2015.01.12
対談・インタビュー

【対談:第九回】災害と図書館-都道府県立図書館の役割を中心に

対談

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ARG代表取締役 / 岡本 真さん × シャンティ広報課 / 鎌倉 幸子

2015年1月12日 横浜開港記念会館

1月12日に行われた神奈川の県立図書館を考える会主催の【新春特別企画】スペシャルトーク「災害と図書館-都道府県立図書館の役割を中心に」で語られた県立図書館の役割、図書館のアドボカシー活動、震災が起こる前から必要とされることなどをまとめました。

ARG代表取締役 / 岡本 真さん

  • アカデミック・リソース・ガイド代表取締役、プロデューサー。ヤフーにて「Yahoo!知恵袋」などのプロデュースなどを担当し、2009年に起業し現在に至る。日本各地で図書館のプロデュースに関わる。著書に『ウェブでの〈伝わる〉文章の書き方』(講談社)、共編著に『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)ほか。

シャンティ広報課 / 鎌倉 幸子

  • 1999年シャンティに入職。内戦で多くの図書が焼かれてしまったカンボジアに赴任。カンボジア事務所図書館事業コーディネーターとして絵本や紙芝居の出版にも携わる。2007年に帰国。東京事務所海外事業課カンボジア担当、国内事業課長を経て、2011年より広報課長。東日本大震災後、岩手で行っている移動図書館プロジェクトの立ち上げを行う。

降水確率が何パーセントの時に傘を持って外に出ますか

岡本:成人の日という大切な日に、お越しくださいましてありがとうございます。「神奈川の県立図書館を考える会」の主催者の岡本真と申します。
本日は鎌倉幸子さんと「災害と図書館~県立図書館の役割を中心に考える」トークイベントを行います。

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鎌倉:よろしくお願いします。今日ラッキーなことに、快晴で、降水確率が0%だそうです。私はあまり、天気予報を見ないで家を出ることが多く、夕方になって雨に降られて困ることがあります。皆さんは何パーセントの降水確率で傘を持っていこうと決めますか?

会場の参加者:私は、傘は持ち歩かないタイプです。雨が降ると予報されていても、絶対降らないと信じて過ごしています。

鎌倉:降水確率の話をしましたのは、去年(2014年)の12月19日に、政府の地震調査委員会だした全国地震予想地図の最新改訂版の話をしようと思ったからです。これから30年間で、震度6弱が起こる自治体があげられています。横浜市役場がある場所で起こる確率は75%と大変高くなっています。東京都庁は46%、さいたま市役所が51%、千葉市役所が横浜市と同様に高く73%となっています。

岡本:今の鎌倉さんのお話しって、関東に住んでいる方にとっては、全く他人事の話じゃないね。私も横浜は大好きなスポットなんですけど、古い物件も多く、大きな災害や津波が起きた時に大きな被害を受けると思われます。あと5秒後に地震が起こることだって確率的にはありえます。今日は、そこを強く意識しながら、みなさんと一緒に問題意識を深めていければなと思います。

鎌倉:天気予報だと降水確率70%を超えると傘を持つ人が多いのでは。地震だといつ来るかわからないため70%越えていても実感がわかないのか、備えない。今日のトークを聞いていただき、明日来るかもしれない災害に備える機会になればと思いますね。

岡本:私が鎌倉さんと初めて会ったのは2011年6月に岩手県盛岡市で行われたARGカフェ&ARGフェストでした。それから移動図書館の活動をスタートされましたが、海あり山あり谷ありの大変な道のりだったと思います。簡単にご説明お願いします。

