナ国内外での支援活動を開始いたしました。昨年5月13日に実施した「緊急報告会」より1年以上経過した今、事業報告と活動地の現状を伝えるオンラインイベントを7月7日に実施し、20名以上の皆様にご参加いただきました。
2022年5月13日オンライン報告会「ウクライナ危機~緊急報告会~」の開催報告はこちら↓
https://sva.or.jp/event/eventreport_220519/
イベントでは、ウクライナの人びとが国内外で置かれている状況、ジャパンプラットフォーム及びご支援者様からのご寄付にてウクライナとポーランドで実施してきた事業、さらにシャンティとしての関わり方についてお伝えしました。
登壇者
デラワリ ケイ
地球市民事業課 課長補佐。海外緊急人道支援担当として、東京事務所からミャンマー避難民支援事業や、タリバン政変後のアフガニスタン避難民支援事業を担当。ウクライナ危機後はウクライナ国内事業の後方支援を担当。
夫津木廣大
チーフ 海外緊急人道支援担当。総合学術博士。関心分野は、人道支援の理念的系譜や政治的側面との緊張関係。シャンティでは、ウクライナ、トルコ緊急人道支援事業を担当。大学院在学中に在外公館専門調査員として、エジプトでの2年間の勤務を経てシャンティに入職。
ウクライナ人道危機
2022年2月に発生したウクライナ人道危機発生後、ウクライナ国内で暮らす避難民は630万人、支援対象者は1,760万人にものぼります。危機発生以前の総人口が4,330万人であったことを考慮すれば、非常に大きな割合の人びとが被災していることがわかります。また770万人の方がウクライナ国外で避難生活を送り、その避難民の多くが高齢者・女性・子どもです。現在でも戦線を中心に、ミサイルの投下等の紛争状態が続いています。
人道危機発生直後から食糧支援や住居支援のニーズに加え、シャンティが特に支援に力を注いできた、教育支援のニーズが指摘されます。子どもの70%が教育支援を必要とし、保護者の75%から子どもの心的・認知的症状が報告されています。そこから1年半を迎えようとしている現在、長期化に伴うニーズの変化や多様性が懸念されます。
避難民の受け入れについて国際社会から寛大と評価されたポーランドでは、政府が各種福祉サービスへのアクセスをウクライナの人びとに許可したことに加えて、ポーランド国民の7割が何らかの支援に関わったと回答しています。ただし最近では、徐々に避難民支援に係る政府予算の減少や、国民レベルでの支援疲れに関する報道が散見されます。
2022年5月に実施した初動調査の結果、支援の必要性を感じたシャンティは、既に活動完了した事業と活動中の事業を合わせて、5事業を3か国(ウクライナ、モルドバ、ポーランド)で実施してきました。今回の報告会では、①食料・学習物資の配布 ②生活再建支援 ③社会統合センター の報告をさせていただきます。
事業1:食糧・学習物資の配布 ポーランド/ウクライナ(デラワリ)
現地提携団体が支援実績のある地域の中から、ポーランド3都市、ウクライナ3都市で、食糧キット(2,435名)、学習キット(720名)、学習用タブレット(275台)を配布しました。ウクライナ国内ではミサイルやドローン攻撃により、配送経路の変更や配布活動の一時中断も余儀なくされる困難な状況でしたが、現地提携団体やボランティアの方々の協力のおかげで無事配布することができました。
ポーランドでは、ウクライナ国外に避難した子どもが母国の公教育をオンラインで継続して受けるために、タブレットを配布いたしました。配布に際しては、使用方法や注意事項を提携団体と相談し、保護者と子ども向けのリーフレットを同封いたしました。
シャンティ職員が、ポーランドでの活動の一部に随行し、ウクライナの人びとから直接話を聞く機会を持つことができました。シェルターで生活する11歳の女の子は「学校が楽しく、特に言語を学ぶのが大好き。将来は、ポーランド語、ウクライナ語、英語を使える通訳になりたいです。」と語ってくれました。この女の子のように、新しい環境に溶け込むことができた人がいる一方、言語が違うことで就職ができない人、難民という扱いを嫌い危険なウクライナ国内に無理に戻ろうとする人もいるそうです。この事業を通して、事態が中長期化する中、今後ポーランドコミュニティや行政と連携し、避難民の方にコミットメントしていく必要があると感じました。
