今、ミャンマー(ビルマ)難民が直面していること
こんにちは。
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の菊池です。
国連は、毎年6月20日を「世界難民の日」と定めており、難民の保護や援助に対する理解を深める日となっています。今回のブログでは、改めて、現在ミャンマー(ビルマ)難民が直面している状況について書きたいと思います。
先週、6月23日~25日にアウンサンスーチー国家顧問兼外相のタイ訪問がありました。タイのプラユット暫定首相との間で、タイ国内に300万人いるといわれる(合法、非合法含む)ミャンマー移民労働者の待遇改善や経済協力等について話し合われました。残念ながら、25日に予定されていたタムヒン難民キャンプの訪問は天候の問題で中止となりましたが、国境に滞留する約10万4千人のミャンマー難民については、その時が来たら、ミャンマーとタイで協力して、安全で、尊厳を持った難民の帰還に取り組む旨が話されたようです。国家間での協議が進んでほしいと思う一方で、現場にいると、日々ミャンマー(ビルマ)難民が感じている不安や厳しさに直面します。
ミャンマー難民キャンプでは、近年、難民帰還についての議論が進んできましたが、この1年で帰還準備が加速しています。難民キャンプの代表や国際機関、NGOによって帰還計画が作られ、さらに昨年からは帰還候補地の視察も始まっており、帰還予定地には、シェルターや社会施設が建設されているところもあります。また、帰還の3段階のステップ(①Spontaneous return/難民個人の自発的な帰還、②Facilitated return/国際機関等の援助を受けた帰還、③Promoted return/推進される帰還)のうち、2016年からは2段階目に入ったといわれ、国際機関が各難民キャンプで帰還を希望する難民のリストを作成して、帰還に向けた援助の準備を開始しており、2016年~2017年の乾季の時期(11月~4月頃)には、これまで以上に大きな集団での難民帰還の動きがあると推測されています。また、今年、ミャンマー国内で新政権が発足しましたが、今後新政権と少数民族勢力との話し合いが順調に進めば、難民帰還に向けた動きは一層進むかもしれません。
一方で、難民キャンプに住む人々の生活は非常に厳しくなってきています。国際支援の減少が顕著に難民の生活を圧迫しており、食料配給量や非食料品支援の減少、教育や医療分野での社会サービスの縮小がこの1年でかなり進みました。ミャンマー(ビルマ)難民キャンプで支援活動をする国際NGOは約20団体ありますが、どの団体も資金不足に陥っており、つい先日のNGO会議でも、これまで何十年と活動を続けてきた2団体の事業撤退の発表がありました。さらに、どのNGOも事業縮小を余儀なくされており、地方にある難民キャンプへの支援の拠点となる事務所の閉鎖が相次いでいます。どのNGOも何とか支援活動を継続したいと考えていますが、難民の帰還が先か、NGOの体力が尽きるのが先か、厳しい局面を迎えています。
このような状況の中で、難民自身は、帰還への希望を持っている人もいるとはいえ、まだ多くの人々が帰還を希望しない、または、将来を決めかねている状況があります。ミャンマー国内で紛争や人権侵害の被害にあい、もうミャンマーには絶対に帰りたくないと思っている人々もいれば、難民キャンプの中で生まれ、祖国を知らない若者たちもいますし、さらにキャンプのリーダーたちの判断を待っている人々もいます。将来を決めかねている間に、難民キャンプでの生活は厳しくなり、さらにこれまで長年難民キャンプの指導者としての役割を担ってきた人々が、第三国定住への最終コールの中で、最後の選択をして難民キャンプを離れる状況がこの1~2年続いています。今月中旬、これまで何十年と難民を指導してきた難民委員会の主要メンバーが第三国定住をすることになり、送別会が開催されました。彼は、「私は、このタイミングでこの地を離れることになる。私は、ある者にとってはヒーローであり、ある者にとっては裏切り者だ。それをすべて引き受けて今後生きていかなければならない。」と話していました。これまで難民キャンプを率いてきた人々は、何十年とその役割を担い、今は多くが50~70代です。自分の民族、難民を守っていきたいと思う一方で、自身の体力の限界や家族の将来のためのよりよい選択が目前に迫り、彼らにとっても非常に難しい決断が迫られている状況があります。
見えない将来への不安、食料配給量の減少、社会サービスの削減、長年キャンプを率いてきた指導者の不在など、様々な不安が難民を襲っており、それが難民キャンプでの自殺者の増加、そして若者によるアルコールや麻薬による傷害事件の増加など、難民キャンプ内の社会不安を引き起こしています。このような課題が深刻化しているにもかかわらず、それに対応できるだけのリーダーやNGOの体力が限界に近づいています。
ミャンマー国内では、今年新政権が誕生し、少数民族勢力との停戦合意、和平に向けた話し合いが進もうとしています。ミャンマー国内では政治的な転換点を迎えていますが、実際難民キャンプの人々が目の前にしているのは、現状の苦しくなる生活と、帰還後の見えない生活です。ミャンマー国内の政治課題も多々ある状況ですが、ミャンマー政府には、是非難民の人々が将来に希望を見出せる具体的な環境を作ってほしいと個人的には思っています。
何よりも難民が望んでいるのは、「もう二度と難民とならないこと」であり、帰還に向けては、真の平和が訪れ、身の安全が保障され、そして生計が立てられることを願っています。
シャンティ国際ボランティア会では、難民キャンプがあり続ける限り、図書館活動を通して難民キャンプの人々に寄り添っていきます。現在、難民キャンプでは様々な問題が山積していますが、こういう状況だからこそ、図書館の価値が問われているように思います。図書を通して情報や知識を提供し、文化の維持や創造を促し、コミュニティの人々が安心して集える場所を提供すること。現状で様々なチャレンジがありますが、是非、皆様にもミャンマー(ビルマ)難民が直面する状況に想いを寄せていただき、引き続きシャンティの活動をご支援いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願い致します!
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 菊池