「世界難民の日」に想うこと ~原点に立ち返り、前に進む~
今日6月20日は「世界難民の日」。2023年のテーマは「難民とともに描く希望」です。
シャンティ国際ボランティア会副会長の秦辰也氏より「世界難民の日」に寄せたメッセージをいただきました。
2000年末に国連決議で世界難民の日が定められて23年。いまこそ世界で1億を超える難民・避難民の人たちへの関心と理解を深め、保護と支援の輪を広める必要があります。この日に「インドシナ難民」のはじまりを想起し、今日シャンティがかかわるミャンマー、アフガニスタン、ウクライナ難民・避難民支援のあり方について再考したいと思います。
日本の難民受け入れの歴史とシャンティの活動の始まり
日本に初めて「難民」と呼ばれる人々が「上陸」したのは、ベトナム戦争が終結した直後の1975年5月、小さな漁船で祖国を脱出した9人の「ボートピープル」が米国船に救助され千葉港に到着した日でした。日本に漂着したボートピープルは、95年末までで1万3千人強。75年4月に親米政権が倒れたカンボジアや同年末に王政を廃止し社会主義国へと向かったラオスからも難民がタイに逃れ、その後は大量虐殺を行ったポル・ポト政権が79年初めに崩壊して、何十万ものカンボジア難民がタイ領内に再流出しました。
当初、日本政府はこれらインドシナ難民の受け入れに極めて消極的でした。しかし、1979年11月にアジア福祉教育財団に難民事業本部が設置されるなど、閣議了解によって一時滞在に加えて徐々に「定住」の道が開かれました。緒方貞子さん(注)が政府調査団の団長でタイ・カンボジア国境に向かったのも11月でしたが、翌12月には曹洞宗カンボジア難民調査団も現地を訪れ、初動調査後に難民キャンプで移動図書館活動や焼失した本の復刻作業に取りかかりました。日本国内でも、81年に在日カンボジア人や定住難民のためのカンボジア語図書館を開き、伝統文化の交流や遠足などのプログラムが始まりました。
(注)1991年から2000年までの10年間、日本人で初めて国連難民高等弁務官を務めました。
1981年カンボジアのカオイダン難民キャンプの移動図書館の様子。子どもたちが本を選んでいます。
1981年といえば、日本の通常国会で難民条約(1951年、難民の地位に関する条約)と議定書(1967年、難民の地位に関する議定書)の加入が承認、翌82年に発効ました。出入国管理令も「出入国管理及び難民認定法」に改正されるなど3年かかって法整備がなされ、ようやくインドシナ難民とは区別された「条約難民」への門戸も開かれました。しかし、2005年末までの前者の定住受入れこそ11,319人に達しましたが、条約難民については2022年までで1,117人と極めて少なく、国際的にも極端な認定率の低さが問題視されています。
最近のシャンティの活動、そして人々に想いを寄せて
その後、シャンティの難民支援活動はタイ国境のミャンマー難民支援へと向かいました。そして、2001年の米同時多発テロ事件をきっかけにパキスタン・ペシャワルでのアフガニスタン避難民支援や国内での帰還難民・国内避難民支援が開始。さらに2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻に伴い、ポーランドやモルドバでの避難民支援や国内避難民支援へと広がりました。ミャンマーでは2021年2月1日の軍事クーデタ後戦闘が激化し厳しい情勢が続いていますが、アフガニスタンでも同年8月にタリバーンが政権を奪還したことから長年シャンティで活動していた主力スタッフや家族が避難民として国外退避を余儀なくされ、渡日するケースも出てきました。
ミャンマー(ビルマ)難民キャンプでの絵本読み聞かせ活動の様子。
2001年アフガニスタン難民へ食料配布をする秦氏。
今年5月26日現在、来日したウクライナ避難民は2,436人、ミャンマー人についてはクーデタ後に在留や就労を認める緊急避難措置がとられ、法務省は2022年3月までに約4,600件を許可したとしています。また、アフガニスタン人の場合は日本大使館やJICA、NGO職員など、2021年8月以降に約800人が日本に避難し、2021年と22年を合わせて156人が難民に認定されています。
難民の初上陸から48年。命をかけて来日したこれらの人々の法的立場は相変わらず脆弱です。人道的配慮で一時的に滞在できたり定住が可能になったりしても、入国直後から安定し自立した生活が送れるようになるまでの期間の充分な保護や支援が極端に不足していることも明白です。民族や宗教の違い、教育や言葉の厚い壁…。しかし私たち一人ひとりには、心や体に深い傷を負い懸命に生きようとしている人たちに、本当に日本に来れてよかったと思ってもらえるような人権がまもられる社会に変えていく責任があります。この日に原点に立ち返り、しっかりとした行動につなげて前に進んでいきたいと思います。
秦 辰也
近畿大学国際学部 教授、シャンティ国際ボランティア会副会長。1984年から2008年までシャンティの専任スタッフとして活動。活動地での社会開発や人権等の問題にNGOの立場から関わる。SVAバンコク事務所長、アジア地域事務所長、事務局長、専務理事などを経て2008年より近大に入職、現在に至る。
参考資料