2022.08.08
シャンティな人たち

アジアでの現場経験を糧に、活動地の取り組みを支える立場として。

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シャンティは、2019年に2024年までの中期経営計画を発表しました。その背景には、2020年に団体設立40年を迎えるにあたり、団体のミッションである「共に生き、共に学ぶ」ことのできる社会の実現に向けて、より一層事業を推進していく必要性がありました。体制も一部変更となり、2019年に事務局長に就任した山本英里は、海外の現場で長年シャンティの活動に従事してきました。今回は、山本のこれまでのあゆみや活動にかける想いをお伝えします。

シャンティ国際ボランティア会
事務局長 兼 アフガニスタン事務所 所長
山本 英里(やまもと えり)


幼少期の疑問が、さまざまな出会いを経て、今につながっている

2019年7月、シャンティの事務局長に女性として初めて就任した山本英里(やまもとえり)は、大学院卒業直後からシャンティの活動に携わるようになり、世界各国で支援活動を行ってきました。

そんな山本ですが、国際協力に関心を持ったのは大学時代での偶然の出会いがきっかけだった、と話します。

山本 「幼少期から両親の仕事の関係で、周囲に障害を持つ子どもがいる環境で育ちました。そこで『なぜ障害を持っているとコミュニティの中で生きにくいのだろう?』と漠然とした疑問を抱いていたんです。そのころに『きっと、社会構造に課題があって、不平等を生み出しているのでは』と問題意識を持ちました」

その問題意識から、山本は大学で福祉学部を選び、進学。“知的障害児が地域でどう生きるか”をテーマに学びました。

ちょうどそのころ、山本にひとつの転機が訪れます。大学時代に福祉関係のボランティアに取り組んでいたことから、アジア太平洋地域のソーシャルワーカー協会が開催したタイでのシンポジウムに参加したときのことです。

山本「シンポジウムで、日本国内の課題とアジアにおける課題の大きなギャップを目の当たりにして、本当の意味での “貧困 ”や“差別”がどういうものなのかを知らなければいけない、と思いました」

こうした想いを抱きながら、シンポジウム参加後はバックパッカーとして、タイの少数民族が住む北部の山岳地帯を訪れました。その山岳地帯で目にしたのは、貧困の現状。少数民族が尊厳や文化・習慣を守りつつ、貧困を脱却するということはどういうことなのかを考え始めたそうです。

社会構造への疑問から、貧困問題への問題意識、そして少数民族の文化・伝統を守りながら貧困を脱却する術とは……。幼少期から漠然と抱いていた社会構造への疑問の焦点を定めていった山本は、大学卒業後、さらに学びを深めたいと、イギリスの大学院に進学します。

やがて大学院卒業後「現地の状況を自分の目でしっかり見てみたい」と思った山本は“子どもの貧困”をキーワードに、現地で活動することのできる団体を探し始めました。そんなときに見つけたのが、シャンティのバンコク事務所におけるボランティア募集だったのです。


世界を共にしたパスポート

変化する社会の中で、変わらないことを地道に続けることの難しさ

早速シャンティのバンコク事務所でのボランティア募集に応募した山本でしたが、そこにはおもいがけない試練が待ち構えていました。

山本 「まず言われたのが『スラムに自力でたどり着いたらいいよ』ということでした。この日のこの時間に待ち合わせ、というところまでしか決まっていなくて、たどり着けたら第一関門突破。

受け入れる側としては、生半可な気持ちで来られても困る、という意図だったと思うのですが、スラムでの住所は一般的に地図に明記されていなかったので、今でもずっと覚えていますね。」

無事に待ち合わせ場所にたどり着き、ボランティア活動を開始した山本でしたが、バンコク事務所で活動を開始して半年経ったころ、2001年9月11日アメリカ同時多発テロが起こり、国内情勢が悪化していたアフガニスタンへ向かうことになりました。

山本「当時、アフガニスタンの復興に向けて日本政府が支援を表明して、ユニセフ主導で“Back to School(学校に戻ろう)”という大規模キャンペーンを実施することになったんです。そこにシャンティからも人を派遣することになり、その一員として、ユニセフのアフガニスタン事務所に出向しました」

ユニセフへの出向が終了したあとも、山本はそのままシャンティのアフガニスタン事務所開設のために、2003年から6年ほど同国の活動に携わりました。その活動は、難民の子どもたちへの緊急支援や、学校建設と図書館活動を中心とする教育文化支援事業など多岐に渡りました。

その後も、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプやカンボジア、ネパール、そして2017年からは東京事務所で各国事務所の活動を支えることに尽力してきた山本ですが、これまでで一番大変だった時期は、アフガニスタン時代の事務所立ち上げのころだと語ります。

山本 「当時のアフガニスタンは治安も悪く、全てがゼロからのスタートでした。それに、女性でいることの制約がとても大きく、カルチャーショックでもあり、活動を進めていく上で難しい場面が多かったです。

現地で関わるのは、ほぼ男性ばかりで、男性社会のなかでやっていかないといけない。でも、だからこそ女性が入っていく必要性があると思いました」

シャンティのアフガニスタン事務所には、今では女性の現地職員も働いていますが、そもそも女性が働きにでることすら反対を受ける場面が多く、まだまだ女性の学ぶ機会や社会進出の機会は十分であるとは言えません。

