義足の図書館員の先生が教えてくれたこと
その学校は、かつて激しい戦闘が行われた、地雷原だった場所にあります。
私が出会ったその学校の図書館員の先生は、かつて兵士でした。
意志の強そうな、パッと見、ちょっとこわもての先生。
つい最近、彼の片足が義足であることを知りました。
義足の人や片足をなくして松葉づえをつく人は、ここバッタンバンでは珍しいことでもなんでもありません。でも、自分が知っている図書館員の先生もそうだとは知らず、びっくりしました。
私が初めてその学校を訪ねたのは2013年11月。図書館事業の対象校選定のためでした。
対象校を選ぶときには、いろいろ確認するところはありますが、一番に見るのは先生です。私たちが実施する事業では、学校側も自分たちでコストを負担し、図書室を将来的に運営していく意思があることが前提になります。実際、支援を決めた後も、先生たちに自分で一部のお金は集めてもらい、図書館の改装をしてもらったりします。ですから、やる気がある先生に出会うと、「きっと大丈夫」と思います。
一年ぶりに訪問したその図書室は、先生たちが約束を果たして、きれいに壁が塗り替えられてありました。そして、私たちが届けた本や本棚が並べられていました。
図書館員の先生は笑顔で迎えてくれて、少ししかクメール語がわからない私に一生懸命、すごくうれしそうに話しかけてくれました。
「子どもが、本当にたくさん図書館に来るんだよ。午前中は休み時間が2回あるんだけど、もうたくさん来て大変なんだ!」
手を大きく振り回して「本当にたくさん来るんだ!」という先生は、こういったらなんですが、おじさんながら、なんだかかわいくて、少し笑ってしまいました。
ふと以前、アフガニスタンの先生が言っていたと、人づてに聞いた言葉を思い出しました。
「私はかつて、兵士として銃をとって戦っていた。でも今は絵本を使って子どもたちに教えることができてうれしい。」
実は、その図書館員の先生がかつて兵士だったと聞いたとき、『どちら側』の兵士だったのだろう、と気になりました。
けれども、先生を見ていてなんだかどちらでもいいような気がしました。どうでもいい、というわけではありません。やっぱり気にはなります。ただ、「子どもが来てうれしい」と笑顔で話していることは、本物だと思いました。
「他の学校の図書館では、床にシートを張って、図書室をもっときれいにしていたんだ。これから村の人たちに呼びかけて、シートを買うお金を集めるんだよ。」
と、これまたうれしそうに話します。
しばらくするとチャイムが鳴って、先生はにやりと笑いました。
図書室から外に出て見てみると、教室から出てきた子どもたちが次から次へと図書室へ。
先生は、「ほらね」と笑って、その横で子どもたちは、むさぼるように絵本をひっつかんで、声を上げてすごい勢いで読み始めました。全身で絵本を飲み込んでいるみたいに。
床がコンクリートだから、テーブルに座って本を読む子どももたくさん。
確かにシートがあった方がいいですね。
さらにきれいになった図書室を、今度また見たいです。
子どもには、やさしいきれいなものを届けたいですよね。
素敵なものに出会えて、「本当にうれしい」と思ったある日のことでした。
カンボジア事務所 調整員
萩原 宏子