2015.08.12
読み物

もう二度と難民に戻りたくない

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

こんにちは。
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の菊池です。

連日タイのニュースでミャンマー国内の大洪水の状況が報道されており、タイ国内でも支援の動きが出てきていますが、タイ・ミャンマー国境でも7月以降の大雨の影響で、洪水、土砂崩れが発生しています。難民キャンプの中でも洪水が発生しており(特に、メラウ、メラマルアン難民キャンプ)、さらにキャンプへ続く道も一部土砂崩れの影響で通行止めになることもあり、難民の人々の生活への影響が懸念されています。雨季は10月頃まで続きますが、被害が拡大しないことを願うばかりです。(写真は2013年のメラマルアン難民キャンプの大洪水のときに押し流されてしまった家の様子)

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ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所では、7月に事務局長の難民キャンプ訪問があり、カレン難民委員会(各難民キャンプをまとめている難民を代表する組織。タイ国境には、他にカレニー難民委員会もある。)や各難民キャンプのリーダー、さらにキャンプに住む人々と現在の懸念や、将来について、じっくり話をする機会がありました。今日は、その時に聞いた難民の人々の声をお伝えしたいと思います。

公式に難民キャンプが設立されたのは1984年、キャンプが設立されてから今年で31年になります。実際は、それよりも前にミャンマー国内を離れてきた人びとも多くいます。カレン難民委員会の副委員長であるジョージ氏も、国境のタイ側で暮らして40年近くになります。ジョージ氏は、現在の難民キャンプの状況、そして将来について話してくださいました。「現在の難民キャンプの人口は約11万人。年々国際支援が減っており、特に食糧配給の減少は難民キャンプの人びとの生活に大きな影響があります。現在は、ミャンマー政府と少数民族との間で全土停戦合意について話されており、難民キャンプではUNHCRをはじめ、各難民キャンプと将来的な帰還に向けて話をしています。今は帰還に向けた移行期と言えるでしょう。しかしながら、カレン難民委員会としては、まだ帰還のタイミングではないと考えています。私たちはここに住んで40年近くになりますが、私たちの将来は私たちの手の中にあることも理解しています。もちろん、難民キャンプも永遠に続くわけではありません。しかし、私たちは「その時」を待ち続けているのです。11月にミャンマー国内で総選挙があります。誰がその結果を知っているでしょうか。ミャンマー国内で戦闘が続いている地域もあります。私たちが帰るかどうかを決めるためには、政治、経済を含め様々な状況を勘案しなくてはいけません。そして何よりも、安全、私たちの人間としての尊厳が守られるかどうかによるのです。私たちはもう二度と難民になりたくないのです。ですから、「その時」がいつになるのかをお伝えすることは難しいのです。」 (写真は、カレン難民委員会、カレン難民委員会教育部会との会議の様子)

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メラウ難民キャンプを訪問した際には、多くの難民キャンプ委員会の皆さんが私たちを迎えてくださいました。彼らもまた、現在の難民キャンプが直面している課題について話してくださいました。「私たちはこの難民キャンプに長く住んでいます。このキャンプで生まれた子どもたちもたくさんいます。私たちは皆、ミャンマ―国内で様々な変化が起きていることは知っています。2012年のミャンマー政府とKNUとの停戦合意以降、以前と比較して戦闘が少なくなり、状況が以前よりもよくなりました。現在、帰還に向けた話し合いが行われていますが、率直に言って、帰還に向けた計画についてまだ十分には理解できていません。計画の中では、2015年~2017年で想定される帰還民の数も含まれていましたが、実際は地雷の問題や時の問題もあり、人びとがどこに帰ったらいいのか分からない状況があります。ミャンマー国内を見てみても、国内で暮らす人々は日々の生活でも大変な思いをしており、ミャンマー国内の問題もまだ解決されていないのです。全土停戦合意の後、そのまま経済発展へと向かうのでしょう。その陰で人々の権利が侵害されることはないのでしょうか。私たちが帰還した時には、もう二度と難民に戻りたくないのです。一度で十分です。この難民キャンプの人々は紛争のためにタイにやってきました。私たちが帰るときは、尊厳を持って帰りたいのです。難民キャンプの支援が年々減っており、私たちはこの状況を不安に感じています。特に食糧配給については、2004年~2008年は大人1人1か月で16KGの米の配給がありました。その後、年々減少し、2013年~2014年は各世帯の状況によって異なりますが、多くの家庭で大人1人1か月10KGの配給になりました。そして今年もさらに減少する予定です。多くのドナーは、この難民キャンプは、もう緊急状態にはないと考えています。アメリカは引き続きサポートしてくれていますが、その他の国の支援は減少しています。私たちは、まだ帰還の時ではないと考えています。安全が保障されなければ帰ることはできません。しかし、ドナーもNGOも支援を続けることは難しい状況があります。この状況を受けて、難民キャンプの人々は、間接的に私たちをミャンマーへ押し返そうとしているように感じています。今のところ、私たちはこの難民キャンプで何とか生きていますが、今後も生きていけることを願っています。私たちの願いは、難民キャンプの中でも様々な変化が起きていますが、私たちの限界を越えないでほしいということです。」

難民キャンプ委員会でも、第三国定住を希望される人、可能な限り難民キャンプに居続けたいと話す人、そしていつか安全が保障されたら帰りたいと話す人がおり、皆さん将来の選択は非常に難しいと話していました。先が真っ暗で何も見えない、将来が想像できない、どうすべきかジレンマを感じる、それぞれが胸の中で感じることを話してくださいました。

メラウ難民キャンプ委員会から、最後に、ということで話がありました。「難民キャンプを代表してお伝えしたいことがあります。シャンティはこの難民キャンプで図書館を支援する唯一のNGOです。図書館は、難民キャンプの人々の生活に根ざしていて、多くのものをもたらしてくれます。もし、大きな問題がなければ、難民キャンプが閉じるその時まで、是非支援を続けてください。」その後、キャンプリーダーは、「教育、文化に焦点を当てた皆さんの活動は、難民キャンプの人々を幸せにしてくれます。」と伝えてくださいました。(写真は、メラウ難民キャンプのキャンプ委員会との会議の様子)

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全土停戦合意もいよいよ大詰め、そして11月にはミャンマー国内での総選挙があり、難民キャンプの人々もその過程を見守っています。人々は、もう二度と難民に戻りたくないと思い、自身や家族の安全、人としての尊厳を保障されることを願っています。私にできることは、NGO職員として、現地職員と共に図書館活動を通して彼らに寄り添って、励ましていくことになると思いますが、多くのご支援者の皆さま、関係者の皆さまと協力しながら、彼らを最大限サポートできるように尽力したいと思っています。

難民キャンプの図書館員や教育関係者とも様々な話をしましたので、それはまた今度ブログに書きたいと思います。

ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所
菊池 礼乃