「非常時」に求められるのは「平時の連携」

鎌倉:シャンティボランティア会は、1981年に設立され、カンボジアなどのアジア地域で読書推進・図書館事業の活動をしています。ただ、1995年に起きました阪神・淡路大震災の以降、緊急救援の活動は国内外問わず行っています。東日本大震災に関して申しますと、シャンティは3月15日からスタッフが現地入りし、活動は炊き出しや物資配布などを行いました。4月に入り、岩手県陸前高田市などで公共図書館や書店が甚大な被害を受けたのを見て、本を手にする文化を途切れさせないお手伝いができないかと考え、移動図書館の活動を立ち上げました。その土地に土足で入るのではなく、図書館の活動をするのであれば地元の図書館の関係者にまずは挨拶をするのが最低のマナー。そこで、地元の教育委員会の生涯学習課、役場の関連部署の方にまずはお会いしました。今、移動図書館活動を行っている岩手県、宮城県、福島県の県立図書館ともコンタクトを取っています。

岡本:具体的に公共図書館とどんな連携をしたのかを伺いたいと思います。その中で、感じたこと、実際にあったエピソード、またどんな意識の違いがあったかをお聞かせいただけますでしょうか。

鎌倉:役場の図書館担当や図書館員と連絡・連携が取れはじめたのは5月末や6月に入ってからでした。震災直後、避難所等が立ち上がる中で、建物が残っていても図書館は閉鎖となり、図書館員は緊急救援の業務につくケースが多かったです。6月に入ってコンタクトは取れても、図書館業務に戻れない方がたくさんいました。その中でも、図書館員の方は「図書館を早く開けたい」とおっしゃっていました。こんな時だからこそ人々は「情報」や「居場所」が必要なはずだと。役所は住民票や罹災証明書など目的がないと行くことはない。でも図書館は誰にでも扉が開かれているわけです。大船渡市の図書館担当の方が「移動図書館は人々の状況が一番分かる場所だから、移動図書館車を早くまわしたい」と語ってくれました。役場が会議をやっても、家の代表として男性が参加することが多い。でもお母さんは、子どもたちはどんな生活をして悩みを持っているのかを知るためには、その人たちに会う機会を作ることが大切だと。
また図書館との連携を考える時、1つのパターンでは収まりません。公共図書館によって被害の状況が違いました。県立図書館の状況も同様に被害の状況を見ると、違いがありました。

岡本:私も4年間被災地の公民館・図書館・博物館・美術館の支援活動をしています。東北のケースからいえるのは、被災の状況が一様ではないことです。東日本の震災では、津波による災害がクローズアップされてしまいますが、内陸部では揺れによる被害多く見られました。福島県須賀川市では公共施設がほぼ全部壊れています。市役所が壊れ、体育館が壊れ、福祉センターが壊れ、図書館と博物館がかろうじて大丈夫だったのですが、それでも築40年で状態は良くない。まさにケースバイケースで見ないといけません。このような情報は繰り返し伝えていくべきだと思っています。その辺はどう思っていますか?

鎌倉:「災害は忘れたころにやってくる」という言葉があるように、常に意識することが大切だと思います。伝えること、知ってもらうことが大切です。一転お知らせしたいのは、緊急時ではなく平時に何をしているのかが鍵となります。当団体には緊急救援室があり、震災が起きたら出動する部署があります。緊急救援室のスタッフが平時に何をやっているかというと、ネットワーク作り、他団体との情報交換や訓練などです。3月11日に東日本大震災が起きた、その夜にはNPOや社会福祉協議会などの震災関連のメーリングリストに様々な情報が流れてきました。その情報を得ていたからこそ、12日に各地で行われていた会議に出て、早い時期に現場にスタッフを送ることができました。つまり緊急事態が起きた時に何かせねばと動いても遅いのです。
これは県立や市町村の図書館にもいえることだと思っています。平時からネットワークを作り、緊急時のシミュレーションをすること。そしてそれを生かすことを県全体で決めておくことは大切だと思います。宮城県図書館は司書の熊谷慎一郎さんがすぐに市町村の図書館に連絡を取り情報を取っていったのも、日ごろからの関係があったからではないでしょうか。

