2022.06.22
読み物

記念対談 vol3. NHKワールド シニア・ディレクター 道傳(どうでん) 愛子さん×山本 英里【選択肢が広がる場】

スタッフの声
対談

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会40年記念対談
【選択肢が広がる場】

これまでにアジア各国の教育、ジェンダー、難民など人間の安全保障に関わる問題を取材し、現在はNHKワールドのシニア・ディレクターを務める道傳(どうでん)愛子さんと、アフガニスタン駐在の経験からアフガニスタン事務所 所長を事務局長と兼任する山本英里が、女性にとっての図書館の役割や、今後の発展の在り方について語りました。


対談日:2021年6月1日


女の子の居場所としての図書館

山本:2002年から7年ほどアフガニスタンに駐在していたのですが、最初女性は私一人でした。現地での課題解決に向けて女性職員を募集してみたところ、面接に旦那さんが付いてきて本人とは話せなかったり、二人きりのときしか顔を見せてくれなかったり、採用の場面でも困難がありました。
こうして入ってくれた職員と一緒に、子どもたちの居場所を作りたいと始めたのが、子ども図書館でした。多い時では1日に160人ほどの子どもたちが訪れ、そのうち半数が女の子。図書館では、自由に絵本を読んだり読み聞かせをしたりするのと同時に、女の子たちの趣味を作る活動も行っていました。ビーズや刺繍など、それぞれが好きなものをつくるところから始めて、最近では技術に長けている子も出てきました。将来的に商品化できないかという話があがってきているほどです。シャンティができることは、このように学校外でもさまざまな場を生み出して、チャンスが得られる機会を増やしていくことなのだと思います。

道傳:選択するためには選択肢がないといけない一方、置かれた環境の中で、選択肢があることすら知らない女の子や子どもたちが数多くいるという現状ですよね。
シャンティの活動地では、子どもたちはまず図書館という場を知り、そこで本を読むという選択をして、そこからさらに世界が広がっていくという経験をする。そのような機会が生み出されています。本を読んで楽しい、というだけではなく、本を読むことで生きていくための選択肢が広がっていく。そんな場を生み出しているのがシャンティだと感じます。


子ども図書館に通う子どもたち

目指すべき理想像をもう一度描くべき時

山本:シャンティを含め業界全体として、どのような発展を理想像とするかはこれから考えていくべきことの一つだと思います。
たとえば、アフガニスタン職員が来日した時、日本の発展に驚き、目を輝かせる反面、自分たちはこれを求めているわけではないと口をそろえて言うんですよね。たとえば広大な敷地と緑豊かな国を守りつつ、自分たちの発展や女性の権利も含めて、理想的な将来をどう描くか、もう一度考えるべき段階に来ているように強く感じています。選択肢が広がることの意味を一緒に考えていかないといけないのかなって。

道傳:現地の方たちあっての開発であり、発展ですよね。

山本:私たちの手法はすごく時間がかかると感じる一方、対話を重ねて起こった変化は、着実に根付いていくという実感があります。本を1冊読んだからといって次の日から何かが変わるわけではないのですが、その積み重ねで知識や想像力が培われて、一人ひとりが行動を起こして変わっていくという様子を実際に目にしてきました。

道傳:この長引くコロナ禍で、さまざまな社会課題がより見えるようになってきたことで、現状のままでよいのか?という疑問や気づきを持った人はたくさんいると思います。そこからいざ何か行動しようと思ったときに、シャンティが「触媒」として組織と個人をつないだり、アドバイスをしたり、大きなムーブメントにつなげていくことができるに違いないと思います。そのムーブメントのなかに私個人、そしてメディアも入れていただきたいです。


刺繍を学ぶ子どもたち

 

記念対談を行った後の8月15日、タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧後、勝利宣言を行いました。
この状況を受け、道傳さんと山本事務局長が緊急に追加対談を行いました。

過去20年で改善が進んだ教育分野。これからの教育の機会をどう守るか

道傳:情勢が本当に急変して、誰もが驚いています。シャンティの皆さんは長年アフガニスタンで活動していますが、どのように見ていますか。

山本:8月に入ってタリバンの侵攻が続くなかで、じわじわと時が迫ってきているのは感じていましたが、8月15日になるとは予想以上の早さでした。オンライン会議中に、現地職員の家族から「住んでいる地域がタリバンに陥落された」という連絡が入って。何かが崩れ去ったような気持ちでした。