山本 「教育を一切受けてこなかった子どもたちと接するなかで、貧困問題や社会構造の解決に向けて、当事者が知識を得て選択をしていくことの重要性を実感しました。長期的に課題を解決するためには、やはり教育が必要不可欠であるということが、アフガニスタンにいるときに腑に落ちたんです」

しかし、シャンティが取り組む教育文化支援は人の成長とともにあり、一朝一夕で成果が出るものではありません。そこには続けることの難しさがあると山本は話します。

山本 「教育文化支援は時間がかかり、とても地道な作業が必要なんです。建設や物資提供などとは異なり、成果がすぐに目に見えません。現地で支援を受ける側、支援する側も含め、教育に関する支援への共通理解を生むことが難しいのが現状です」

アフガニスタンのユニセフ出向時

やりがいは、長く取り組むなかでだんだんと花開く活動成果

成果が目に見えにくい教育文化支援に取り組むなかで、山本の支えとなっているのはどんなことなのでしょうか。

山本 「現地で活動していると、まったく本を読んだことのない子どもたちや、学校現場で新たに教える手法を身に付けた先生たちの表情と目の輝きが、どんどん変わってくるのが見られるんです。人が力をつける、ということを目の当たりにすることが支えになりますね。

また、教育文化支援活動は、時間が経つと想像していなかった新たな発見や成果が花開くことがあります。先達たちがシャンティでの活動に長く取り組んできたことで、何年も前からやってきたことの成果が徐々に見えてきて、改めてやりがいを感じていますね。

私自身、シャンティに入って5年目ぐらいのころは、苦労して取り組んでも成果がなかなか実感できず、つらかったことを覚えています。でも 10年、15年経つと、支援してきた学校や教育の現場で予想を超える成果が見えてくることもあり面白いです。このやりがいや面白さは、これから経験を積んでいく職員にぜひ伝えていきたいですね」

また、活動を続けるうえでの動力には、山本のなかで特に印象に残っている、アフガニスタンで出会った男の子との出会いがありました。

山本 「保護施設から逃げてきた 10歳ぐらいの男の子でした。犯罪を繰り返しながらモスクで寝泊まりしていたようで、モスクの方から連絡があって、昼間はシャンティの子ども図書館に来るようになったんです」

その子はやせ細っていて、顔つきもきつく、初めはほかの子どもたちとも馴染めずにいたそう。しかし、徐々に昼間は図書館に来るようになり、遠巻きにただ絵本や紙芝居のお話を聞いて、モスクへ帰っていくという日々が始まりました。

山本 「そんなある日、彼がお話を聞きながら、すやすやと本当に子どもらしい表情で安心して眠っていたんです。そこから少しずつ顔つきも変わっていって、図書館の職員に話をするようになっていきました。最後は、もう家に帰ります、といって図書館に訪れることはなくなったんですが……」

紛争地や貧困状態においては、子どもが子どもでいられる居場所が限られており、シャンティではそんな子どもたちのためにも図書館を開いています。

山本 「私たちにできることは、絵本を読んであげるなどの活動を通して居場所を提供するしかないんですが、このことが子どもに与える影響を目の当たりにしたような気がしていました。その一方で、おとなとして、子どもたちに対してできることはまだまだあるんじゃないかと、今でも彼のことを思い出すときがあります」


アフガニスタンの図書館にて

海外での経験を生かして、これからは活動を支える立場に

タイ、アフガニスタン、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、カンボジア、ネパール…。そして緊急支援先も含めると全6ヵ国、シャンティの活動のほとんどを海外で取り組んできた山本ですが、2019年7月に事務局長に就任してからは事務局長としてシャンティの発展と継続を組織運営の軸として考えています。

山本 「これまでずっと海外の現場で活動してきましたが、これからは各国の活動を支える東京での役割を全うできればと思っています。」

シャンティが活動する上で大事にしてきた価値感や、人との関係性に基づいたアプローチによって、活動地では成果が徐々に見られるようになりました。山本はシャンティの活動において一貫している、人々に寄り添い、草の根レベルで共に社会課題を解決する同士として切磋琢磨していくアプローチの大切さを、より多くの方々に伝えていきたいと考えています。

山本 「教育文化支援は時間がかかる取り組みで、一度途切れるとゼロからのスタートになってしまいます。途切れないためには組織力の強化も図っていきたいです。

組織を運営する上で、女性だから、男性だから、ということはあまり関係がないと思っています。一方で、女性職員が多いので、女性がNGOで仕事を続けていける環境を、国内だけではなく海外も含めて、整えていけたらと思います」

変化する社会に柔軟に対応していくことは重要ですが、一方で、変わらず地道に続けることも必要。その難しさを実感しているからこそ、その先に、想像していなかった景色があると山本は話します。シャンティはこれからもすべての人が自分らしく生きることができる社会を目指して、40年目を迎えてもなお、変わらず活動に取り組んでいきます。

 


親子向けワークショップにて(2019年)

プロフィール 山本英里(やまもと えり)

静岡県浜松市出身。
2001年 インターンとしてタイ事務所に参加
2002年 ユニセフに出向しアフガニスタンで教育復興事業に従事。
2003年 シャンティのアフガニスタン、パキスタン、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、カンボジア、ネパールでの教育支援、緊急救援に携わる。
2019年 事務局長 兼 アフガニスタン事務所 所長(現職)

企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
インタビュー・執筆:高橋明日香
インタビュー実施:2020年5月22日