岡本:今の話すごく共感します。平時の行動の差が現れる。宮城県図書館もガラスが割れたり図書館自体が被災していました。宮城県の市町村の図書館を見ると、南三陸町では図書館の建物の痕跡も分からなくなり、館長が亡くなりました。県の人間としてはサポートしなければならないという仕事が生まれるのです。なるほど平時のネットワークがモノをいう、と思うことがありました。県立図書館側も手が回らない。宮城県図書館から気仙沼市の図書館に行って帰ってきたら、ほぼまる一日かかります。それだけ広い県で、限られたスタッフで県下全域を回りつつ、自分たちの図書館が被災した状況を調べるのは大変です。私は宮城県図書館と協定を結んで活動していますが、県立図書館から「●●市の公民館が被災しているらしいけれど、誰も現状を把握できていない。行って見てきてくれませんか」という依頼がありました。私たちは災害支援者として現場に入っているのですが、このような協力もできたのです。

鎌倉:ばらばらになりがちな情報を、リソースをフル活用して集約する視点はすばらしいですね。

岡本:これも普段から県の職員が自治体の職員と顔合わせの状態があるからできたことです。「県立図書館が信頼している団体なので、受け入れてください」と連絡できるのです。実際その公民館に行き「公民館長さんがスーパーマンのような働きをして30人の命を救っている」とか「ここの本棚がすごく濡れちゃって大変だ」と報告をすることができました。県立図書館が、日ごろから顔の見える関係を作っているからこそです。まさに、県立図書館らしい仕事だと感心しました。

図書館とアドボカシー

鎌倉:県立図書館が平時に行うことで話が盛り上がっておりますが、震災後、図書館を再開させるためには、行政のトップの判断も大きかったと思います。市町村の図書館が「図書館にはこんな役割がある、価値がある」と平時にトップに理解してもらう、内部もアドボカシーも大切なのだと感じました。すると、図書館の再開に理解を示してもらいやすいかと。

岡本:アドボカシーという言葉を聞きなれない方も多いのでは。本来その人が持ってしかるべき権利が失われていることを是正したり、失われることがないよう強く主張することを指します。図書館のアドボカシーは、図書館というのは本来あってしかるべき存在であり、その存在が失われることのないよう、常に大切なものであるということを、強く主張し続ける事というニュアンスを持ちます。震災が起きた3月に図書館を再開させた宮城県気仙沼市の場合は、図書館の館長も務めたことがある教育長に理解があったから。この状況下においてすら、人には図書館に行くという権利がある、それを失ったままにするのはおかしい、と思われていた。

鎌倉:そうですね。緊急時はトップが判断したことが採用されるので、いかに平時にキーパーソンに図書館をアピールするかが鍵ですね。

岡本:あと同時に市民の方が、情報を求め続けるというのもあると思いますね。

鎌倉:平時に、「市民の方が図書館に行けばこういう情報が得られる」とか「図書館を使えば生活が変わる」ということを認識してもらえれば嬉しいですね。そして震災が起きたら、情報の拠点としての図書館への再開を望む声を上げてもらいたいですね。

岡本:いざ様々なインフラが奪われた時に、図書館って連想されやすい場所の一つなんです。図書館が色々な情報を集めて、大きな意義を持つはずです。私が印象に残ったのは、9.11の時ニューヨークの図書館はこぞって情報発信していました。その時私は「図書館ってこんな事するんだ」思いましたが、案外そういう時だからこそ、伝統的な情報機関というのは人々の頭に思い起こされる場所となるのです。市民は、そういう事を図書館に求めていいんだと思います。たとえば、被災地では新聞の戸別宅配制度は完全に崩壊するわけです。そうなった時に、行政サイドが図書館に一元的に情報を集約してくれれば、市民にとっても、助かるはずです。

鎌倉:最近、課題解決型図書館という言葉をよく耳にするようになりました。災害時、「情報」を得ることは生きるために一番急務となりえます。「災害と図書館」の役割の役割はここにあるような気がします。

