2022.05.20
読み物

記念対談 vol.2 JANIC理事長本木恵介さん×市川斉【NGOの組織作り】

キャリア
スタッフの声
対談

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会40年記念対談
【NGOの組織作り】

学生時代から児童買春問題に取り組み、自ら団体を立ち上げ活動を続ける本木氏と、海外の現場と日本で組織を作る経験を積んだ市川所長。理想と現実に葛藤しつつ、持続的な活動のために組織基盤を固め、働きやすい環境を整えることに注力してきた二人が、「社会をよくするプロフェッショナル」として、NGOの組織作りについて語ります。

対談日:2020年10月1日


 

NGOの在り方を考える

市川:シャンティに入職してから30年がたとうとしています。この間、NGOの組織経営やキャリアの考え方が大きく変わってきたと感じています。私は、アフガニスタン事務所での事業運営を経て、日本で組織経営やマネジメントを担う立場でしたが、その都度マネジメントの難しさに直面してきました。ある時、職員から私のやり方に疑問を投げかけられたことがあり、そこからリーダーシップやマネジメントを真剣に考えるようになりました。

本木:わかります。僕もカンボジアで仕事をしていたころ、スタッフとなかなかうまくいかず、ミーティング中に呼吸ができなくなって思わずトイレに駆け込んで深呼吸したことがありました。当時は、戦略的に正しいことを追い求めすぎて、人を傷つけたり、自分が傷ついていました。そういう経験を通して、自分のコミュニケーションがいかに相手にインパクトを与えるのかがわかりました。
ところで、新型コロナウイルスの感染拡大によって、NGOでも在宅勤務が増えています。働き方も含め、日本のNGOはどうあるべきなのだろうと考えることが多くなってきました。どう思われますか。

市川:そうですね。NGOの働き方は大きく変わりましたね。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年日本に戻ってきてからはミャンマー事務所の職員とオンラインで仕事をしています。オンラインを活用するようになったことで、現地職員を中心とした事業運営が加速したように感じています。これからのNGOは働く場所や組織を越えてミッションごとにチームを作り、やり遂げたら解散するというような柔軟なやり方もあるでしょうね。

本木:私もそう考えています。企業だけではなくNGOも在宅勤務が増え、オフィスに長く滞在する必要性がなくなりました。複数の仕事を同時に持つことへの抵抗感もだいぶ減ったと感じています。これからは、個人がより力を持ち、必要な時に、必要なネットワークを作ってプロジェクトを展開することが増えると思います。その一方で、大規模災害のような緊急事態に備えて、スピーディーかつダイナミックに活動を展開できる、専門性が高く堅牢なNGOも必要だという気がします。

市川:どちらの動きも必要ですね。私はNGOの職員がプロとして持続的に活動を行うには、給与も重要だと思います。2008年から10年ほど執行部に在籍していたのですが、職員の給与体系を作る時に、何を基準にしたら良いのかすごく悩みました。職員が安心して勤務できるような給与体系が整備できていない時代でした。

本木:2000年代に入り、NGOは給与体系や福利厚生、規程類を整備するなど組織運営を見直す流れが強かったと思います。そのおかげで、NGOの待遇もだいぶ改善されたと思います。一方で、報酬とは何かを考えると賃金だけでなく人間関係も大事だと思っています。さまざまな人と会って一緒に仕事をすることで、自分の人生の豊かさにつながると感じています。


カンボジアのコミュニティファクトリー

NGOにしか果たせない役割とは

市川:阪神淡路大震災発生後、災害支援をしている先輩から言われた言葉があるんです。「どんなに民主主義が発展しても最大多数の幸福しか機能として果たさない。NGOというのは残りの1人、仕組みから外れている人に寄り添い耳を傾けることだよ」と。この言葉で目が覚めました。セーフティネットから漏れ、声を出すことができない人にどう寄り添うのか。それを考えるのがNGOの仕事であり、強みなのだと感じた時でした。

本木:まさに僕もそう思っています。インドのシェルターにいた女性のようにかき消されてしまうような声に耳を傾けて、共に活動するのがNGOなのだろうと。今グローバル化に歯止めがかかっていて、国同士の衝突や対立が高まる可能性もあります。ですが、国や民族、思想といった違いを豊さに変える力が、NGOにはある気がするんです。

市川:「経済のグローバル化はできたけれど、市民社会のグローバル化はまだされていない」と言われますよね。そこに先手を打つのがNGOだと僕は信じたい。活動を通して、国境を超えた市民社会を実現させたいですね。

ミャンマー事務所職員と

プロフィール

かものはしプロジェクト共同創業者・理事長、JANIC理事長
本木恵介

認定NPO法人かものはしプロジェクト共同創業者・理事長。インドで「子どもが売られる問題」をなくすための活動を、日本で子どもの不条理をなくすための活動を行っている。
2019年、認定NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の理事長に就任。
NPO法人SALASUSU理事。特定非営利活動法人新公益連盟幹事。

地球市民事業課 課長
市川斉

1990年シャンティ入職。阪神淡路大震災で神戸事務所長後、緊急救援活動に関わる。アフガニスタン事務所長、海外事業課長、事務局次長(経理総務課長兼務)、常務理事に従事。2019年7月よりミャンマー事務所長を経て現職。ジャパン・プラットフォーム副代表、国際協力NGOセンター副理事長など歴任。

企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
編集:藤原千尋、高橋明日香