【寄稿】難民キャンプから学んだ原点(八木澤 克昌)
年4回発行しているニュースレター「シャンティ」に寄稿いただいたシャンティと深く関わりのある方からの記事をご紹介します。
アジア地域ディレクター
八木澤 克昌
難民問題の本質とは
「パイ、カオイダン」(タイ語でカオイダンへ行きます)が、私がタイで最初に覚えたタイ語の言葉。1980年7月、タイ・カンボジア国境の街アランヤプラテート。この街に常駐してカオイダン・カンボジア難民キャンプへ「図書館」を開設するために毎日、リュックサックに絵本を詰め込みヒッチハイクで通うことから始まりました。
私たちは難民問題の本質は「民族の文化的アイデンティティの喪失の危機」と考えていました。命からがら身一つで祖国を逃れて、難民キャンプに避難する人々がキャンプから持ち出せるものは、教育によって身に着けた知識と手に付けた技術。心にしっかりと自らの文化的アイデンティティを刻めば、将来祖国に帰還した時や第三国定住した時の生きる勇気や尊厳と自立につながると確信していました。
竹とニッパ椰子でできた難民キャンプの図書館では、桑の葉を食べるように無心にカンボジア語の絵本読んでいました。衣食住は、人の体をまもり、命を支える。本は心の栄養になる。難民キャンプでは心の飢えと渇きがある。文字を知ること、学ぶことは人間の生きる力と尊厳につながることを学んだのでした。
銃を絵本に持ち替えた元戦士
カンボジア難民キャンプの経験は、アフガニスタン国内での図書館活動にも生きています。銃を手にしていたムジャヒディン(イスラム戦士)の司令官は、今では絵本を手にして子どもに読み聞かせをしています。「銃を捨て子どもに絵本を」。読み書かせや絵本の力は、宗教、文化にかかわらず普遍的な意味があることを証明しています。
2016年12月10日シャンティ設立35周年記念イベントでの筆者
難民問題は世界の映し鏡
難民問題は、シャンティの原点。私たちがかかわり続けてきたミャンマー難民、アフガニスタン難民の帰還の一歩がより進むことが想定される今年(注:2017年)。難民問題は、私たちの生きる世界の今を映し出す鏡です。難民の人権と尊厳が守られ、帰還が平和的に進むことを現場から難民に寄り添い見守りたいと思います。
本寄稿記事とニュースレターについて
本記事は、シャンティが発行するニュースレター「シャンティVol.289 (2017年春号)」に掲載した巻末言「道」の内容を元に再編集したものです。※ニュースレター「シャンティ」は年4回発行し、会員、アジアの図書館サポーターに最新号を郵送でお届けしています。
シャンティは、子どもたちへ学びの場を届け、必要としている人たちへ教育文化支援を届けています。引き続き、必要な人へ必要な支援を届けられるよう、月々1,000円から継続的に寄付してくださる「アジアの図書館サポーター」を募集しています。