2016.11.02
読み物

難民帰還のパイロットケース

ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ

こんにちは。
ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所の菊池です。

私事ですが、産休を終えて9月から仕事に復帰しました。久々のブログの更新になります!

去る10月25日タムヒン難民キャンプから6名、26日にヌポ難民キャンプから65名合計71名が、国境を越えてミャンマー(ビルマ)へ帰還しました。今回の帰還に当たっては、タイ政府、ミャンマー(ビルマ)政府、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の連携により実施されました。両政府の合意の下での帰還は初めてのケースとなります。

IMG_3612

難民の自主帰還には3段階ありますが、今回の帰還は、2段階目のFacilitated returnの最初のケース(パイロットケース)となりました。
(1) Spontaneous return:難民自身による自発的な帰還
(2) Facilitated return:両政府の合意の下、UNHCRの調整・支援による帰還
(3) Promoted return:更なる支援が入った、促進される規模の大きな帰還

2012年1月のミャンマー(ビルマ)政府とカレン民族同盟(KNU)の停戦合意以降、タイ国境の難民キャンプでは、難民の自主帰還の準備が進められてきました。

2012年にUNHCRが”Framework for Voluntary Repatriation”という帰還に関わる国際基準や原則が書かれた文書を関係者に共有し、その後2013年~2014年にかけてUNHCRとメーファールアン財団により難民の帰還も含めた将来に関わる希望や懸念に関する調査が行われました。2015年初めには、タイ政府とUNHCRが協働して難民の人口確認を行い、11歳以上の難民が個人認証データも含まれたeカード(帰還時にも利用)を受け取っています。また、2014年末~2015年初めにかけて、UNHCRが”Strategic Roadmap for Voluntary Repatriation”という帰還に関わる計画書を、2015年中旬には、”Operational Procedures for Facilitated Voluntary Repatriation”という2段階目のFacilitated returnの実施手順書を関係者に共有しました。この間、難民キャンプの代表、UNHCR、IOM、国際NGO、カレン系組織を含め、帰還に関わるワークショップや会議が何度も開催されており、さらに難民の代表が帰還予定地の視察を行ってきました。2016年に入り、Facilitated returnの準備として、各難民キャンプで帰還を希望する人々のリストが作成され、UNHCRによるインタビューやミャンマー政府の代表によるインタビュー(9月に実施)を経て、今回の10月の帰還へと繋がりました。なお、1段階目のSpontaneous returnは2012年以降、継続して進んでおり、これまで1万人近くの人々が自発的に帰還したと考えられています。

IMG_3631

このように難民の自主帰還に向けた準備が進んできたわけですが、現時点では、帰還を希望する人々(Facilitated returnのリストに載っている人々)は非常に少ないです。ミャンマー(ビルマ)国内では、2015年10月に全土停戦合意があり(少数民族勢力8団体が調印)、2016年には国民民主同盟(NLD)率いる新政権が発足し、難民キャンプの中でも停戦合意を歓迎する声や新政権に期待する声もありますが、タイ・ミャンマー(ビルマ)国境では、この9月にも国軍と少数民族軍との戦闘により避難民が出ている状態もあり、帰還に不安を感じている人々が多くいます。また、実際に帰還するにあたっては、安全が確保されているのか、土地や家、仕事はあるのか、ミャンマーIDを入手できるか、さらに医療や教育などへのアクセスはあるのかなど、そこで生活していくために必要な条件が揃っている必要がありますが、この情報も現時点ではあまり明確になっていません。
先週帰還した難民の状況について、その後ニュースで多少伝えられていますが、帰還前に想定していた状況と異なると話しているご家族もいるようで(ヤンゴンに帰還した家族が住宅を購入する必要がある等)、事前の情報提供含めまだまだ課題があるようです。

今回の帰還のパイロットケースは、タイ・ミャンマー(ビルマ)国境の難民問題の解決に向けた大きな一歩になったと思いますが、様々な課題が見えているのも事実なので、難民が抱える不安をひとつひとつ解消し、尊厳ある帰還が実現してほしいと思っています。

ミャンマー(ビルマ)難民事業事務所 菊池