2023.07.28
シャンティな人たち

難民キャンプで実感した、図書館や本の力。 困難な状況にある子どもたちにもっと届けていきたい_菊池礼乃

キャリア
スタッフインタビュー
スタッフの声

タイ・ミャンマーの国境の町メーソット。耳にしたことがある人がほとんどいないであろうこの町に、人生で2回も出会い、さらに7年間も活動した職員がシャンティにはいます。そんな稀有な存在が、現在はカンボジア事務所で所長を務める、菊池 礼乃(きくち あやの)です。学生時代から国際協力の道を志し歩んできたその道のりと、今後にかける想いをお届けします。

シャンティ国際ボランティア会
カンボジア事務所 所長
菊池 礼乃(きくち あやの)


国際協力への思いはありつつも一般企業へ就職。そして訪れた「25歳事変」

はじめて海外に関心を持ったのは幼少期。日本人の父と韓国人の母の間に生まれた菊池は、小学校に入る前に訪れた韓国で、日本とは異なる文化にふれたことが衝撃的だったことを今でも覚えているそうです。

菊池「たしかまだ幼稚園生くらいのころ、韓国の市場に行ったときに、大きい豚の頭がドンと置いてあったことが衝撃的で。隣の国でも、日本と違う環境があるんだと思ったことを覚えています。それから自分が行ったことがない国に関心を持つようになりました」

茨城で高校までを過ごし、海外への興味はありつつも、海外で仕事をするためには何をすればいいのかわからないまま、大学へ進学。そこで菊池の世界が大きく広がる出会いがありました。

菊池「進学した大学のボランティアセンターのお祭りがあって、いろいろな団体がブースを出している中に“日韓アジア基金”と言う団体があったんです。日本と韓国の人が協力してアジアの識字教育の支援に取り組むことで日韓の歴史の壁を乗り越えることを目指す団体ですごく惹かれました。

私は日本と韓国のどちらもアイデンティティとして持っているものの、当時は韓国のことを全然知らず、ずっとモヤモヤしていて…。日韓アジア基金の取り組みには、私だからこそできることがあるのではないかと感じたんです。」

そこから活動に積極的に参加するようになり、国際協力の世界を知った菊池は、大学卒業後そのまま国際協力の道に進むことも考えましたが「一度は社会に出たほうが良い」という先輩社会人からアドバイスをうけ、一般企業に就職しました。しかし社会人3年目がたつころ、菊池いわく「25歳事変」が。

菊池「会社で学ぶことはたくさんあったのですが、自分がやりたいことと現実のギャップがだんだんと大きくなってきて、どうしていったらよいのだろうかと、自分のこれからのことをすごく悩みました。その時に、やっぱり私がやりたいことは国際協力だ!と気づいて。25歳の時に退職し、そこからはジェトロ・アジア経済研究所の開発スクール(当時)に通いました。会社を退職した時は、これまで歩んできた人生のレールから外れてしまったと率直に感じたのですが、そこから気持ちが吹っ切れて、自分で自分の道を作って行こうと決意しました。」

国際協力に対する自身の想いを新たにした菊池は開発スクールに1年間通った後、イギリス留学にも行くことを決め、留学前に海外インターンにも参加しました。

菊池「留学前に、タイとミャンマーの国境にあるメーソットという町で、移民労働者への法律支援などに取り組む現地のNGOで1か月間インターンをしました。そのNGOでスーパーバイザーとして働く同い年ぐらいの女性と出会ったのですが、彼女は難民で、幼い時にタイに逃れて来て、タイで育ち、さらにこれから第三国定住でアメリカに行くことを望んでいました。いろいろな話をするなかで、彼女は、自分のアイデンティティはどこにあるんだろうか?と悩んでいて…。難しい問いですが、私自身が高校生ぐらいの時にそう感じていたこともあり、すごく共感しました。そこから、政治的な理由や紛争などで逃れてきた人たちの、特に若い人たちが抱える葛藤をもっと知って、寄り添いたいと思うようになりました」

そうしてイギリスで学びを深め、難民支援の分野で国際機関でのインターンを経験し、草の根で活動しているNGOの難民支援に携わりたいと考えていたところ、シャンティとの出会いが訪れます。

菊池「ちょうどNGOの採用を探していたら、シャンティのミャンマー(ビルマ)難民事業事務所(当時、以下BRC事務所募集をしていたんです。しかも、活動地がメーソット!私が以前に行ったことのある場所だったことに運命を感じてすぐに応募しました」


2009年に現地NGOでインターンをしたときに訪問した難民キャンプ

導かれるようにシャンティに入職。“自分にもできるはず”は勘違いだった

こうして運命に導かれるように2011年3月末にシャンティに入職。ちょうどそのころのシャンティは東日本大震災後の対応でバタつく中、1か月間の研修を受けてメーソットの事務所(BRC事務所)へ赴くことに。

菊池「当時は震災直後で日本が大変な状況のなか、海外へ行くことに対して思うところもありましたが、自分にできることを一生懸命頑張ろうと決めました。2011年4月から2年ほどインターンとして活動し、そこから調整員として現地事務所の職員になり、プロジェクトマネージャーなどを担当しながら2018年の10月まで現地事務所にいました」

前職では一般企業に勤務していた菊池にとって、NGOで働く中でどのような気づきがあったのでしょうか。

菊池「国際協力に携わりたいという思いから、海外インターンをしたり、イギリスへ大学院留学をしたりしていたので、“自分はいろいろできるはず”と思って入職したのですが、それは大きな勘違いでした。大学院で教育や難民について文献上では学んでいましたが、難民の人と関わるようになって、実際のところは何もわかっていなかったと気づきましたし、直接人と関わらないと見えてこない世界だということがわかりました」

