2022.02.15
シャンティな人たち

所長座談会「最前線からいま思うこと」

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座談会

最前線からいま思うこと

普段はラオス、ネパール、カンボジア、ミャンマーにいる各事務所の所長4名による座談会をオンラインにて開催しました。紛争や災害といった困難な状況に加え、2020年から続くコロナ禍にも対応しながら、現場の最前線で活動を続ける姿は、シャンティを体現しています。そんな4名が、これからも大切にしたいシャンティの良さ、理想的な将来像を語りました。

これからも受け継いでいきたいシャンティの良さ

加瀬:

青年海外協力隊時代として活動していた頃は現地の人たちの頑張りを支えるのが役割でした。嫌な顔をされることもありましたが、なかにはもっとたくさん知りたいと言ってくれる人もいたのです。その時に、自分が主役というよりも、そこにいる人たちがどうしたら心を燃やして活動に取り組めるのかということを考え始めました。それから『地球寂静』(団体設立メンバーのひとり、有馬実成氏による著書)を読んだとき、自分が感じていたことは「ボランティア触媒論」だったのだと共感しました。ボランティア触媒論は大切にしていきたいですね。

玉利:

現地に拠点を持っている団体として、途上国政府の考えや、場合によっては国際的な潮流を踏まえながら、現地のニーズを大切にすること。そして、実際に彼らが自立するために、どういったサポートが必要なのか、という視点を持った活動が大切だと思います。特に、現地職員の知見や情報を大切に、かつ日本人職員が持っている各国での経験やグローバルな視点を融合させることで、良い事業の計画・実施ができると思います。

鈴木:

玉利さんが現場のニーズや視点を考えるときに、いつも気を付けていることはありますか。

玉利:

まずは相手の話を聞くということですね。ワークショップ形式を導入するなど、できる限り本音をきくようにしています。

子どもたちと絵本を楽しむ玉利

中原:

”Think globaly, Act localy” という言葉を有馬さんから教えていただいて、それを軸に現場で向き合ってきました。

鈴木:

これまで事務所開設に携わることが多かった中原さんが事務所を立ち上げる時に大切にしていることを知りたいです。

中原:

シャンティが誕生して今に至るまで組織として成長してきましたが、根底にあるものは変わっていないと思います。どういう思いでこの団体が作られたのかを大事に伝えていくことが大切だと思います。特に新しい現場で活動を開始するときには、新しい種を植えるわけで、国によって違う色の花が咲くことは素晴らしいと思うのですが、根幹は同じであってほしいと思います。そういう意味で有馬さんが残したたくさんの言葉や、ほかの諸先輩方の思いなどしっかり伝えることを心がけています。

三宅:

私が思う受け継ぐべきシャンティの良さの1つ目は、開発や人道支援において文化を大切にしていることですね。難民は着の身着のままで逃れてきて、難民キャンプにたどり着くわけですよね。ただ、何も持っていないなかで、唯一文化は持っていて、シャンティはこのそれぞれの文化を基礎にしていろいろな支援をする。たとえば、本も外国から持ってくるだけではなく、カンボジアの民話を収集しての出版や、アフガニスタンでは昔話や民話から絵本や紙芝居を制作しました。現地の人たちが良いと思えるものを大切にする、それが文化を大切にするということだと思います。

2つ目は、シャンティの「共に生き、共に学ぶ」という姿勢です。技術革新も、人々の行動変容にも学びが必要です。学ぶことで、社会のなかで責任を持ちながら生活し、貢献していくことができる。生きているから学ぶのではなく、学びこそが生存を保証するということだと考えています。

シャンティは、事業として教育を大事にするだけではなく、社会、経済、政治など、あらゆる難民において学びが先行する社会を目指していますよね。ユネスコが「共に生きるために学ぶ」というスローガンを出したのは、2000年くらいのことです。有馬さんはもっと前からそのことを提唱し、今も普遍的な価値をもたらしていると思います。

ミャンマーで活動中の中原

シャンティだからこそできること

加瀬:

現地職員と話すと、支援の受け手と直接コミュニケーションしながら事業を進められることがすごくうれしいし、シャンティの強みだと言っています。受益者一人ひとりの人生と経験、それぞれが持っている尊厳を大切にして事業を行う姿勢があると感じます。

玉利:

シャンティは自ら形成した案件を実施するために、形成過程で抱いた想いや考えを実施時にも反映させることができ、事業実施中に「ちょっと当初の想いと違うな」となれば軌道修正ができます。つまり、形成時の想いや目的を達成するために主体的に事業の実施に取り組み、さらに事業実施後の評価まで一貫して行うことができるわけですよね。一方、団体によっては、案件形成者と実施者が異なり、事業実施が契約に縛られて、本当に受益者にとって必要な活動を行うことが困難なケースもあるかと思います。私たちは受益者のニーズを最優先に考え、それを満たすために、積極的にドナーとの交渉にも努めます。そういう点もひとつの特徴なのかなと思います。

あともう1点、プロジェクトベースの協力では3年から4年の期間が終了したら撤退してしまうことが多々ありますが、シャンティの場合は各地に拠点があるので、長期的な視点で課題に取り組むことができます。また、長年事業を実施してきた経験豊富な現地職員もおり、活動地の状況を良く知り、行政機関と関係を築いていることも強みだと思います。

中原:

独自でユニークなアイデアを柔軟に取り入れて事業にするのが得意な団体だと思います。

あと、教育支援だけではなく、教育文化支援という枠組みが特徴だと思います。日本からの絵本を現地語で配布したり、少数民族地域やスラム地域で子どもたちを対象に、自分たちの民族の証に気づき、継承できるような後方支援をしたり。これらの活動を教育文化活動の枠組みの中で実施しているというのは、大事な取り組みだなと思っています。

ミャンマーでクーデターが起きる前は、カレン州の担当者と、“ミャンマー子ども文化祭”ができたらいいなという話をしていました。しばらくは難しいと思いますが、少数民族が多数いるような多民族国家において、心から多民族・異文化をお互い尊重しあって、理解しあえる学びの場は必要だと思っています。公教育としてではなく、社会にそういう場があると良いですし、シャンティだからこそできることだと思います。

三宅:

NGOはサービスを提供するだけではなく、変革の担い手としての役割があります。シャンティは、SDG’sの達成に向けたアドボカシー、政策提言、キャンペーンを行う教育協力NGOネットワーク(JNNE)で主導的役割も担っています。もう一点は、難民などの人道危機や、自然災害後において、図書活動ができる経験とノウハウがあります。図書活動は技術的なインプットが必要なので、我々の経験は大いに活かすことができると思います。

活動地で読み聞かせをする加瀬

理想的な将来像

玉利:

10年後でさえよくわからない時代ですが、現在では想像できない課題に対して、先進国・途上国に関わらず、さまざまなアクターと協力しながら対応していくのが理想なのかなと思います。

加瀬:

必要なのは、異なる社会を受容できる世の中の理解だと思います。それこそシャンティがそのための触媒になるということかもしれません。国を越えた友好関係や人と人をつなげるような役割が担えたらと思います。

中原:

日本が抱える問題も増え、国際社会においても地球規模の取り組みとして一丸となって取り組まないといけない社会になっていくと思うと、共に未来をつくりあげていくような関係性のなかに、シャンティが存在しているといいのかなと思いますね。

三宅:

SDGsの時代になって、地球規模課題は途上国だけじゃなくて、日本を含め先進国のなかにもたくさんあることが広く知られてきましたよね。八木澤さん(シャンティアジア地域ディレクター)がよく言っていますが、カンボジアの子どもは学校に行きたくても行けない。日本の子どもは学校に行きたくないのに、行かないといけない。どちらがつらい状況か、考えてしまいます。国内課題と国際課題の両方に取り組み、両者をつなげるということが、シャンティが目指すべき「触媒」としての役割なのだと思います。

新しく建設したネパールの図書館を訪問する三宅

コロナ禍のため、座談会は2021年8月11日に5事務所とつなぎオンラインで行いました。

スピーカーの紹介

中原 亜紀

肩書:ミャンマー事務所 所長

1998年入職。

漢字でシャンティを表すと「変」。自分たちも相手と共に「変わる」過程で目指す社会をつくる。

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加瀬 貴

肩書:カンボジア事務所 所長

2013年入職。

それぞれが主体となって選んでいくことができる社会を目指したいという思いを持ち、漢字でシャンティを表すとすれば「選」

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三宅 隆史

肩書:ネパール事務所 所長

1994年入職。

社会や経済、政治などに先行して、なによりも学びが世の中をつくると考えており、漢字でシャンティを表すと「学」

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玉利 清隆

肩書:ラオス事務所 所長

2014年入職。

現場の声を聞きながら、共に共通理解を持って活動していくことをモットーにしており、シャンティを漢字で表すとすれば、共存の「共」

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聞き手

鈴木 晶子

肩書:広報・リレーションズ課

2005年入職。

シャンティを漢字で表すと「創」。活動地の人々、現地職員、東京事務所の職員、シャンティを応援し一緒に歩んでくださる皆さんによってシャンティは創られてきました。