事業2:食糧・生活必需品の配布 生活再建のための講座の開催/ウクライナ(デラワリ)
ウクライナ国内で、生活再建のための講座を、ポルタヴァ州に所在するポルタヴァ経済貿易大学の学生寮とその周辺に避難する約300名に向けて開催しました。また同じく避難する約1,500名に、食糧・生活必需品の配布を実施しました。現地提携団体が作成した事業風景の紹介動画をご覧ください。
現地提携団体の担当者であるオルガさんは、2014年のクリミア半島侵攻でポルタヴァに避難してきた経験を持ち、今回の危機では自分が避難民を支えたいという強い思いをもっています。
物資配布では、食料や生活必需品を一人分ずつパッキングしました。その他に、避難先の食堂の食器や冷蔵庫、調理器具一式をお配りしました。現地では停電が頻繁に起き、また空襲警報が発令されるとシェルターに避難しなければならないため、シェルターへの電力供給を確保するために発電機も供与いたしました。物資を受け取った人は、「物資を受け取ることで、誰かとの繋がりを感じることができた」と語ってくれました。
生活再建のための講座では、ピザ職人講座やネイリスト講座、ツアーガイド講座に加え、ITの盛んなウクライナに合わせたEコマースやオンラインストアの開業方法についての講座なども開かれました。職業講座だけでなくヨガなど、心理社会支援に結び付く講座もありました。
受講者からは「避難生活が続き施設に閉じこもっていたところ、今回の講座をきっかけに外に出ることができた。また、避難施設の中で交流する機会になった」という言葉を頂きました。
シャンティはウクライナ国内を訪問することはできず、事業過程で話をする機会が多いのは、避難民の方々ではなく現地提携団体でした。よく支援事業では、現地提携団体のキャパシティ・ビルディングという側面が強調されます。しかし、今回の事業がそれに該当するとは考えていません。ウクライナ侵攻以前は、自立して事業を実施できていた団体が戦渦に巻き込まれ、講座のニーズも急増したことで、シャンティはその団体の臨時的なサポートを行ったと理解しています。シャンティの理念は「共に生き、共に学ぶ」を掲げますが、その前提において現地で支援活動にあたる団体を、日本から支えることも大きな役割だと感じています。
事業3:社会統合支援センター整備事業/ポーランド(夫津木)
ポーランド南西部にある地方都市ルバフカにおいて、社会統合の推進を図る事業を実施しています。ウクライナから逃れた人びとに向けて、一時的な居住施設の整備、生活再建支援の情報窓口の設置、またルバフカの人と共に参加する教育・文化活動の開催を実現できるよう、関係各所と調整・検討中です。
現在は、社会統合支援センターの建物を現地の建築業者や行政と共に調整しています。世帯間や地域との交流の推進では、アートワークセラピーや文化的なワークショップなど、ウクライナ避難民とポーランド住民が、世代問わず参加できる活動を実施していきたいです。加えて、ポーランド政府が提供する支援制度をより効果的に利用するための生活支援窓口を設置を調整中です。
このような施設を準備するにあたって、ウクライナの人びととルバフカに元々住む人の意見や気持ちが重要になると考えます。ルバフカで、ウクライナの子どもがポーランド語を学習する速さに驚く学校関係者や、ウクライナの人びとへの支援を当然だと思う女性と出会いました。また話を伺ったウクライナ女性は、ルバフカでの生活にとても満足していると語ってくれました。その一方でその女性は、ポーランド語をもっとうまく話せれば、もう少し交流ができると語っていました。ルバフカの人の中には、ウクライナの人びととへの支援は当然だけれど、彼らはうまく溶け込んでいるのだから殊更に強調する必要はあるのか?と問いかける方もいました。
シャンティの事業は、「社会統合」を目指しています。その事業が、人びとの間の微妙な気持ちのバランスを壊すことなく、皆さんにとって価値ある事業となるよう、関わる人びとの声を念頭に置きながら、調整・連携を続けてまいります。
まとめ:私たちになにができるか?(夫津木)