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会場となった横浜市開港記念館は築97年の建物

災害と図書館

岡本:最後に「災害と図書館」という切り口で考えた時、都道府県立図書館に求められている役割とは何かを、伺いたいと思います。たとえば県立図書館を縮小する方向、もしくは積極的に展開していく方向のどちらも議論されていますが、私自身は、県立図書館の機能を縮小するのではなくて、むしろ強化するべきだと思っています。現在この神奈川県には900万人が住んでいますが、県民の半分は、生きている間に必ず災害に遭遇すると思われます。確実に来たるべき災害に備えて、県立図書館も、日ごろから市町村と積極的なネットワークを作る、顔が見えている関係を作っておくことが、災害が起きた後に人びとのサバイバルを助けることに、繋がっていくと思います。災害のことを考えた時に、県立図書館はまだまだそういう可能性があると、私どもは考えております。改めて、都道府県立図書館の役割はどのようにお考えでしょうか。

鎌倉:県立図書館と市町村図書館は、相互補完の関係にあります。県立図書館の大きい役割は、県の資料をどうきちんと保管して、提供することだと思っています。県立図書館の耐震も課題になる場所もあるかもしれませんが、震災が起き市町村の図書館が被害を受けたとします。資料がほとんど残らなくても県立図書館には保管されていると、その土地の資料の損失は防ぐことができます。地域資料の収集に力を入れていただきたいです。岩手県ではその町で出す広報誌の保管やデジタル化の必要性が叫ばれていました。広報誌は子どもが生まれたり、結婚したり、おじいちゃんが町の賞を取ったことなどが載っている記録です。その記録を次世代に残すセンターとして図書館が担えることもあるのではないかと思います。
また図書館をどのように開館させるか、貸出のシステムを作るかは各自治体に委ねられています。去年の図書館総合展で「福島の図書館を考えよう」というフォーラムをコーディネートしましたが、原発の問題で住めなくなった人たちが仮住まいをしている市町で、避難者に貸出をするか、また長期的に現場に入っている原発作業員に貸出をするか否かはその自治体が決めることとなっています。そのような事例を蓄積して、まとめていただきたいです。
県立同士の連携もさらに深めてはいかがかと思いました。先ほど横浜市や千葉市で大型の地震が起きる確率が高いという話をしました。逆にあまり震災が起こる可能性が低い町も発表されています。まずは北海道札幌市は0.9%です。山陰地方の島根、鳥取も低く、松江市は2%、鳥取市が5%といわれています。貴重な資料はそのような場所に保管するとか、何かあったらそれらの場所にある県立図書館から支援を受ける体制を作るなどできないかと思いました。

岡本:ありがとうございます。最後におっしゃっていたのは「対向支援」ですね。同時に被災することが一般的に考えにくい地域同士で、助け合い関係を作っておくものです。もともとは、中国の四川の大地震の時に、四川に対して北京から支援を入れたことで注目されました。日本でもこの考えが取り入れてきている地域が増えています。神戸市の対向支援先は、仙台市名取市と決まっています。一般的に、姉妹都市協定から発展して防災協定に繋がっていく。図書館の話でいうと、震災後は新潟県立図書館と関東で結ばれ、他にもいくつか結ばれています。今日参加した皆さんにフィードバックしていえるのは、地元の図書館がそういう関係を持っているのかどうか、調べていただく、また聞いてみても良いと思います。実際に支援関係があったことによって、救われたという自治体が、東日本大震災の中でもありました。
大きく話をまとめますと、東日本大震災は大変な震災でありました。現在、震災から4年、また阪神・淡路大震災から20年、更にこれから月日が経っていくわけですが、確実にそこから学べることはあるわけです。そこから次へどのように反映していくかが、常に問われていることだと思います。昔話にしないで、次の知恵に生かしていくことが求められています。災害の話は、実は多様な広がりを持っています。今日のテーマの神奈川県立図書館に限らず、ぜひ皆さんの地域で、お一人お一人の生活を、より豊かに、安全にしていくために、また災害時に何ができるかということを、考えていただけると、良いと思います。
本日のイベントはここでお開きにしたいと思います。ありがとうございました。

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