図書館活動も当初は教育活動の一環として捉えていたそうですが、活動を進めるうちに、図書やシャンティの活動が、難民の方のアイデンティティや尊厳に深く入り込んでいるということを、難民の人たちから教わり、認識が大きく変わったと話します。

菊池「難民キャンプのリーダーとの話で印象に残っているものがあります。その方が言っていたのは、私たちが生きていくために不可欠なアイデンティティは、自分たちの言葉や文化の上に成り立っていて、シャンティの図書館や文化活動はそれらを支えてくれている。自分たちの尊厳を守っていく上で大事な活動だ、と。この言葉を聞いた時に、シャンティが継続して活動してきた意義を感じたとともに、現地の人に寄り添い、お互いに理解しながら活動していかないといけないと改めて思いました」

菊池がBRC事務所で活動に取り組んだ2011年から2018年は、2011年に民政移管がおこったことをきっかけに、ミャンマーが大きく変化したタイミングでもありました。

菊池「タイとミャンマーの国境には橋が架かっているのですが、私が赴任した当初は通れない状態でした。でも半年後にはミャンマー側に渡れるようになり、さらに2~3年後にはヤンゴンまで行けるようになって…。物理的にも社会的にも変化が大きい数年でした。2018年からミャンマーのカレン州での事業立ち上げ準備を進めていたのですが、大きな葛藤があったのはそのころです。タイ側の難民キャンプの事業をどうするか、コミュニティ図書館の運営をどうするか…。帰還という選択肢も生まれ、難民の人たちが口々に不安を漏らす中で、図書館は人々の心のよりどころでもあるので残したいと思う一方、外部環境の変化によって難民キャンプ内の事業を縮小せざるを得ない…。判断していく上で大きな葛藤がありました」

悩みつつも現地に寄り添った事業計画を立案した後、2018年に日本へ帰国。11月から事業サポート課に入り、2019年の7月から現職を務めています。

菊池「事業サポート課は海外事務所の事務所運営や事業運営のサポートする役割を担っています。課長として各国の海外事務所の職員と共にその国のニーズに合った教育事業を実施することを支えています。あとは、資金調達や、さまざまなネットワークに加盟して情報収集した内容を海外事務所に提供したり、安全管理に関わるネットワークの世話人なども務めています」

事業サポート課の課長になった直後にコロナ禍、そして2021年にはミャンマーのクーデター、アフガニスタンでも政変が起こりました。

菊池「こういった状況でも、教育の機会をしっかり届けていかないといけないというのは私自身強く思っています。こういう時だからこそ、子どもたちの学びを絶やしてはいけないという同じ思いを共有しながら、各国事務所で働く仲間と進んでいるというのは、大きなモチベーションになっています。仲間に背中をおされて頑張れる場面がたくさんありますね」


難民キャンプの子どもたちと一緒に

絵本や図書館の力を信じて、これからも前へ

今年に入ってから、菊池は絵本専門士の認定を受けました。絵本専門士とは、読み聞かせやおはなし会、ワークショップなど実際に本を使って行う取り組みや、絵本に関する知識をもって行う指導・助言など幅広い役割を担う絵本の専門家です。

菊池「絵本専門士の認定を取りたいと思ったのは、シャンティとしても大切にしてきた読書推進や絵本について、もっと学びたいと思ったのがきっかけです。絵本について学んで、その効果について知って、実践に移したいというのもありますし、純粋にもっといろいろな人におはなしを届けていきたいと思ったんです。先日モルドバへ初動調査に行ったときも感じたのですが、子どもたちがストレスや傷を抱えている時に、大人や周りの人が絵本を読んであげることで心のサポートになるんですよね。紛争下などの厳しい環境にいる子どもたちが、少しでもほっとできるようなおはなしを届けていきたいと強く思いました」

絵本専門士を取得するまでに、改めて自分自身にできることを見つめなおしたと話します。

菊池「私にできることのひとつとして、おはなしが子どもたちに届く環境を整えていくことだと改めて思ったんです。シャンティの活動地はもちろん、これまでシャンティの活動地ではなかった場所にも、おはなしを聞くことができる機会をこれからもっと広げていけると良いな、と思っているところです。機会を生み出していくと同時に、保護者や先生などが子どもたちにもっとおはなしを届けられるような研修なども実施していけたらいいですね」

シャンティに入ってからより一層、図書館の力や絵本の力を感じた菊池の紡ぐ1ページは、これからも国境を越えて続いていきます。

プロフィール 菊池 礼乃(きくち あやの)

2006年  大学を卒業。一般企業へ就職。
2008年  一般企業を退職。ジェトロ・アジア経済研究所の開発スクール(当時)入学。メーソットにて海外インターンを経験
2009年  イギリスへ大学院留学。国際機関でインターンを経験。
2011年  シャンティ入職。ミャンマー(ビルマ)国境支援事業事務所へ。インターンからはじまり、調整員、プロジェクトマネージャーとしてコミュニティ図書館事業に従事。
2018年11月  帰国し、事業サポート課に。
2019年7月  事業サポート課 課長
2023年4月 カンボジア事務所 所長(現職)

企画・編集:広報・リレーションズ課 平島容子
インタビュー・執筆:高橋明日香
インタビュー実施:2022年7月14日