ウクライナの人びとに向けて実施してきた事業は、「居場所」というキーワードでまとめることができると思っています。それは単に物質的に不足していないだけではなく、安心感や自己肯定感に繋がる空間です。たとえ避難生活においても、「居場所」は贅沢ではなく、備えられるべきものだと考えます。ただし、それは外から与えられるものではなく、あくまできっかけを提供できるだけだという点も、忘れてはなりません。常に関わる人の気持ちや表情を念頭において、押しつけとならない居場所づくりへのお手伝いをしていきたいと思っています。
質疑応答
Q.日本からの支援は現地ではどのように受け止められていますか。
A.デラワリ:良い印象を持ってもらっていると思っています。今回説明したウクライナ国内での事業の修了時には、提携団体から「物資配布だけではなく将来を考えた中長期の支援、いわば魚ではなく釣り竿の支援をしてくれてありがたい」と言ってもらえました。また配布した講座の修了証について、「これは紙切れ一枚ではなく、それをきっかけに将来を考える、避難民の方にとって記念となるもの」と言ってもらえたことが印象的です。
Q.活動地域の治安状況はいかがですか。
A.デラワリ:事業地のポルタヴァ州は、実際の攻撃が比較的少ない地域ではあります。それでも、ドローン攻撃があったこともあります。最近では西端のリビウ州に、ポルタヴァ州を飛び越してミサイル攻撃があったと聞いています。攻撃こそ少ないものの、事業期間中に空襲警報は頻繁に発令されました。その度に講座を中断し、講師・受講者の方は地下シェルターに避難されていました。そのため実施場所を、シェルターに避難しやすい大学の低い階で開催するなどの対応を講じていました。
Q.活動を行うときに大切にしていることは何ですか。
A.夫津木:提携団体の職員を含めて、支援に関わる人の顔のイメージを思い浮かべることです。事業として実施するには、押さえるポイントは様々ありますが、最も大事なのは、彼らの尊厳や生活において、必要であり十分な活動なのかと考えることを忘れないように心がけています。
A.デラワリ:提携団体の職員の方も、被災者であることを忘れないことです。こちら側で完結できる部分は、こちら側で実施する。なるべくお願いすることは少なくし、早く返事をすることを心掛けています。
Q.ポーランドで暮らす人はウクライナに戻りたいと思っているのですか。
A.デラワリ:ウクライナの子どもは、ポーランド国内からオンライン教材を通じてウクライナの公教育を受けています。彼らには、ウクライナに戻ることと、ポーランドの公教育に編入していく、どちらの選択肢もあると考えています。
A.夫津木:ルバフカで出会った、英語ができるウクライナの女の子に話を向けてみたら、「仕事がないので、ウクライナには戻りたくない。英語を使って、EU圏で仕事を探したほうが良い」と言っていました。一括りにすることはできませんが、ウクライナに戻りたいと思う方だけではないと再認識しました。
Q.寄付以外でできる支援はありますか。
A.デラワリ:知ってもらうこと、関心を持ってもらうことだと思います。そうして、話題に挙がることで、変わっていくこともあるかと思っています。
A.夫津木:関心の持ち方として、シャンティだけではない色々な支援団体の報告会に参加することもあると思います。支援団体の異なる事業ややり方を比較すれば、事業への建設的な批判も可能になると思います。そのような指摘は、とてもありがたいと感じます。
Q.ポーランドでの生活で印象に残っていることはありますか。
A.デラワリ:ワルシャワの街中で、若者の腕に日本アニメのキャラクターのタトゥーを見つけて驚きました。またワルシャワ大学の日本語学部は、東欧でもかなり人気だそうです。書店でも、日本の小説が多く翻訳されていたことが印象的です。またルバフカのスーパーマーケットで、「こんばんは」と話しかけられたことが記憶に残っています。
A.夫津木:ルバフカ滞在先のホテルで、朝食に白米を食べると言ったらすごい驚かれました。それからはトマト・ハム・スクランブルエッグに、白米が毎日ホテルの朝食に出てきて、どう食べようか迷って塩で食べました。
報告会はこちらの動画からご覧いただけます。
改めまして、ウクライナや弊会の事業に関心をお寄せ下さった皆さま、様々な形でご支援を頂いた皆さま、本当にありがとうございます。これからも、ウクライナのことを忘れず、その未来のため共に歩んでくださるよう、お願い申し上げます。