2024.06.07
お寺の取り組み

カンボジアスタディツアー体験記①

スタディツアー
参加者の声


ポルポト時代に虐殺された方々を供養しているプノンサンパウ霊場

昨年12月18日から4泊6日で、カンボジアでスタディツアーを開催しました。7名の僧侶の方にご参加いただき、カンボジアの僧侶が社会とどう関わっているのか、社会平和の実現に向けてどのような活動を行っているのか、寺院での交流や宿泊を通して、仏教の役割について共に考えてきました。参加された方の中から3名にツアーで感じたことや学びを紹介していただきます。1人目は静岡県焼津市 曹洞宗成道寺住職の伊久美一也さんです。

プロフィール

伊久美一也
静岡県焼津市 成道寺住職
就職氷河期世代。新聞奨学生を経て、都内で30代半ばまでIT系社会人。認知行動療法やヴィパッサナー瞑想に触れる中で仏教に関心を持ち、仏縁をいただいて永平寺に安居(修行)し、住職を勤めている。

「カンボジア・学び多き旅」

カンボジアの歴史と見てきたもの
令和5年12月、シャンティのカンボジアスタディツアーに参加させていただきました。密度の高いスケジュールで、幅広い体験と学びをいただくことができました。カンボジアは、共産主義による知的階層とみなされた人々への虐殺、そこから逃れるための難民という痛ましい過去と、そこからの復興という歴史を背負っています。また、シャンティの活動もカンボジアからタイ国境に逃れた難民への支援から始まっています。
スタディツアーの参加は今回2回目になりますが、現地の方と共に坐り、朝課諷経を行い、食事の布施をいただく、という僧侶同士ならではの体験をさせていただくことができました。私からは、ツアーの中で特に印象に残ったことについて書かせていただきます。


難民キャンプから帰還した遺骨を納めた慰霊塔へ読経

開発のための仏教(アンロンウィル寺)
印象に残ったものの一つが、アンロンウィル寺内にある「開発のための仏教(Buddhism For Development)」というNGOを設立した、元僧侶のモニチェンダ氏の考えです。「開発のための仏教」は、平和回復や、経済的、社会的発展、人権回復や民主主義構築や個人や社会、自然との調和に向けた実践に仏教の価値を用いることを企図したNGOです。団体についてのプレゼンテーションを聞かせていただいたのですが、その際に「日本は経済的には発展したかもしれないが、その中で日本にあった宗教的な価値を毀損してしまった。カンボジアの発展ではその価値を守りたい」という話を聞きました。日本では経済発展によって失われたものについて、再三話題に上がっていたことがありますが、カンボジアの方がそのことに憂慮されているということに驚きがあると同時に、改めて今後、日本で失われたことに対して、なすべきことは何かを考えざるを得ませんでした。

現地僧侶と対話(ポークノン寺)
次に印象に残ったものは、ポークノン寺での現地僧侶の方との交流です。互いにプレゼンテーションを実施し、その後二つのグループに分かれてディスカッションや質問をさせていただく、という体験です。この寺院では、シャンティの現地職員関係者が修行体験をされていた縁もあり、互いに心を近くして交流することができありがたく思いました。
ディスカッションの中で上座部仏教の僧侶はどのようにスマートフォンを使うのか、という質問をしました。彼らがSNSをかなり使いこなしていることは聞いていたのですが、スマートフォンは依存のリスクや、スマートマネーとして使うことができるため、どのように捉えて使用しているのか、ということが気になっていました。
この点について、彼らは「心を制御して使う」と答えてくれました。彼らは自分の心を観察し、判別しながらスマートフォンとの関係も律(ルール)で守る、という発想があるのでしょう。スマートフォンに対する律は存在しないですが、心を制御することを念頭において、新しいものにも応用させている様子がうかがえました。
翻って私たち日本人は、与えられたルールは「守ること」と、思考を入れずに捉えがちです(少なくとも私はそうなりがちです)。そもそもそのルールは、何を守るために設けられたものなのかを問うことがなければ、ルールだけが絶対視され、その意味がしっかりと考えられないままのこともあります。他方で、カンボジアでは学ぶことは出家するという言葉と同義であると聞きます。カンボジア人僧侶の「心を制御して」という姿勢に、「ルールの本質を考える」という形で学びが実践されているのではないか、という思いに至ります。
また、彼らからの質問では、仏教ではなく神道について問われることが多く「なぜ日本では仏教と神道が共存して信仰する人が多いのか」ということについての議論となりました。専門ではありませんが、日本が本地垂迹説を用いて神仏習合を行い、明治時代に神仏分離後も続いている側面についてまでを伝えさせていただきました。その際に、シャンティ専門アドバイザーの手束耕治さんのフォローにより、カンボジアにも土着の自然信仰があることも話題にあがり、日本での信仰との共通点の話をさせていただきました。


ポークノン寺での交流の様子

帰国後の交流
今年の1月1日、石川県能登地方でマグニチュード7.6を記録する地震が発生しました。
昨年末にカンボジアから帰国した私は、現地で出会った僧侶の方と連絡を取り合っていました。彼からのメッセージには「ブッタの智慧で災害に遭われた方々が救われるように」とありました。

〈Sareth Brak師からのメッセージ〉
Good afternoon dear Dharma’s friend, we just got more details about earthquake news now. We are so sorry to hear that and may victims (died) be free suffering and rest in peace. our thoughts are you all.
May power Dharma practice and prayer for you all be safe and good.

メッセージをいただいたのは1月2日で、まだ被害についての詳細は伝わっていなかったものの、私はその時点ではブッダの智慧によって被害者が救われることについての思いは考えが及んではいませんでした。それだけカンボジア人僧侶にとってブッダの智慧との距離が近いということなのかもしれません。
シャンティのツアーについて、これまではどちらかというと支援をする側としての関わりを視察するツアーと考えていましたが、今回は異なりました。カンボジア社会での仏教のあり方と交流させてもらうことで、私にとっての仏教の捉え方を新たに学ばせていただいたと感じています。ありがとうございました。


アンロンウィル小学校の図書室で子どもたちと記念撮影

このスタディツアーの行程や募集内容などは、こちらからご確認いただけます。
今後もスタディツアーの開催を予定してまいりますので、ご関心のある方は奮ってお問い合わせいただけますと幸いです。

広報・リレーションズ課 日比洸紹
メール:hibi@sva.or.jp