道傳:以前、日本人職員が常駐できないといった制約がある中で、自立的に活動を進められるように伴走してきたというお話がありました。これからも、そういう形で活動を続けていかれるのですか。

山本:2008年からアフガニスタンに日本人職員を置くことができない状態が続いていましたが、通常は日本人職員が担うような役割も含めて、アフガニスタンでは主に現地職員が中心となって事業を進めていました。10年以上前から定期的に来日し、日本の支援者の想いや、東京事務所の動き方などについて知る機会を設けていたので理解も深いですし、これからも現地職員主導で活動を進めていければと考えています。

道傳:今後の活動への影響や、心配なことはどういうことでしょうか。

山本:私たちが活動してきた教育分野は、アフガニスタンの数ある課題のなかでも、20年間で飛躍的に改善が進んだと感じていますが、まだ質の面で課題を抱えており、今後どのように教育の機会が守られていくのかという懸念があります。
ただ、90年代と違うのは、現時点でタリバン政権も教育を受けること自体は否定していませんし、訓練をうけた先生の数も増えています。
100%今まで通りの活動は難しいと思いますが、20年前もゼロから進めてきたので、もう一度やるしかない、と現地職員とも話をしているところです。


屋外で絵本を読む子どもたち

これまでの積み重ねを希望にして

道傳:現在の活動はどのような形なのでしょうか。

山本:私たちの活動がどういう形で受けいれられるか、一緒に事業を進めていた教育省関係者と情報交換しながら、暫定政権と調整をし始めました。絵本もすべて職員が内容を改めて確認して厳選するなど、また少しずつ配布する準備を進めています。
また、これからも継続してシャンティでの勤務を希望している女性職員のために、環境整備や安全の確保も含めて、彼女たちの働く権利を担保できるように模索しています。

道傳:これまでの積み重ねを思うとやりきれない気持ちになりますが、確実に育った人材がいますよね。人材だけではなく、教育の重要性を知った大人、本を読むことの楽しさを知った子どもたちも。そういった人たちの存在に希望がありますね。

山本:そうですね。子ども図書館にきていた子どもたちが大人になり、自分の子どもを図書館に連れてきてくれたり、学校の先生も給料がいつ支払われるかわからない状況の中、毎日生徒のために来てくれて。
こうしたことはこの20年間での大きな変化だと思いますし、彼らをどうやって支えていくかが今後重要になってくると感じています。

プロフィール

NHKワールド シニア・ディレクター 道傳 愛子

2000年から、バンコク特派員としてASEAN地域の政治・経済、タイ・ミャンマー・ラオス・カンボジアなどで教育、ジェンダー、難民など人間の安全保障に関わる問題を取材。訳書に『マララ 教育のために立ち上がり、世界を変えた少女』(岩崎書店)がある。国際政治学修士。

事務局長 兼 アフガニスタン事務所 所長 山本 英里

2002年より、アフガニスタンに7年間駐在。その後、パキスタン、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、カンボジア、ネパールでの教育支援、緊急救援に携わる。2019年より現職。
アジア南太平洋基礎・成人教育協議会(ASPBAE)理事、特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)理事。

アフガニスタンで何が起きたのか
8月15日にタリバンがアフガニスタンの首都であるカブールを制圧し、翌日には勝利宣言を行いました。現在、国内の武力衝突などは落ち着いているものの、行政や経済活動はままならず、それに加えて長年にわたる紛争、干ばつなどの自然災害によっても多くの市民は困窮し、その数は国民の半数以上にも及ぶといわれています。
シャンティでは、制圧前から予定していた食料などを届ける支援を中断し、現在は関係機関と活動再開の可能性について調整を進めています。また教育支援についても、中央政府による今後の教育政策は極めて不透明で、どこまで活動が可能かを協議しています。職員の安全を第一に、必要な支援を継続できるよう模索を続けています。

企画・編集:広報・リレーションズ課 鈴木晶子
編集:藤原千尋、高橋明日香