2015.02.10

開発協力大綱の閣議決定に対する国際協力NGOの緊急声明

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シャンティも加盟する特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC)より以下の声明が出されました。

開発協力大綱の閣議決定に対する国際協力NGOの緊急声明

2015年2月10日

特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター
動く→動かす

2月10日、日本の国際協力の新たな指針である「開発協力大綱」が閣議決定されました。

私たち、日本の国際協力NGOは、昨年3月下旬に外務省がODA大綱を見直す作業の開始を公にして以来、「ODA大綱見直しに関する有識者懇談会」への働きかけを始め、NGO・外務省定期協議会、公聴会、パブリックコメント、各種セミナーやシンポジウムの場で、見直しの進め方や政府原案について意見を述べ、外務省との対話を積み重ねてきました。その結果、今回閣議決定された「開発協力大綱」は先の政府原案と比べて改善されたところもあります。
特に、女性を「開発の担い手」として位置付け、「開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進すること」を実施上の原則の一つとして明記したことと、また開発教育の目的を「世界が直面する様々な開発課題の様相及び我が国との関係を知り、それを自らの問題として捉え、主体的に考える力、またその根本的解決に向けた取組に参加する力を養うため」と定義し、これを推進すると明記したことです。
しかし、後述するように依然として大きな懸念が残る部分もあります。日本の国際協力NGOは、開発協力大綱が正しく運用されるよう、今後も注視し、提言を続けていきます。
今年、2015年は「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限であると同時に、次の15年の新たな目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」が策定される年でもあります。そこでは開発に関わる様々な問題が、途上国の課題としてだけではなく、先進国も含めた国際社会全体の課題として定義されることになるでしょう。日本の国際協力が、ODAだけでなく企業やNGOも含めた総体として、この新たな開発目標の達成に、より効果的に貢献し、平和で公正で持続可能な地球社会の実現に向けた真の変革へとつながるように、私たち日本の国際協力NGOもともに取り組んでいきます。
以上の基本的な考え方に基づき、「開発協力大綱」の実施に関し以下のとおり提言します。

1.非軍事の原則を徹底させて下さい

今回閣議決定された「開発協力大綱」においても、先のODA大綱と同じく、非軍事の原則は明記されていますが、その一方で「民生目的および災害援助等非軍事の目的」に限るとしながらも、「相手国の軍又は軍籍を有する者」に対する支援も「その実施的意義に着目し、個別具体的に検討する」とされ、日本のODAとしては初めて相手国軍への支援を認めています。
災害援助を含む緊急人道支援の現場においては、軍が救援物資の輸送や基礎インフラの復興支援において重要な役割を果たすことがあるのは事実です。しかし、軍への支援は、たとえそれが当初は民生目的であっても、後に相手国の軍によって軍事目的に転用される恐れが常にあります。そのようなリスクを回避し軍事転用を未然に防ぐ目的から、私たちは外務省に対し一貫して、上記の条文を削除するか、より明確な歯止めとなる文言を追加するよう、繰り返し強く要請してきました。
しかし、今回閣議決定された開発協力大綱においても、この条文の削除や修正が一切なされなかったことは誠に残念です。私たちは、日本のODAが将来、歯止めなく軍事協力に傾斜していく可能性について、強い懸念を持たざるを得ません。この条文が抜け道となって、軍への支援がなし崩し的に拡大されることがないように、日本政府に対し、今後のODA実施において非軍事の原則を徹底させるとともに、ODAの使途に関する情報公開をより一層進めることを求めます。さらに、『相手国軍・軍籍を有する者』への支援が、中長期的に軍事転用されていないかをモニタリングし、その情報を公開することを求めます。

2.「貧困解消」と「質の高い成長」の実現のために、日本および途上国の市民社会との連携をより一層強化して下さい

私たち日本の国際協力NGOが、非軍事の原則と並んで、外務省に対し一貫して強く主張してきたのは、日本の開発協力の第一義的な目的は、国際社会の開発目標でもある、途上国の貧困解消とすべきであるということです。そのために、公的資金であるODAは、経済成長だけではなく、市場経済メカニズムだけでは貧困層まで行き届かない教育や保健医療を初めとする基礎的な社会サービスの提供や、累進課税を初めとする富の再分配システムの構築の支援にこそ、より高い優先順位を置くべきであるとも主張してきました。
今回閣議決定された「開発協力大綱」は途上国の貧困問題の解消をその目的に掲げてはいますが、その手段としては貧困層に対する直接的な支援よりも「質の高い成長」を通じた貧困問題の解消により大きなウェイトが置かれています。また開発協力大綱は「質の高い成長」を「包摂的」で「持続可能」であり「強靭性」を兼ね備えた成長であると定義していますが、これらを実現するために日本の開発協力がこれまでとはどのように変わらなければならないのかについては述べていません。
たとえば「成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残されない」ような包摂的な成長を本当に実現するためには、貧困層や、これまで社会的な排除の対象となり、弱い立場に置かれている人々が、国家による開発プロセスにも積極的かつ効果的に参加することによって、彼らのニーズが開発計画に反映されリソースが適切に配分される必要があります。しかし、各国に固有の政治的・社会的・文化的な事情のために、貧困層や、社会的に弱い立場に置かれている人々は、ODAの交渉先である相手国政府の主流を成す有力者層や富裕層から、意識的あるいは無意識的に排除され、彼らのニーズは開発計画に反映されないか、後回しにされるということが頻繁に生じています。
そのような事態を回避し、貧困の解消、格差の是正によって「一人も取り残さない」社会を作っていくためには、経済成長に資する援助だけでなく、これまで経済的・社会的に疎外されてきた人々を取り込むこと、また、公正な立場から富の再分配を実現できる強い公共セクターを構築することにも力を注ぐことが不可欠です。
そのためには、社会的に弱い立場に置かれている人々や貧困層によって構成される、もしくはこれらの人々と最も近い所にいる途上国の市民社会と直接対話することが極めて有効です。そのような対話を可能かつ実効的なものにするためにも、途上国の市民社会組織、および彼らと太いパイプを持つ私たち日本の国際協力NGOとの連携をより一層強化して下さい。

以上